宮永源三の大バカ領主様 宮永楓の幸せな一時 Ⅲ
「か、か、家老? これは一体?」
「ですから先程申したとおり、この擬人化薬でユーにゃんを人間にしたんですよ。まぁユーにゃんがあんなに愛嬌がある子供に変身するとは予想外でしたが」
目が点になって不可解になってる楓に家老が再度説明してると、人間となったユーにゃんは頭に“?”ばかりを浮かばせている。
「??? あれ? どうして僕が人間になってるの? ねえ、どうして?」
「さっきユーにゃんがこの水を飲んだから人間になったんだよ」
「水? ……あ、そういえば」
家老が擬人化薬を注がれた小さな皿を見せると、さっきまで首を傾げていたユーにゃんは思い出してトテトテと家老に近寄る。
「どうして水を飲んだだけで僕は人間になれたの~?」
「さあ? 何でだろうね」
「むぅ~……教えてよ~」
着物の袖を握って教えて欲しいと言って来るユーにゃんに少し意地悪気味に言う家老はすぐに話題を変える。
「それはそうとユーにゃん、人間になった気分はどうかな?」
「え? え~っと……おしゃべりすることができて嬉しい♪(ニコッ)」
家老からの問いにユーにゃんは少し考えた後に思った事を言いながら天使のような可愛らしい笑顔を見せた。その事に家老は優しい笑みを浮かべてユーにゃんの頭を撫でる。
「そうか。それは何よりだ(ナデナデ)」
「にゃう~♪」
頭を撫でられてるユーにゃんは気持ち良さそうな顔をしていると、楓が漸く意識を取り戻した。
「ちょ、ちょっと家老。アタシにもユーにゃんと話させて下さい」
「おっと、これは失礼しました。ほらユーにゃん、楓様にご挨拶を」
「は~い」
家老が促すとユーにゃんは立ち上がってトテトテと楓に近付いて目の前に座り、挨拶を始める。
「え~っと、お婆ちゃんとはなんども会ってるけど自己紹介します。僕はご主人様に拾われたユーにゃんです(ペコッ)」
「あらあら、挨拶が出来るなんて賢いわねぇ~」
丁寧な挨拶をするユーにゃんに楓は笑顔で迎えて褒める。
「うん。猫のときにお兄ちゃんがそうしてるところを何度も見ていたから(ニコッ♪)」
「!!!(ドキューンッ!)……何て可愛い笑顔なんでしょう~~♪(ギュウッ)」
「うにゃっ!? お、お婆ちゃん!?」
ユーにゃんの天使の笑顔を見た途端、射抜かれたかのように魅了されてユーにゃんを抱き締めた。
「ああ……こうするだけで幸福な気持ちで一杯になります(ギュウッ!)」
「お、お婆ちゃ~ん。ちょっと苦しいよ~」
「楓様、一先ず落ち着いて下さい」
力強く抱き締めている楓にユーにゃんが苦しそうな顔をしていると、家老はすぐに楓を正気に戻そうと引き離そうとする。
そして一分後、ユーにゃんと離れて正気に戻った楓は心苦しそうな表情で咳払いをした。
「ご、ゴホンッ! す、すいません家老、アタシとした事がつい……」
「いえ、お気になさらず」
「ゴメンねユーにゃん、苦しい事をしてしまって。どうか許してくれるかい?」
「大丈夫だよ。僕は男の子だから!」
謝る楓に大して気にしないように答える家老とユーにゃん。
特にユーにゃんは男であると力強くアピールする。まるでこの程度では泣かないと言った感じに。
「ありがとうユーにゃん」
「ハッハッハ。ユーにゃんは強い子だなぁ」
「当然!」
エッヘンと言った感じで答えるユーにゃんに楓は笑みを浮かべながら頭を撫でる。
「それに僕、お婆ちゃん大好きだもん♪(ニコッ!)」
「…………………」
ユーにゃんが天使の笑みをすると楓は、
ブ~~~~~!!
