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異世界でモンスター学博士(美少女)の助手になりました  作者: 高橋グリム
第1章 ドラゴンタートルの首元
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第3話 異世界でモンスター学博士(美少女)の助手になりました

「いい食べっぷりだ! はは! こんなのにおいしそうに食べるやつは初めて見た!」


 俺は食べた。

 すさまじい勢いで。

 鳥のもも肉、なんだかわからない生き物の開き、ポトフ、何の卵を使ったかわからないオムレツ、硬いパン、マッシュポテト――。

 半分は食べたことのないものだったが、関係なく口に押し込んだ。


 俺たちは、町の食堂に来ていた。

 昼時は過ぎているのか、人影はまばらだ。

 店員さんは、俺が大量に注文したおかげで、ご機嫌といった感じで、店内には明るい雰囲気が漂っている。


「いったいどれだけ食べてなかったんだ?」


 女の子はおもしろいものでも見るようにして俺を凝視している。


「一日」

「一日でこんなに? 食いしん坊なんだな、君は!」


 ケラケラと明るく笑う女の子。


「よーし、どんどん食べろ! 金はわたしが全部払う!」

「お言葉に甘えさせてもらうよ、えーっと」

「アメリー。アメリー・フリエルだ。君は?」

「カズヤ。カズヤ・ヒノタニ」

「オーケイ、よろしくカズヤ!」


 がしっと、俺たちはテーブルの上で握手した。

 と、


「ここにいたのねアメリー!!」


 扉をけり開けるようにして、女性が一人入ってきた。

 長い美しい赤毛だ。

 瞳は切れ長で、体もすらっと細いので、大人っぽい印象を受ける。


「おおジェシカ? どうした? 顔が髪の毛みたいに真っ赤だぞ?」

「喧嘩売ってんのかコラァ!!」


 ドン! と女性――ジェシカはテーブルを拳でぶん殴った。見た目に反して、言動はまったく大人げない感じだ。


「どうしたもこうしたもないわよ! あんた結界の外に行ったんだって!? 一人じゃ危ないから行くなって言ったじゃないの!」

「だって仕方ないだろう? ユニオンが護衛を手配してくれないんだから」


 アメリーは肩をすくめると、カップに入った飲み物をすすった。

 俺も同じものを飲んでいるが、どうもお茶のようだ。


「当たり前でしょうが。あんたはいま謹慎中でしょ? 無期限の研究禁止中なんだから。研究目的の利用は全部ダメってわかってるでしょ」

「そう。だから一人で行った」

「少しくらい研究休もうとか思わないわけ?」

「いいか? わたしは学者だ。研究することは呼吸することと同じ。研究をやめるのは死ぬときだ」


 アメリーが椅子にふんぞり返って言うと、ジェシカは大きくため息をついた。


「カッコつけたってね、死んじゃったら元も子もないんだからさ」

「あーもう、うるさい!」


 アメリーはガタンと音を立てて立ち上がると、


「帰る! 店長、お代はつけといてくれ」


 店を飛び出していった。

 俺は大慌てで彼女のあとを追いかける。



「ったく、ジェシカのやつ、ユニオンの人間なんだから少しくらい融通してくれたっていいじゃないか。ケチ! わからずや! 頭でっかち!」


 アメリーは道を歩きながら悪態をついていた。


「君もそう思うだろう?」


 横に並ぶなり、話しかけられた。


「たかだか一本の論文で、この処分はいったい何なんだ!? 重要な発見なんだぞ!? 学会全体で検討し、ことの真偽をきちんと確定しなければ……」

「いったい何があったんだ?」

「あーわたしとしたことが。わたしの名前を知らなかった君が、わたしに降りかかった不幸を知っているわけがないじゃないか」


 どうやらこのアメリーという女の子は有名人らしい。俺が知らないのは当然のことだが、悪いことをしたな、と思う。


「まあ簡単な話、わたしは大学の職を追われたんだ。教会にとって都合の悪い研究をしたせいでな」

「都合の悪い?」

「またの名を、冒涜的な研究」


 俺の頭に浮かんだのは、マッドサイエンティストという単語だった。

 この子が?

