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世界を解き明かせ!  作者: IVRL
序章
5/6

04:ソドムの竜骨

 これは今からずっと昔のお話。 詩人の語る歌物語の一つです。

 そういって、モルネは話し始めた。


 ◆◇◆◇◆


 ああ恐ろしや (いにしえ)の竜 


 その体躯は馬車の如く その鱗は万象を弾く神の盾 


 しかしかの者思慮深く 人と歩み 魔物を断つ 


 世の中央にて果てを見つめ その身体を据え続ける 


 ある日かの者飛び立った 断つべき悪を(まなこ)に映し 


 諸人(もろびと)はその雄姿を見つめ 街の友の帰りを待ちわびた 


 だが待てど暮らせど戻る事なく 遂に十二の月が巡る




 天に大きな影ありて あの姿こそは我らの友 


 報せは街を駆け巡り 皆がその帰還を喜んだ 


 ああ呪うべきはその運命か 


 友の瞳に狂気が宿る




 すでにかつての面影無く 見せる姿は邪竜そのもの  


 白銀の身体は 漆黒の闇へと変生し 


 醜い斑点がその身に浮かぶ 


 降り立ち様に大地を砕き 咆哮は心を揺さぶり恐怖を生む 


 人々皆恐れを抱いて たちまち急いで逃げ帰る 


 後に残るはただ四人 その日に訪れた冒険者たち 


 彼の一団は竜に問う 


 「汝何ゆえ狂ったか 其方は世に(あまね)く知られた善良な竜」 


 その声は幸運にも竜へと届き 僅かに逸れた狂気の内から竜は答える



 「我は殺意に当てられた もはや自ら留めること能わず


 汝の強さを我は見抜いた どうか我を終わらせてくれ」


 竜の言葉は四人へ届き そして死闘が始まった



 竜は再び狂気に沈み 爪の一撃は死神の鎌


 吐き出す炎は草木を燃やし 辺りは一面火の海に


 打ち出す魔法は人知を超え 平原は岬へ変わりゆく


 しかし街に被害はなく それは竜の本能ゆえか


 四人のうちの一人の剣士 朱く灯る細い(つるぎ)は 


 竜の攻撃すべてをいなし 硬き鱗を削りゆく


 盾持つ少女は 炎を防ぎ


 癒者(いしゃ)と賢者は二人を助ける



 天に星が瞬く夜 ついに剣は鱗を突き抜け


 竜の体を切り裂いた


 盾持つ少女はその場へ飛び込み 心の臓を抉り取る


 「礼を言おう 強き者たち 最期の望みはこれにて叶った」


 かくして竜は命を落とした


 街の者は皆語る


 「友の身体を売るなどありえぬ 死してなお それが狂気ゆえだとしても


 彼が我らの友である このこと永久(とこしえ)に変わりなく この街は彼と共にある」


 こうして竜の亡骸は 死した時のままに残され


 身体の肉が朽ちてもなお 宿る意思が街を守る


 ソドムの街の竜骨よ 汝の意思は永遠なり

 

 ◆◇◆◇◆

 

 「どうだった?竜骨についてのお話。」


 「なんか……ちょっと悲しいね。どうして竜は狂っちゃったの?」

 


 そう尋ねると、モルネは首をかしげながらも答えた。



 「うーん、殺意に当てられたとは言われてるけど、細かい内容まではわからないの、かなり昔の話だし。私は街に来る詩人さんたちが歌うのをよく聞いててね、それを覚えたから歌えるだけで……」



 でもね!、とモルネが続けて、



 「この歌が作り話ってことはありえないんだよ!骨は、ちゃんと学者さんたちが調べて、竜の骨って認定されたし、ギルドの中の資料館には、竜を倒した四人組の記録が残ってるの。」


 「へぇ~……。すごいね……」



 りなにとってはここが異世界だと実感する話である。歌物語を普通に生きていて聞くことはないだろうし、旅する詩人などいたとしても無職扱いされるだろう。しかも竜の骨は本物だというのだから驚きだ。ギルドに記録が残っているというのも、現実味がある。物語だけでは生活できないのだ。



 「でね、ここに来たからもう一つ言っておくんだけど、むこうに森があるでしょ?」



 そういってモルネは遠くの森を指さした。先ほどから視界の端には映っていたが、竜の骨に興味を惹かれていたりなは、今の今までほとんど注意を払っていなかった。丘から見下ろした時には、木に隠されて見えなかったが、森へと続く道の周りは、切り倒されているのか、木が生えていない。大きな剣や棍棒を持った、ガタイのいい人たちも立っている。見回りの人だろうか。



 興味を持って森を眺めているうちにふと気づいたことがあった。森が、()()()()()()()()()のだ。枝葉も幹も、下草もすべて灰色である。自分が座っている草原や身の回りの木々は植物らしく緑色をしている。森と、森以外の境界を示すかのように、森一帯の木々だけが灰色なのだ。気づいた途端、わずかな恐怖が自分の心へ染み付いてくる。もう一度森を見回す。円弧のように生える森は、やはり灰色だった。海の向こうの森も灰色である。

 怖くなって、りなはモルネに尋ねた。



 「ねぇ、あの森って全部灰色じゃない……?」



 モルネは、特に気にする様子もなく、のほほんと答えた。



 「うん。あの森はずっと灰色だよ。『宵闇の森』って呼ばれてて、ちょっと危険なところなの。ソドムは、この森の手前あたりまで。あそこから先はソドムの外だから、一人で出ちゃだめだよ。……まあ出ようとしても見回りの人に止められちゃうと思うけど。」


 「は、はい……。」



 どうやらあの一帯が灰色なのは当たり前のようだ。



 ◆◇◆◇◆



 モルネが採集をしている間、手持ち無沙汰になってしまったのもあり、怖いもの見たさで宵闇の森を眺めていると、森の奥、道からはかなり外れた場所で、オレンジ色の光が風に揺れるカーテンのようにふわふわと飛び回っている。神秘的で、りなの大好きなファンタジーらしい光景ではあるが、やはり得体の知れないわずかな恐怖が伴っていた。



 「ねぇ、モルネ。なんか森の中で光ってない……?」


 「光ってるよ~。最近は多いね。綺麗だし私も好きだけど、つられて入っちゃだめだからね!宵闇の森はね……」



 薬草を選別する手は動かしたまま、モルネは森について語り始めた。この場所にまつわる歌物語もあり、曰く、かつて木々は黒色だった。その時はさらに多くの光が舞い、夕暮れ時の空のように見えたことから、『黄昏の森』と呼ばれていたらしい。時代が下るにつれ、木々は灰色に変わり、光の量も減っているとのこと。その結果、いつからか宵闇の森と呼ばれるようになっていった。



 「ここ数か月はよく光ってるから、もしかすると黄昏の魔女が、人を探してるのかも?……なんてね。」



 森の中に何があるのかについては、多くの噂が囁かれている。その中の一つに『魔女が住んでいる』というものがある。黄昏の森にいるから黄昏の魔女、実にわかりやすいネーミングをしている。魔法で光を出して、不思議に思って近づいた人間を森の奥まで誘い、捕まえてしまう。捕まった人間はどうなるかわからない。ただ、絶対に帰ってこないことだけは確かである。そういう噂だ。……どちらかというと、子供が不用意に森へ近づかないようにする、そのためのお話のようでもあるが。



 「よし、戻ろっか!りなの事、お母さんに相談しないといけないし。」



 話を聞いているうちにモルネは作業を終えていた。

 二人はソドムの町へ戻るのだった。


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