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硝子の涙  作者: フェザーキャット
1/1

ハジメマシテ

はじめまして、こんにちは

私も現状把握がきちんと出来ている訳ではないのですが

私は今、落ちています。

まわりは黒一色。


どうしてこうなった


自分でも『何言ってんだろ』と思う

でも事実です

ヒュウウゥって耳元で風の音がするし体も重力に従って落下している感覚がある


……何処まで落ちるんだろう、コレ


底に着いたら確実に死ぬ速度で落ちているが

真っ暗で底も入口も見えない

目を閉じているのかと思って瞼を触ったけどしっかり開いている

そう勘違いしてしまう位私の周りは闇に包まれていた


自分が生きているのかも怪しく感じる


私は本当に生きているのか

これは死後の世界ではないのか

…何故、落ちているのか。


疑問は尽きないが此処らで止めておこう

その内『私は誰だ?』とか言い始めて

心と自我が壊れるに違いない


そんな感じで自問自答?を繰り返していると

落下している感覚は音も無く、唐突に終わりを告げた。


底に着いた様だ

小さな器に無理矢理大きなモノを入れようとする時の様に体が窮屈になる

圧迫感はあるが不思議と体が痛くなることはない

水の中に落ちたらしく、たゆたう水が肌を撫でる

水は暖かく、息は苦しくない


環境は変わったようだが周りは相変わらず真っ暗のままだ

だが落ちていた時より壁?が近くにある

試しに押して見たら程よく弾力がある様だ

外からは音が聴こえる

緩やかな調子で眠気を誘う


……このまま寝てしまおう


私はゆっくりと思考に蓋をして

睡眠を始める

コレが夢であるように祈りながら



────────────────




───────────




───────




────



まるで、長い夢から覚めるように、ゆっくりと意識が浮上する。

……う、うん?

私は一体…?


何かに横たわっているらしい

寝たまま周りを見回そうとして

はたと気付く

真っ暗だ

だがあの落ちていた時みたいに寒い感じはしない

寧ろ落ちた先の底と似ていて、自分の部屋に居るかの様に居心地が良い

肌を撫でるのはあの暖かい水ではなく緩やかな空気の流れだ

…布の感触からしてベッドの上…かな

手足は少々鈍いが、動く。


起きたと思ったが違うのか?

覚醒したのは思考だけで目は閉じているのかと思い顔を触って確認する


目は確かに瞑っていた

瞼をそっと持ち上げる

しかし

見える景色は無く

真っ暗闇だった。


………………

そうきたか


体も確認する


ペタペタ

うん、男だ

以前はよりは…… ………? 以前??

……まぁ、いいや。


体の確認の時に気がついたが、腕に金属の腕輪がある

触るとひんやり冷たくて、細かい細工が施してある様だ。

…あれ、なんか腕細いな?

…………………手も記憶より小さい、気がする…?


気のせいだな!多分。


髪は伸びっぱなしだが

さらさらと指通りが良い

不思議だ…

誰か世話でもしてくれてたのか?


試しに起き上がろうとしてみるが体が悲鳴を上げる。

鈍い手足は体を支えきれず起き上がれない

やろうとしても出来ないことに苛立ちを感じる



カチャッ

キィィィ


扉が開く音がした

ゆるゆると音のした方へ顔を向ける


顔を向けても見えないのだが…


扉を開けた人物がいきなり叫んだ


「ティ、ティーグルト様が目を覚ましてらっしゃいますぅ~!!?」


ぐわわわ…!?耳がっ…い、痛い

涙が出そう…


じわっ


「ま、待って下さいぃ~!大丈夫!大丈夫ですからぁ~!?」


謎の人物は私が泣きそうなことに気付き慌ててなだめようとする


つぅぅぅぅう…

ぽろぽろ


……幼児退行しているのか?

