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宮永源三の大バカ領主様 Ⅱ

「領主様、書面を読んでちゃんと判を押して下さいね」


「分かっとるわい! 一々言われんでもちゃんとやっとるわ!」


「そう言いながらも何気に鎖を解こうとしているのは私の気のせいですかな?」


「う、うるさいわい! ………全く目ざとい奴め……!」


 執務室にて、胡坐を掻いて体を鎖で縛られている源三は家老の監視により仕事をしている。時折、家老の目を盗んでは鎖を解こうとしていたが、即座に縛り直されての無駄骨行為を繰り返している。


「大体、こんな書面はお主がやれば良いではないか。何で領主のワシがこんなチマチマした事をせねばならんのじゃ?」


「これは本来領主様のお仕事です。私がやっては意味が無いので。さあ、喋っていないで仕事して下さい」


「こんな大量の書面を読めと言うのか!?」


 源三の隣にはドッサリと置かれた書面がズラッと置かれており、余りの分厚さに凄く嫌そうな顔をする源三。


「今までの仕事をサボっていたツケです。恨むのでしたら、仕事をサボった自分を恨んで下さい。そもそも領主様が『この程度の量は明日やるわい』と言ってサボり、ずっと溜め続けていたんですから」


「そ、そこは家老のお主が気を利かせてやっておくべきではないかのう?」


「………………反省する様子が全く見受けられないので、領主様には夕餉(ゆうげ)(夕ご飯)の時間まで此処にいて貰いましょう」


「待てい! お主はワシを殺す気か!? こんな所に居続けたら息が詰まるわ!」


「ではそれを解消させる為に、今から楓様を呼んで二人っきりに――」


「よ~し! さっさと仕事を終わらせるぞ!」


 家老が楓の名前を使うと、源三はさっきまで言っていた事を撤回して仕事に専念する事にした。楓と二人でいて下手な事をしたら酷い目に遭うと思い、敢えて家老と一緒にいる事を選択したのだろう。


 そして源三が一応領主としての仕事を、


「だ~~~~!! 一体何時になったら終わるんじゃあ~~!?」


「そこにある残り五束の書面を読んで頂ければ終わりです」


「五束!? まだこんなにあるのか!? ワシもういい加減に飽きたのじゃ!」


 一刻半 (約一時間程度)経った程度でもう音を上げてしまった。情けないにも程がある。


「もう嫌じゃ! こんな事をしてる位ならいっそ別の仕事をしたいのじゃ!」


「戯けた事を言ってる暇があるなら、早く手を動かして下さい」


「嫌じゃい嫌じゃい! もう仕事なんてやりたくないわい!」


「………………この爺は……!」


 駄々を捏ねる源三に家老が頭に青筋を浮かべる。同時に楓の許可も貰っているから荒療治をしようかとも考え始めていた。


(いや、待てよ……)


 頭に来ていた家老だったが、突然何か考え始めた。


(このまま下手に私が言い続けたところで駄々を捏ねる。かと言って楓様の名前を出しても後になってから同じ事を繰り返すのが関の山……)


 後々の事を考えている家老は源三の行動パターンを見抜き、面倒な事が更に面倒な事となるのを予測する。


 いつまでも鞭ばかり与えてばかりでは、形とは言え領主の立場を放棄して言う事を聞かずに遊び呆け、本当のダメ人間と化してしまう。あんなのでも一応は必要最低限に必要な領主なのだから、家老としてはソレは不味い。


(……仕方ない。少しばかり飴を与えるとするか)


 そして結論した家老はこう言った。


「領主様。ちゃんと仕事をして下さったら、以前から領主様が仰っていた側室の――」


「何!? 側室じゃと!?」


 側室と言う単語に過敏に反応した源三は家老の顔を見る。


「それでそれで? 側室が何じゃ? 言うてみい」


「ですから……今後ちゃんと仕事をして下されば、私が楓様に領主様の側室を迎えるように進言しますので」


「ふむ、そうかそうか……ワシの側室を……でへへへへへ……」


「……………………」


 条件を言ったに拘らず、凄く気持ち悪いにやけ顔になり始めた源三に家老は顔を顰めた。


「側室を迎えればあんな事やこんな事を……それも婆さん公認で……いよっしゃ~~~~!!!」


「領主様、何を考えてるのかは大体想像付きますが、側室を迎えると申してもちゃんと仕事をして下さらないと……」


「ほれ! 何をボサッとしておる家老! 仕事をしてやるからさっさと次の書面をワシの所に持って来い!」


「…………まあ良いか」


 急に仕事をやる気になった源三に家老は訂正しようと思ったが、今の仕事を終わらせてくれるなら別に構わないかと思い何も言わずにその他の書面を源三の近くに置くのであった。






「ほう。お爺さんに側室をねぇ……」


「ああでも言わないと領主様は仕事を全然やる気にならなかったので、少しばかり飴を与えた方が宜しいかと」


 仕事が終わった後、家老は楓の部屋にて源三の側室の件について進言した。が、楓は余り快く思わない表情だ。


「しかしそんな事をしたら、却って側室を迎えようとする若い子がとんでもない目に遭いますよ。それにあんまりお爺さんを調子に乗らせない方が――」


「楓様、私は領主様に“側室を迎える”と申しただけですよ?」


「…………ああ、そう言う事ですか」


 家老の発言に楓は気付く。


「となると、さぞかし面白い事が起きるんですね?」


「はい。ですので私が側室候補を集めている間、楓様の方で領主様が気付かせないように監視をして頂きたいのですが」


「分かりました。それ位はお安い御用です」


「ありがとうございます」


 楓が頼みを受け入れると、家老は感謝を表すように頭を下げて礼を言う。


「家老、訊くまでもありませんが………楽しませてくれますよね?」


「勿論です」


「そうですか。ふふふ……見合いの日が待ち遠しいです」


「「ふふふふふふふ」」


 楓と家老はこれから起こる見合いの事を考えていると、不敵な笑みを浮かべるのであった。

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