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名探偵・藤崎誠シリーズ

藤崎誠の事件簿 -ヒキコモリ殲滅作戦-

作者: さきら天悟

202X年、東京オリンピックが終わり、景気が急激に減速した。

消費税はすでに限界ともいえる25%に達していた。

政府は経済対策に多額の税金をつぎ込んだ。

しかし、その対策が政情を不安定にしていた。

確かに株価は上昇した。

しかし、一部の富裕層が利益を手にしただけで、貧富の格差が広がっただけだった。

政府は国民に説いた。

もう少し待てば、一般国民にも利益が配分される、と。

しかし、もう何度も聞いた説明だった。

内閣支持率はグングン下がって行った。

政府は官僚らに支持率を上げるように厳命した。





各省の官僚たちが集まっていた。


「支持率を上げるにはどうしたらいい?」

税務局長が全員を見渡した。


「雇用対策を打って失業率を下げるしかありません」

経済産業省の男性が発言した。


「そんなことできれば、始めからやっている。

財源がどこにあるんだ」

局長が怒鳴った。


シャープな顎の30前後の官僚が手を上げた。

「問題をすり替えましょう」


「すり替える?」

局長は首をひねった。


「よく使う手ですよ。

反日を利用して政府の支持率を上げる国があるでしょう。

だからそれにならって、敵を作ればいいです」


「何を敵にするんだ?」


「引き籠りです。

引き籠りが日本の経済の足を引っ張っていると言って」


「よしそれでいこう」

局長は手を打って喜んだ。


こうして『ヒキコモリ殲滅作戦』が決定された。







官僚たちは巧妙だった。

ヒキコモリ者に対する支援を先に実行した。

しかし、効果はすぐに出なかった。


そのため小中学生を絶対にヒキコモリにしないよう、、

ヒキコモリにレッテルを貼り、おとしめるという方法を取ると根回しした。



まず、政治家のヒキコモリへの発言が厳しくなった。

「甘やかしている親が悪い」

「ゲームばかりしている」




週刊誌の意見は厳しかった。


「日本の負荷になっている」


「支援などは必要ない。自己責任である」


さらに厳しい意見もあった。


「人間のクズ」


「二度と部屋から出るな」


「退化した人間」



激しい意見を出でるほど、政府の支持率が上がった。

国民の不平のいくらかは確実にヒキコモリに移って行った。

結局、支持率は10%弱上がった。

このままヒキコモリへの攻撃が続くと思われた。



しかし、一つのネットの書き込みが流れを変えることになった。

それは次の内容だった。


『本当にヒキコモリは人類の退化だろうか?

私は最近違和感を覚えるようになった。

実は人類の進化ではないかと。

キリンは高いところの食物を食べるために首が伸びた。

これと同じで人類が生き延びるためにヒキコモリが必要になったのではないか。

その危機とはエボラ出血熱や鳥インフルエンザなどである。

これらの感染症のもっとも有効な対策はヒキコモリになって、人と会わないということだ。

普通の人なら部屋にずっと閉じ込められたら、頭が変になってしまうかもしれない。

しかし、ヒキコモリなら1ヶ月くらいならわけないだろう。

ヒキコモリは、人類が絶滅の危機を回避するための防衛本能ではないだろうか。

ヒキコモリを非難する前に、人類の危機に備えるべきである。』







「藤崎さん、ありがとうございます」

男は頭を頭を下げた。

「お蔭でヒキコモリ批判の風が少し弱くなりました。

でも、あんな書き込みで…」

男はひきつった顔をしてまた頭を下げた。

「あんなって言ってすみません。

あのネットの投稿が呼び水になって、流れが変わると思いませんでした」


ある有力政治家がこれと同じような内容をテレビで話していた。

まあ、冗談交じりではあったが。

その直後、日本の隣国でエボラ出血熱がタイミング良く発生した。

もうエボラウイルスが日本に侵入するのは確実だった。

マスコミの報道は『エボラ』一色に代わり、『ヒキコモリ』への攻撃は一掃されていた。


「約束の成功報酬です」

男は厚みのある封筒をテーブルに置いた。

30万円入っているはずだ。


「よろしいんですか?

私が受け取って。

でも、なぜあなたはそんな依頼をしたのですか」


「はい、経緯はどうあれヒキコモリの批判が無くなりました。


実は、私もヒキコモリでした。

でも父親が倒れて…

経済的にどうしても働かなければならなくなりました。

ネットでみんなに助けてもらって…

いてもたってもいられなくなりました」


藤崎は笑顔で男の言葉を聞いた。

「もし、また何かありましたら」

彼は胸に手をあて、頭を下げる。

「名探偵にお任せあれ」

藤崎は何も言わずに男をそのまま見送った。

彼は知っていた。

男が藤崎に依頼するために、ネットで募金を集めていたことを。

その金額が30万円を超えているだろうことを。


藤崎は椅子に座り、大きく息を吐いた。

少し疲れたようだ。

まさかあの書き込みだけで納まるはずもない。

政治家やマスコミ関係者に根回しし、

タイミングを見計らっていた。

そして、隣国でエボラの発症を事前につかみ、計画を実行したのだった。

藤崎は利用されたのではなかった。

彼が男を利用したのだった。

藤崎は官僚が計画した『ヒキコモリ殲滅作戦』を潰したかっただけだった。


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