王宮へ
窓から差し込んだ光と鳥の鳴き声で目を覚ました。自室とは違う高級そうなシーツとスプリングのいいベッドに一瞬どこに居るのか分からなかったが直ぐに昨晩のことを思い出した。
『衝突まであと1年よ、どうするかよく考えてみて。』
部屋の外でミシェが言っていた言葉を思い出す。返事はしなかった。
「くそっ」
自分がどうしようもなく弱い事を思い知ったような気がした。おびえて何もできないのは嫌だったが協力すると言ってしまうと衝突することを認めてしまうような気がした。
―おれは、何もできないのか…
ベッドに後ろから倒れ込み息を吐く。その時ノックの音がしてミシェが入って来た。
身体を起こして目を伏せる。
「おはよう」
「お、おう」
彼女の方を見ようともせずに返事をした。彼女は元気のないハクに気が付いたようでため息をつき彼の隣に腰かけた。
「昨日のこと、考えてくれた?」
自分の膝に置かれた白く小さな手を見つめて力なく首を振る。
「そう…」
静かになった広い部屋の中で鳥の声だけが響く。
「もしも、嫌だったらいいのよ。言ってくれれば契約を解除してあげる。」
目を伏せた彼女は小さな体を一層小さくしていった。いうべき言葉が見つからずに
昨夜シューリがしていたのと同じように肩のあたりの小さな頭に手をのせた。
「???」
不思議そうに自分を仰ぎ見た彼女が何かを言う前にドアが思い切りけ破られた。
「ミシェ!そんな狼と部屋で二人きりになるのはやめてくれ!」
入ってきた彼は階段を駆け上がってきたせいか弾む息の下で叫びミシェを引き寄せようとした。俺は昨夜の恨みを晴らすようにミシェを自分の方に引き寄せて抱きしめた。
「なんだよ?羨ましいのか?」
自分を睨む彼の目に浮かぶ怒りの色で俺は有利に立ったつもりでいた。だが、実際に追い込まれていたのはあの約束をすっかり忘れていた俺だった。
「ミシェを、離しなさい!」
叫んだ彼の体から放たれた魔力派で俺は弾き飛ばされた。魔法陣がシューリの足元に現れ、聞き覚えのある唸り声が聞こえてくる。
「ま、まて、俺が悪かったから!!」
中から出てきた真黒なカギ爪のついた手を見つめ、つばを飲み込む。その次に肘が見えた時に横からけりが入った。
「ひ、ひぃ!!」
細く小さな足から繰り出されたけりは思いの外強かったようで陣から出てきたその生物をまたその暗がりに落とした。
「どーゆーことよ!!」
シューリを正面から見たミシェが腰に手を当てる。
「え~??なんだろーね?」
そういったシューリはいち早く部屋を抜け出した。
「待ちなさいシューリ!!」
「やだよ~!」
部屋にミシェと二人取り残された俺は振り向いたミシェの笑みに冷や汗が流れた。
「お、俺、用事あるから!!!」
急いで部屋を抜けようとした俺の腕を信じられない強さでミシェが掴んだ。
「そんなに急がなくても、外に出るには私が扉を開けないと出られないわよ?」
「あ、ああ、いや…」
完全に追い込まれた俺に笑ったミシェが恐ろしく映った。
「ぶはっっ!!あっはははははは!!」
生唾を飲み込んだ俺の頭を噴き出したミシェが背伸びしてなでる。
「は…?え?」
いまいち状況が飲み込めない俺をあやすように撫でたあと背伸びをして俺の頭にキスをした
「ごめんね、シューリはあんな子だけどすごく優しくて面倒見がいいの」
仲良くしてあげて、という彼女の眼の奥に俺はごくわずかな陰りを見たような気がした。が、それも一瞬の事だった。
「そんなことよりもさ!何か用事があるって言ってたけど、外に行くの?」
「あ、ああ。国王陛下に、挨拶にな。」
俺が答えるとミシェはその場でくるりと回り足元に魔方陣を発動させた。
「私も一緒に行くわ。契約者の私がいたほうが何かと説明しやすいと思うし、それに私も国王陛下に会って話さなくちゃいけないことがあるから。」
彼女がウインクして俺の腕を引き魔方陣の中心に立たせる。
「じゃあ、どこに行きたいかを思い浮かべてから呪文を唱えてね。」
俺は目をつむり、王都の広場を思い浮かべて手を挙げた。
「『転移』!」