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宮本綾ちゃんの職業体験物語 Ⅴ

久しぶりの更新です。


それではどうぞ!

 綾ちゃんが職業体験を始めて二日目の日曜日。


 昨日綾ちゃんの護衛役として呼んだ里村有紗を呼んだのを失敗して後悔した俺は、次の護衛役としてもう一人の女子を呼んだ。


 その女子とは、


「いらっしゃいませ、3名様ですか? こちらへどうぞ」


 臨時ウェイトレスとして雇った沢渡美咲だ。


 何故アイツが此処でウェイトレスをさせているのかと言うと、昨日の里村のように客役として綾ちゃんを護衛させるのは無理があったので、父さんに頼んで臨時として雇うように話しを通した。んで、了承を得た後に沢渡に連絡し、綾ちゃんの護衛役と臨時ウェイトレスの交渉をした途端、『綾ちゃんの為ならお安い御用よ』の一言で沢渡は承諾。“綾ちゃん”と言う単語を聞いた時点で、その気になってたのは分かってたけど。


 そして今現在、沢渡は出入り口付近でウェイトレスの格好をして接客をしていると言う訳だ。


 因みに綾ちゃんは、


「ご注文を確認します、お客様。アイスコーヒーとミルクコーヒー、チーズケーキとマフィンでよろしいでしょうか?」


 男装の麗人かと思うようなウェイターの格好で席に座ってる客の対応をしていた。


 どうして綾ちゃんがあんな格好なのだろうかと思われるだろうが、勿論ちゃんとした理由がある。昨日はナンパ禁止との貼紙を貼ったにも拘らず、しつこく綾ちゃんをナンパしようとする客が絶えなかったから、敢えてウェイターの制服を着せて男装させたのだ。沢渡は綾ちゃんの姿を見てウットリしていたが。


 綾ちゃんとしてはまたメイド服でやりたくて最初は不満気味だったが、『此処はメイド喫茶じゃないから、ちゃんとした制服を着ようね』って俺が言うと、渋々納得してくれた。職業体験とは言え、一応指定の制服でやる決まりがあるからな。綾ちゃんには悪いけど指示には従ってもらう。


「(それにしても妙だな。あの迷惑老人共が昨日に引き続き来ないとは)……お待たせしました。アイスミルクコーヒーです」


 カウンター席近くにいる俺は、出入り口付近を見ながらも接客をしている。注文の物をテーブルの上に置いて『ごゆっくり』と言った後、すぐにカウンターへと戻って、再度出入り口付近を警戒する。


「ねぇ天城君。あのお爺さんたち来るんじゃなかったの? 未だに現れないんだけど」


「そろそろ来てもおかしくないんだが……」


 同じくカウンターに戻って来た沢渡が俺に尋ねてくる。


 確かに沢渡の言うとおり、今はもう昼前だからとっくに来ても良い筈だ。別に来なくても良いんだが、こうも音沙汰が無いのは逆におかしい。綾ちゃんがいない日でも来店しても騒ぐあの迷惑老人共が、今日も来ないとなると何か企んでいるのではないかと勘繰ってしまう。と言っても、あの後先考えない連中が俺達を油断させる為の策を練ってるとは思えないが。


「ま、来ないなら来ないで別に構わんさ。寧ろ好都合だし」


「それってアタシを呼んだ意味無いんじゃないの?」


「そう嫌そうに言いながらも、綾ちゃんと一緒に仕事が出来て嬉しく思ってるんだろう? さっきからチラチラと綾ちゃんばかり見てるし」


「うっ……。し、仕方ないじゃない。男装する綾ちゃんが凄く可愛いんだから」


 俺の指摘に沢渡は痛い所を突かれたかのような顔をして、言い訳しながらも綾ちゃんを見ていた。


『お客様、ご注文は以上でよろしいでしょうか?』


『え、ええ。………ねぇ貴女、名前は?』


『ボクですか? ボクは宮本綾って言います』


『そう、綾ちゃんって言うの。……ねぇ綾ちゃん、良かったら今夜私とホテルで熱い夜を過ごさない?』


『? ホテルで熱い夜……ですか?』


 何か女性客が綾ちゃんに危ない道に誘おうとしていたので、


「沢渡、行ってくれ」


「言われなくてもそうするわよ!」


 沢渡に阻止するように指示をすると、すぐに綾ちゃんがいる所へと向かった。


『綾ちゃん、修哉君がすぐに来るようにって。アタシが代わりに対応するから』


『え? でもまだ……』


『良いから良いから』


 有無を言わさないと沢渡はカウンターへ行くよう指示すると、綾ちゃんは女性客に頭を下げた後にコッチに来た。


 しかしまさか、あの女性客が同性愛趣味の持ち主だったとは。あと少し遅かったら、綾ちゃんが穢されるところだった。もしそうなれば俺は紫苑さんにかなりの勢いで説教されてるだろう。『君がいながら私の大事な妹の綾ちゃんに何て事をしたの!?』ってな感じで。


『ちょ、ちょっとアンタ! 私は今、綾ちゃんと話して――』


『お客様、ここではナンパは禁止なんですよ。たとえ同性愛のナンパでも、ね』


 そう言って沢渡が女性客と話し合いをしてる中、綾ちゃんが俺に話しかけてくる。


「修哉お兄ちゃん、何かあったの?」


「ん? ああ……悪いけど食器洗いを頼んでもいいかな? 今ちょっと洗う食器が多くて」


「うん、分かった」


 綾ちゃんは俺の指示によりキッチンへ向かうと、すぐに食器洗いを始める。


 接客だけじゃなく、裏方の仕事も職業体験の一つだからな。と言っても、綾ちゃんは自宅でも家事をやってるから大して苦にはなっておらず、あっと言う間に食器が片付いてピカピカにしていく。主婦顔負けだな。


 ま、取り敢えず俺も休憩が入るまで引き続き接客を続けますか。





「修哉お兄ちゃん、美咲お姉ちゃん、どうぞ食べて下さい」


「ほう。昨日に続いてまたお弁当を作ってくれるとは」


「凄く美味しそうね」


 昼の休憩時間になって、俺・沢渡・綾ちゃんが休憩室で昼食を食べ始めようとする。そして綾ちゃんが俺と沢渡の為に手作り弁当を作ってくれて、今日もまた美味しそうなおかずが並んでいた。沢渡は物凄く嬉しそうでニコニコ顔である。


「綾ちゃん、アタシの為にお弁当を作ってくれてありがとう」


「あの、美咲お姉ちゃん。何も抱き締めながらお礼を言わなくても……」


「お前も絵梨や里村みたいな行動をするんだな」


 綾ちゃんを抱き締めながらお礼を言う沢渡に俺が突っ込んでも、当の本人は全く聞いておらず、


「ねぇ綾ちゃん、今度の日曜日にアタシの家に来ない? その時にアタシが綾ちゃんに手料理をご馳走するわ」


「え? 別にアタシはそんなつもりでお弁当を作ったつもりは……」


「良いの良いの。綾ちゃんがアタシの家に来てくれるだけで良いから、ね?」


(コイツ、里村と違ってチャッカリしてるな)


 抜かりない行動を取る沢渡に俺は内心、絵梨と里村が知ったら烈火の如く怒りそうだと思いながらも綾ちゃんの手作り弁当を食べていた。

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