涙が止まらない

手は人の暖かさを求めてか空をさ迷う

その手と共に私をきゅっと誰かが優しく包む

謎の人物だろうか


「もう、大丈夫だよ……」


違う人だ

声が柔らかく安心する






それからの生活はまるで病人や赤ん坊でも世話しているかの様に甲斐甲斐しく必ず誰かが世話をしてくれた


いや、病人だな私は…

歩くためにリハビリしてるし


その間、情報収集も欠かしてはいない

私の母はエルフで父は猫の獣人らしい

この情報を聞いたとき


……絶対元の世界じゃねーや


と改めて思った



その他にも


私は生まれてから今まで一度も目を覚まさなかったとか


…何年寝てんだ私


私の愛称はティルで本名はティーグルト・シルヴェスターだとか


謎の人物はエリー・マドラスと言う犬の獣人で私の世話を任されているメイドだとか


世話係はもう一人いるとか


父はシルヴェスター伯爵だとか


麓の村でモンスターの被害がどうたらこうたらとか


魔法具がどーのこーのとか


この世界には冒険者と言う人達がいてモンスターを退治して貰ったとか


新しい魔法が使える様になったとか


只の世間話だけど結構重要な話が聞ける

お伽噺の本を読み聞かせたり

音楽を聞かせてくれたりした


父上は忙しくて来れない様だが母上はときどきと言うか毎日私の様子を見に来る


ずっと眠くなったら寝て、時間が来たらご飯を食べさせて貰う生活をしている


エリーに"目が見えない人でも目が見えるようになる魔法の眼鏡"の話を聞いた時は凄くトキメイた

需要はなくオーダーメイドじゃないと作ってもらえないそうだが



その日の朝食を食べ終わって

私は考え込んでいた


母上に頼もうか…

いや、でも

そんな我が儘は言えない

何より私のプライドが許さない

ああ、どうするべきか

いや、私が諦めれば良い話だ…



夕食前

珍しく父上の書斎に呼び出された

何事だろう

何か悪いことをしてしまったか?


エリーの先導により書斎に着いた私は三回ノックして中に呼び掛ける


コンコンコン

「ティルでしゅ。」

………噛んだ

恥ずかしい…


「ち、父上およびでしょうか」


すぐに中から返事が返ってくる


「ティル、入っても良いよ」


カチャッ

「失礼しま…」

パンパンパン!!


「…………ぇ…」


いきなりの事に唖然としてしまった

なんかクラッカー?の音がした


『ティル(ティーグルト様)!6歳の誕生日、おめでとう(ございます)!!』


皆の声

エリー、母上、父上はわかる

他の三人の声は聞いたことがない

誰だ?


いや、そんな事よりも

誕生日?

誰の?

私?


唖然として動かない私に焦れたのか

母上が背中を押す


「さあさ、主役はこっちよ~」

ぐいぐい

「ぇ…あ、あ」


促されるままに椅子に座ると

テーブルに料理が置かれていく

良いにおいだ


スプーンで口元に料理が運ばれる


ぱくっ

むぐむぐ

こくん


「ティル、カワユス」(*´艸`)vV


…………父上……


いや、私は何も聞いていないぞ!


……威厳のある父上像が…



父上の残念な一面を見てしまったが

何事もなく食事は終わる

これで誕生日パーティーは終わりだろうか

と名残惜しく感じていると

母上が笑いだした


「ふっふっふ……」


何だろう

笑い方が悪役みたいだ


「じゃーん!これ、ティルへの誕生日プレゼントだよ!」


……いや、見えないんですけど


「オーダーメイドで作って貰ったんだ!

魔法の眼鏡!似合うのをデザインするのはスッゴい大変だったんだよ?

ティルは何でも似合うから」


然り気無~くのろけが入った


え?

今、えぇ…??

まさか、まさか…?

本当に?


「ほんとう、ですか……?」


「うん、ティルへ」


手に眼鏡が入っているであろう箱を持たされた

ゆっくり箱の蓋を開け

手探りで眼鏡を取り出す


チャラ…


チェーンが付いてる様だ

ありがたいなぁ


恐る恐る眼鏡を掛ける

…何も見えない

呪文でもいるのか?

と首を傾げていると

父上がブリッジに指(肉きゅう?)をあて

呪文を唱える



『この瞳に光妖精アルフの御加護があらんことを』



先の呪文がキーだったのだろう

すぅっと目に光が入り始める

眩しくて目を閉じた

光が入りきったとき目をゆっくりと開ける

色の奔流は脳内を駆け巡る



そこには猫人キャットピープル、エルフ、犬人シアンスロープ、人間三人がいた



知らず知らず私は涙を流した


私は硬く動かない表情を無理矢理動かして

ぎこちない微笑みを浮かべながら言う



「みなさん、ハジメマシテ。

やっと…あえましたね」



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