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「香織、夕べはほんと、ごめんな」
自宅に戻った達也はスウェットパンツとTシャツに着替えてから、居間のソファで雑誌を読んでいた香織の隣に腰を下ろし、彼女の肩に手を回しながら言った。
香織は肩に垂れた夫の手に自分の指を絡ませながらくすくす笑った。
「谷口さんたちと飲んでたのに、いつの間にかひとりで航平さんのバーに行っちゃったんですってね」
「そうみたいなんだよなあ。俺、まったく覚えてないんだ」
もう一方の手で頭の後ろをこすりながら、苦笑いしてみせた。
「電話をしたら航平さんが出たからびっくりしちゃった。でも、それで安心して眠れたわ」
香織は笑顔を向けて、達也の頬に軽くキスをする。
「でもよかった。達也さんと航平さん、仲直りできて」
「え?」達也はドキッとして妻を見た。
「去年、偶然航平さんのバーに行ったとき、なんか達也さん、様子が変だった。そのあともなんとなく航平さんの話題を避けてるみたいだったし。・・・祥子ちゃんは、以前は達也さんと航平さん、とっても仲がよかったって言ってたから・・」
どんな反応をすればいいのかわからず、達也は黙って聞いていた。すると香織は突然怒ったような表情で達也の顔を覗き込んできた。
「昔、女を取りあって喧嘩したんですってね」
「え?」
達也がうろたえると、香織は笑いだした。
「そんなこと、私が気にするとでも思ったの? 言ってくれればよかったのに」
「あ、ああ、そうだな」達也は曖昧に笑った。
「でも、幸せな女性よねえ、その人。航平さんと達也さんみたいなダブルイケメンに夢中になってもらえるなんて」
香織は両手を胸の前で組みながら、溜息まじりにうっとりとしたように言う。
「ダブルイケメン? なんだよ、それ」
達也の問いには答えず、彼女はふふっと笑っただけだった。
「でもよかったわ」
そう言うと香織は唇を重ねてきた。
軽いキスがだんだん熱いものに変わっていく。香織の背中に両腕を回し、達也は彼女の細い身体を抱きしめた。航平との情事が頭をかすめる。欲情が達也の全身を駆け抜けていた。息が荒くなってくる。達也はすばやく自分のTシャツを脱ぎ捨てた。香織もブラウスのボタンを自分で外している。彼女のブラウスを引き剥がしてソファの上に押し倒し、そして達也はその上に覆いかぶさった。