 そんな風には見えないけどな……まあちょっと変わってるような気はするけど。


「だが完全な言いがかりだ。わたしの論文を注意深く読めば、わたしがどれだけ信仰を大切にしているかが理解できるはずだ。わたしに言わせれば、むしろやつらのほうが冒涜的なんだ。神がおつくりになった世界の真の姿を見ようとしない、やつらのほうが!」

「どんな研究したんだ?」


 アメリーは立ち止まると、俺のほうを向き、


「生物は世代を越えて変化するという仮説を提示したんだ!」


 ほとんど唾が飛んできそうな勢いで言ってきた。

 俺は思わず、アメリーのことを見つめていた。

 その青い瞳はキラキラ輝いていて、吸い込まれそうなくらい綺麗だった。

 かすかに上気した顔は心底楽しそうで、本当に本当に研究が大好きなんだ、というのがよくわかった。

 好きなことを夢中で語る人は、すごく魅力的だと、俺は思う。

 俺がぼーっと呆けた顔で見つめていると、


「はあ」


 その魅力的な顔が一気に暗くなった。


「そうか、そうだよな……君だって一般人。わたしが言っていることなんて一ミリも理解できない。仕方ないことだとは思うが、それでもまあ、うん……辛いものだな」


 アメリーは俺に背を向けて肩を落とした。

 俺は思い出す。

 彼女は自分の研究が原因で大学を追われた、と。

 ジェシカとの会話を聞くに、処分は相当重くて、研究をかなり妨害されているみたいだ。


「いや、理解できなかったわけじゃない。生物は世代を進むにつれて、自然選択され、形を変えていくって話だろ? 進化論、でいいのかな?」


 いわゆる、人間はサルから進化したっていうアレだ。

 日本の高校生だったら誰でも知ってる。

 だが、


「そうだよ、そのとおり! 進化論だ! 君、わたしの論文を読んだんだな!?」


 アメリーは目をまん丸くして、食いついてきた。


「え? いや、そういうわけじゃないけど……」

「じゃあいったいどこで聞いたんだ!? あるいは自分で考えたのか!?」


 マズイ、生物の授業で聞いたなんて言えるわけないし……。


「――酒場で誰かが話してるのを聞いたんだ」

「ほう。わたしの論文も、それなりに読まれていた、ということか。ふむ。で、君はこの説についてどう思うんだ?」

「どうって……正しいんじゃないのか?」


 わりと俺が暮らしてた世界では当たり前の考え方だけど……ここじゃそうじゃないのか?


「そう、わたしは正しいと思ってる。だがな、聡明な君には信じられないかもしれないが、ほとんどの人間はわたしの説を理解できていない。教会なぞ、異端思想だと言って怒り狂っている」

「どうして」

「教会が怒っている理由か? 変なやつだな。進化論が理解できるのに、そちらは理解できないのか……まあ彼らの考えでは、生物は神がおつくりになったその瞬間から変化していないのだそうだ。神は完璧にこの世界をおつくりになった。だから変化など必要ない、と」


 俺は理解する。

 いまでも日本以外の国では、進化論を教えない学校も存在すると聞く。

 創造説、と言うんだっけ?

 さっきから教会という単語がよく出てくるし、きっとこの世界は宗教的――特に、一神教的な世界観が強いんだろう。

 何教と言うのかはわからないが。

 だから進化論が突飛な思想だとされ、それを唱えたアメリーは干されてしまったのだ。


「いやでもおかしいだろ」


 俺は言う。


「神様がこの世界を作ったんだとして、別に変化しちゃいけない理由にはならない。変化しないほうが完全だなんて、誰が決めたんだ?」

「そう、わたしもそう思うんだ! だからやつらのほうが冒涜的だ。真実を歪めることは神に対する背信だ!」


 アメリーが先ほどまでの元気を取り戻す。

 俺はほっとした。

 彼女の暗い表情なんて見たくない。


「素晴らしい。君は素晴らしいよ! よし、決めた。今日からわたしの助手になれ!」

「助手? 俺がアメリーの?」

「嫌か?」


 眉をハの字にして、しゅんとなるアメリー。


「いや、そういうわけじゃなくて……俺なんかに務まるのかなって。アメリーは大学の先生だったんだろ?」


 俺には自信がなかった。

 俺は、落ちこぼれだ。

 高校三年生で、受験を控えているけれど、センター試験レベルの問題すらまともに解けない。

 クラスの連中も学校の先生も、はては親までが、俺は現役で大学に行くのは不可能だと考えている。

 大学にすら入れない俺が、大学の先生の助手なんて、できるわけがない、と思った。

 だが、


「君にしかできないんだ」


 アメリーは真剣なまなざしで、言った。


「いまのところわたしの説を理解できたのは、君だけなんだから」


 それは――俺が初めて見る、熱いまなざしだった。

 彼女は、俺を必要としてくれている。

 だったらそれに応えない理由なんて、あるか?

 ないだろう。


「わかった。よろしく頼むよ」

「ああ、よろしく!」

 ぱーっと表情を明るくして、アメリーは俺の手を握りしめた。

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