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「うわ、すごーい!」
「……きれい」
リビングに通されて、瑞希たちはまたも目を丸くしてしまう。
部屋の中は綺麗に飾り付けされていて、本物のカボチャを使ったジャック・オ・ランタンまで置いてある。本格的だ。
「どうだ、すごいだろ! 夕菜の家のハロウィンパーティー!」
「ほんと! ……って、なんであんたが自慢気なのよ」
「へへっ」
七実は夕菜の幼なじみだ。過去にもこうして招かれたことがあるのだろう、特に驚く様子は見せない。
「……まあ、今年は結構気合入ってるけどな」
「すごいです、とってもファンシーですっ」
「ああ。なかなかここまで趣向を凝らす家は無いだろう」
香澄と雨音も感心した様子で部屋の中を見渡していた。
「ねえ、ところで榎本さんは?」
「ああ。おばさんの手伝いだろ。多分じきに……」
と、七実が言いかけた時、リビングの隣の部屋から噂の主が姿を現す。
「みんな、いらっしゃい~」
「おお、来た来た」
「あ、榎本さん。おじゃまして……ふぁっ!」
リビングに入ってきた夕菜の姿を見て、瑞希はまたも驚かされる。
「部屋の内装だけじゃなくて、夕菜も気合入ってるなー」
「あはは、みんなが来るって言ったらお母さんが張り切っちゃって……。もう、恥ずかしいからいいって言ったのに……」
顔を赤くしてはにかむ夕菜は、綺麗なドレスやアクセサリで着飾っていた。
七夕コンサートの時なども綺麗な服を着ていたが、どうやらレンタルなどではなく、自前だったらしい。彼女の家にはこんな服が何着もあるのだろうか。
「すごい……。榎本さん、実はすっごくお嬢様だったのね」
「瑞希、やっぱりドレス」
「ええ、必要だったかも……」
「や、やっぱり私なんて場違いでしたか!?」
「ふむ、本物のお嬢様か。参考になるな」
「そ、そんなんじゃないからっ! お母さんが見えっ張りなだけなの~!」
煽られるほど赤くなっていく夕菜。どうやら本人は本気で恥ずかしがっているようだ。
「ほらほら夕菜、早く手伝って」
と、真っ赤になる夕菜の後ろから、また別の女性の声が聞こえた。
「あらあら、今年はたくさん来てるわね。いらっしゃい」
「あ、お、おじゃましてます」
姿を現したのは、夕菜にどこか雰囲気の似た妙齢の女性。夕菜よりは少し年上のようだが……。
「えっと、榎本さ……夕菜さんのお姉さんですか?」
瑞希が問いかけると、女性は優しく微笑んで答えた。
「そうです。私、夕菜の姉の……」
「お、お母さん!」
「うふふ、冗談よ」
夕菜が慌てて遮ると、女性はいたずらっぽく笑う。
「……って、え?」
そして夕菜が言った言葉に、瑞希は耳を疑った。
「お、お母さん、なんですか?」
「ふふ、そうよ。母の榎本幸子です。娘がいつもお世話になってます」
かしこまって優雅にお辞儀をする女性、幸子。瑞希はまだ驚いていた。
「え、で、でも、おかあ、え?」
「……若い。きれい」
「あらあら、ありがとう。でもおだてたって何も出ませんよ」
「お、おだてるっていうか、ほ、本当に……」
瑞希の目には、幸子は二十代にしか見えなかった。高校生の娘がいるようには見えない。
「ま、おばさんが誰かに会うといつもこんな感じだよな」
「ふふ。いつまでも心は若くが私の信条だからね」
「こ、心だけじゃなくて見た目もお若いです!」
「ああ、驚いたな」
「みんなありがとう。後でお名前聞かせてね。……ほら、夕菜早く」
「あ、うん。みんな、テーブルで待ってて!」
幸子と夕菜はリビングの奥のキッチンへ向かい、瑞希たちは言われた通り大きなテーブルについて待つ。
榎本家主催のハロウィンパーティーの始まりである。