王宮へ
「起きて!起きて!!」
俺の意識はミシェの声と振動によって浮上した。
「なんだよ。」
ゆっくりと目を開けると心配そうなミシェの顔と青空が目に入った。続いて上半身を上げようとすると後頭部に激痛が走った。
「なんだ?」
覚えのない痛みに顔をしかめる俺にミシェはバツの悪そうな顔をした。
「ごめん、久しぶりすぎて重力をかけすぎて思い切り落としちゃって。」
テヘッとばかりに舌を出す彼女にとりあえずデコピンしてからあたりを見回し自分の現在地を確認する。
「ここは?」
「えっと、頭打って気絶したハクを背負って路地裏に駆け込んだんだけど、どうすればいいかわからなくて。」
路地から少し出てみると王宮からは意外に近いようだった。高い建物の間から城壁が見えた。
「あっちの方向に行けば着くだろ。」
俺の指さした先にあるものを見て彼女は顔を輝かせる。
「わぁ!かっこいい!!」
彼女は俺の体を軽々とお姫様抱っこして路地から飛び出し、そのまま足に翼が生えているように空気を蹴って走り出した。
「は、え、あぁ~?」
いきなり空に飛び立った俺らを見上げ、人々が口を開けている。飛び続ける彼女の長い金色の髪を隠すため彼女の肩のショールを頭に巻く。
「髪、隠さねぇとビーグルだってばれるだろ。」
不思議そうに俺をみた彼女は頷き、無邪気そうに笑い声を振りまきながら一瞬で王宮への距離を半分まで駆け続けた。
だが、突然前に飛び出してきた何かによって俺たちは空中で急ブレーキを掛けさせられた。
「わ!!」
ミシェが急ブレーキを掛けたことで俺の体は勢いよく前にせり出し、そのまま飛び出してきた人影に突っ込んだ。
「大丈夫ですか?」
漆黒のコートに身を包んだその男は俺の顔をその同じく漆黒の瞳で覗き込んだ。
「え?あ、はい。」
そういって頷いた俺は彼から発せられる異様な雰囲気に息を飲んだ。
「こいつ、なんか変!?」
だが、身を捩った俺の動きはミシェが空中で少し前に出たことで封じられた。
「こんにちは!イケメンさんですね!」
そう言うと彼女はいきなり彼の左手を包み込んだ。彼女の手の内で爆発音が鳴り、辺りに光が広がった。
「いきなり攻撃とは、ご挨拶ですね~?」
一瞬何が起こったのかわからなかったがミシェは少し焦げかけた手を舐めて治癒魔法をかけながらにやりと笑ったのを見て彼女が爆発魔法を片手だけで抑え込んだことが分かった。
「直接握りこんだとはいえ私に傷を負わせるとは、なかなかやりますね。」
彼女の前に立ちふさがった彼は漆黒のコートを翻した。
「ビークルのあなたにお褒めいただけるとは光栄です。」
左手を胸にあてた彼は軽く会釈をした。
「私、シャスと申します。この国の、国王を務めるものです。今日はあなたの意志確認を来たのです。」
「こ、国王様!?」
声を上げた俺を一目見ると彼は優しく笑った。
「君は魔力持ち(サウマタジスト)のハク君だったか、久しぶりだね。」
「覚えておいでだったんですか?!」
その問いには答えず笑った彼は視線を俺からミシェに移した。
「意思確認ってどういうことなの?」
ミシェが聞くと彼は頷いた。
「あなたが我が国に害をなさないことを確認しに来たのです。あなたが我々人間に害をなすものと判断した場合は…」
「どうするの?私を殺してみる?」
不敵に笑った彼女はヒラヒラと俺を抱えたまま飛び回る。対して彼は笑顔を絶やさぬまま答えた。
「そうですね、それも、いいかもしれません。」
言うが早いか手を前に出した陛下はミシェと俺に向けて炎の竜を呼び出し攻撃し始めた。だが、竜の攻撃はミシェが指を一回鳴らすと竜もろとも消えてしまった。
「やっぱり無理ですか。」
手をひらひらと振りながら彼は完璧な笑みを浮かべた。
「無理よ。今の人間では少なくとも私には勝てないわ。」
とにかく、とミシェは俺を抱く力を強める。
「私は人間に危害を加える気はないわよ?」
ミシェがそういうと彼は目を細めた
「やはり…そうですか。」
「え?」
彼の答えにどこか引っかかるものを感じた俺に彼は何か隠すように微笑んだ。
「なんでもありません、ではハク君、王城まで報告よろしくお願いしますね。」
「は、はい!」
俺が返事をすると彼は現れたとき同様に煙のように突然消えてしまった。ミシェは彼のいた場所を一回まわりそこの空気を一度掴むような素振りを見せた。
「めんどくさ~い!ここまで来たんだからここで報告終わりでいいじゃない。」
そういったミシェはまた俺を両手に抱えなおして王宮のほうへとまた空気を蹴って進み始めた。