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猫の行く先  作者: 落伍者
3/13

 高校から駅まで徒歩5分、電車で二つ駅を越えて5分、そして、僕の街の駅から山の裾野にある病院までは自転車で30分はかかる。ちなみにバスなら15分、歩けば一時間以上、ボーイング747ならコンマ数秒。でも、ジェット機も保有してないし小遣いも乏しい僕は自転車を使うしかない。

 基本インドアな僕にとって自転車を30分こぐのは結構な労力だ。特に7月に入ってから急に暑さが増してきたせいか、自転車に乗る前に軽く柔軟をしているだけでも身体中からじっとりと汗がにじんでくる。朝見たニュースによると今日は早くも真夏日になるとの予報だった。地球さん、温度調節間違ってねぇかおぃと文句を言いたくなってくる。しかしながら最近やっと慣れてきて、このくらいの距離なら日頃の運動としてなかなかちょうどいい塩梅になってきた。基本、平日の街中はがらがらで人も車もほとんどいないので、ぐんぐんスピードが出せる。ハイスピードのまま街を抜けると、視界が開けて一面に田園風景が広がる。この街では貴重な林野からは早くも蝉の合唱が聞こえ始めている。そんな延々と広がる田畑を突き抜ける一本道を全速力で疾走する。吹き抜ける風が汗ばんで張り付いたワイシャツに気持ちいいったらない。この爽快さはちょっと他のものにたとえるのが難しい。しかし、病院が近づいて山道に入ると緩やかな傾斜が延々と続いている山道に出るので、さすがにペダルが重くなってくる。ためにためたスピードも殺されてしまうと、後はもう忍耐力との勝負だ。噴き出した汗で前髪がべったりと額に張りつく。でも、降りて押すなどというチキンなことはできない、男として。そんな僕の横を悠々とバスが追い越して行く。乗客にはどんな目で見られてるんだろうなどと思ったりもするが、まぁきっと何も思われはしないだろう。病院行きのバスに乗る乗客が外の景色に興味があるとも思えないし、それに僕の顔は何かいろいろおかしいのだそうだ。

 僕、こと一之瀬秀明には表情筋というものが生まれつき備わっていないらしい。つまり、たいていの場合、例えば怒ったりだとか笑ったりだとかいう時に表情が変わらないそうなのだ。別に意識してそうしているわけではなく、というより、意識しないと表情が変えられないのだ。だから、僕は常に無表情でぶすっくれて見えるらしい。確かに毎朝鏡を見る度に一体こいつは何がそんなに気に入らないんだろうと思わなくもないが、長年付き合ってきた顔なのでいまいちどこがおかしいのか分からない。しかし、三白眼で細目なせいもあってか、初対面の人には取っ付きにくい印象を与えるんだそうな。何とも悲しいことだ。僕が幼かった頃は無口だったせいもあって、両親は発達障害だとかアスペルガー障害だとかをいたく心配してくれたらしい。実際に病院で診察も受けたそうなのだが、結果は特に問題なし。生まれ持ってそういう顔なのだとしか言いようがないんだそうだ。今となっては僕も周りも気にしてはいないが、例えば今必死になって自転車をこいでいる時も、たぶん平然としているように見られているんだろう。それ自体はいいんだけど、学校で時久走なんかしている時に一生懸命走っているのに手を抜くなとか怒られたことがあって、そういう時はひどく損をした気分になる。まぁ逆にいえば取っ付きにくいのと誤解されやすい程度の問題しかないので、そこら辺は何とかうまく対処するようにしている。それに利点だってないわけじゃない。例えば、嘘をついても顔に出ない、だとか。

 ともかく、えっちらおっちら。坂を登りきれば病院に到着だ。


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