01:目が醒める
「うわっ!?」
自室の机に置かれていた本から突然、眩い光があふれ出す。ひとりでにパラパラとページがめくられていき、次第に一つの連続した音へと変わる。 本が机から浮かび上がり、宙に漂う。
「……え?何?何!?何!!?」
りなの身体が本へと引きずられていく。それと同時に輝きはますます強くなり、部屋中を白く照らす。ついには身体を浮かび上がらせ――
その日の昼――
学校の図書室。校舎の隅にどっしりと構えるその場所は、おおよそ2mほどの本棚が立ち並び、たくさんの本が所狭しと詰められている場所である。室内で読むために明るくされた机の周辺以外は薄暗く、静かでひっそりとした空間には、本が持つ特有のにおいが混じる。
今は昼休み。りなが司書に満面の笑みで感謝されているところであった。
「返却ですね~。――はいっ。りなさん、いつも借りてくれて本っ当にありがとう。」
「いえいえ。別に感謝されることのほどじゃ……」
笑顔がとてもまぶしい。少し恥ずかしさを感じながらも、りなは言葉を返す。りなの趣味は小説を読むことである。入学当初から図書室に通いっぱなしの、いわゆる「本の虫」。
「ううん。司書の私からすれば、借りてくれるのはうれしいの。高校生になるとね、本を借りてくれる人ってそんなにいないの。まあ、忙しいのはわかるんだけど、それでも気分転換とかで来てくれればいいのにな~って。だからいつも来てくれるりなちゃんは大歓迎だよ~。あっ!そういえばね、また新しい本を置いたの~。どうする?借りてっちゃう?」
司書は毎月新しい本を入れていく。内容がファンタジーに偏ってるのは、りながよく借りているからかもしれない。
「じゃあ、ちょっと見てきます。」
新しい本に心を躍らせながら、りなは本の位置を訪ねる。
司書さんが手を振りながら「おっけ~、あっちの奥の棚ね。」と位置を示す。りなが高校に入学した時から変わらず、ずっとこんな感じの人である。
りなは現在、高校2年。毎日少しずつ気温が下がっていくことに秋の訪れを感じる季節である。
寒さに備えてブレザーでも出そうかなと考えながら、目的の場所へとたどり着いた。
「……みつけた。」
新しい本は棚に入るといっても、しばらくの間新刊として目立つように置かれている。探すことにそれほど手間はかからない。
「『The world is on your hands.』。……海外の本???」
随所に金色の装飾が施された、美しい本。……少しかすれているところが見られるのは残念だが。表紙には腰まで届く、薄蒼い髪の女性が瞳を閉じ、手を合わせている絵が描かれている。 祈りをささげているような、そんな表情だ。
すぐに司書のところへ戻り、貸し出しの手続きをしてもらう。
「貸出、お願いします。」
「はーい。……うん、ちゃんと確認したので持って行っても大丈夫ですよ。」
「ありがとうございます。」
「うんうん。また借りに来てね~。」
司書に手を振りながら図書室を出るのと同時、昼休み終了10分前の予鈴が鳴る。次の授業に備え、りなは駆け足で教室へ戻るのだった。
――そして夜。
りなは、寝る前の数時間に小説を読むと決めている。というのも、静かにのんびり、あれこれ考えながら楽しく読むのがりなの読み方、必然的にこの時間帯になる。
りなの部屋には壁一面を埋める本棚がある。四面ある壁の内1つが丸ごと本棚になっているが、そこには面白いと思ったり、思い出に残ったりした本を自分で買って仕舞っている。
出そうと思っていたブレザーも取り出して、明日の準備は全部終わらせて。確認を終えれば、残りはすべて小説の時間。好きなだけ読んでいられる。といってもさすがに徹夜はしないが。
――よし。それじゃあ……
机に向かった瞬間、本が輝く。
「うわっ!?」
机に置かれていた本から突然、眩い光があふれ出す。ひとりでにパラパラとページがめくられていき、次第に一つの連続した音へと変わる。 本は机から浮かび上がり、宙に漂う。
いきなり起きた怪現象に驚いて、りなの身体は金縛りにあったように動きを止める。 抵抗する暇もなく、りなの身体は本へと引きずられていく。輝きはますます強くなり、部屋中を白く照らす。それと同時に引力は強くなり、ついに身体が浮かび上がる。
だが不思議と、その光に対してりなが恐怖を覚えることは無かった。その光は、まるで春の朝日のようにやさしく――
本にぐんぐん引き寄せられ、光で視界は埋め尽くされる。
すべてが白に染まる。