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病院の屋上から眺めればこの街がどういう類いの街なのかよく分かるはずだ。
駅を中心として、まず無駄に広い駅前広場と、対照的にいつもすしづめ状態の駐輪場。それらを防波堤のようにぐるりと囲むドミノ倒しみたいなマンション群。その外側にはシュミレーションゲームのマップチップみたいにどこを切り取っても同じような建売住宅が立ち並び、その中に一際巨大で目を引くショッピングセンターがぼんと置かれている。そして、その背景に小高い山を描けば一応この街の完成ではあるけど、オペラグラスを持ってきてもう少し注意深く見れば、この街にないものに気付くだろう。例えば、100円ショップやコンビニはあっても、八百屋や魚屋はない。進学塾やゲームセンターはあっても、酒屋は駄菓子屋はない。つまるところ、この街にはある時点から過去のものがほとんど存在しない。あるとしたら、山の裾野にわずかに残された畑くらいだ。
歪みなく構成された計画都市、典型的なベッドタウン。それが僕の生まれ育った街だ。
だから、病院の屋上から望む眺望は何とも無機質な感じがして、僕はあまり好きではない。好きではないのだけど、天気の良い昼下がりに志乃や三井さんと連れ立って下らない世間話をしていると、それは悪くない眺めだった。真っ白なシーツが群れた羊のように穏やかに泳いで、三井さんの吹かす煙草の煙がとろとろと風にとろけるのを見るにつけ、僕は解き放たれたような気分になった。
それはたぶん、屋上をドーム状に包んで閉じ込めている緑色のフェンスや、その風雨にくすんだフェンスの一部分だけが妙に鮮やかで真新しいこととかが気にならなくなるからだろう。
以前、三井さんにそのやけに真新しいフェンスについてたずねたことがある。真新しい修繕された部分は昔入院患者が飛び降り自殺を図ろうとペンチで切り裂いた跡なのだそうだ。
「半年くらい前のことだよ。結構、有名な話だと思ってたけど。そうか、知らなかったんだ」
なるほどねぇ、と三井さんは納得したように頷いて話してくれた。
「……その人、私と同じ部屋の人だったんだけどね。孤独な人だったんだよ。……いや、どうだったのかな。親も友達もいたんだし、実際には孤独じゃなかったんだろうけど、孤独だと思いこんじゃったんだだろうねぇ」
「それで、その人どうなったんですか?」
「……さぁねぇ、私にはよく分からないね。たぶん……まぁ、いなくなっちゃったんじゃないのかな」
そう言って三井さんは口を丸めてほわりと煙を吐いた。煙でわっかが作りたいのだそうだが、少なくとも僕は成功したのを見たことがない。
そしてそれは、三井さんが言葉を濁す時の癖だった。
「まぁともかく、このことは人に聞かない方がいいよ。わざわざ気分を悪くしたくもないでしょ。おねーさんとの約束ね」
以来、約束通り人にたずねたことはないが、そのフェンスを見る度に僕は漠然とした不安のような得体の知れない感情を抱くようになった。
こと、ここは病院で、志乃も三井さんも入院患者だったからだ。