「ちょ!? か、楓様!?」
「うにゃ!? どうしたのお婆ちゃん!?」
突然特大な鼻血を噴出して倒れてしまい、家老とユーにゃんは驚愕した。
因みに楓はユーにゃんが近くにいたにも拘らず鼻血が当たらないように顔を横に向けて噴出していたのは補足である。
「どうしたんですか楓様!!」
「フ、フフフフ……も、萌え……」
「お婆ちゃ~ん! しっかりして~!」
「こ、これは不味い……!」
家老はすぐに介抱するが幸せそうな顔をして昇天寸前の楓を見てすぐに手を打とうとする。
「すぐに医者を――」
「ここにいます、家老様」
「ん?」
「うにゃ!? お、おじちゃん誰!?」
医者を呼ぼうとする家老に突然背後から巨漢な男が現れた事にユーにゃんがビックリした。
「大丈夫だユーにゃん。この男は私の部下だ。で、お前は確かローズと一緒にいた――」
「はい、ワタシはマーガレットと申します。ローズ様の代行として参上しました」
マーガレットと言う男はローズと同様のオカマの一人で家老の配下である。今はユーにゃんと楓がいるから普通の衣装で登場しているが、家老だけの場合はローズと同じく女装した姿で参上する。因みにあと三人のオカマもおり、ローズとマーガレットを含めた計五人が家老直属の配下である。
「そうか。では楓様がこんな状態だからすぐに医者を呼んで――」
「その必要はございません。ワタシは医術の心得がありますので」
「そ、そうなのか、なら至急頼む」
「承知しました。ではワタシは楓様を医務室に運ばせて頂きます」
そう言ってマーガレットは楓を横抱きにして、
シュバッ!
「うにゃっ!? お、おじさんとお婆ちゃんが消えた!?」
すぐに姿を消すと、ユーにゃんが余りの出来事にまたビックリした。
「お兄ちゃん! お婆ちゃん達は一体どこに行ったの!?」
「落ち着け。私の部下のマーガレットが倒れた楓様を治そうと医務室に運んだだけだ。大丈夫だよ、楓様はすぐ元気になるから」
「そ、そうなの?」
「ああ。だから今は……悪いけどユーにゃん、ちょっと掃除をするから部屋から出てもらえるかな?」
家老はユーにゃんを落ち着かせると、次に若干殺人現場みたいになってる楓が噴出した鼻血の後始末をしようと準備をする。
「僕も手伝うよ! 人間になった今の僕なら掃除できる!」
「そうかい? じゃあ頼もうか。あとは……」
そう言いながら家老は執務室を出て、近くを通りかかった家臣に声をかけた。
「すいませ~ん、ちょっと良いですか~?」
「何でございましょう?」
「すみませんが掃除用具を此処に持って来てくれませんか? ちょっと執務室が汚れてしまって」
「でしたら女中に執務室を掃除をするように言っておきますが」
「いえ、結構です。私の方でやっておきますので」
もし女中が執務室に入ってしまったら絶対に悲鳴あげること間違いなく誤解するからと家老が内心付け加える。
「家老様自らですか? 何も家老様がそのような事をしなくても……」
不思議そうな感じで言う家臣に家老が、
「すいません。重要な書面がたくさんあるので、もし女中が見てしまって情報漏えいでもされると不味い事になる物ばかりですので……」
「あ、そ、そうでしたか。出すぎた真似をしてしまい申し訳ありませんでした」
申し訳無さそうに言うと家臣はすぐに頭を下げて謝った。
「いえいえ、お気になさらず。ではすぐ掃除用具を」
「承知しました。すぐにお持ち致します」
家臣はすぐに掃除用具を持ってくるために早足で去って言った。
「ふうっ、何とか切り抜けたな」
嘘を付いた事に少し気が引ける家老だったが、一先ず安堵して執務室に入って家臣が掃除用具を持ってくるまで待つ事にした。
「(モグモグ)……美味し~♪」
「ユーにゃん、何を食べてるんだ?」
「うにゃ!?」
家老が声を掛けるとユーにゃんは慌てながらコッチを向く。よく見るとユーにゃんが食べていたのは家老が楓に用意したカステイラだった。
「ご、ごめんなさい。美味しそうな匂いしてたから……」
「食べたければ言ってくれれば良いのに。けど、ソレを食べても大丈夫なのか?」
人間になってるとは言え、ユーにゃんは元々猫だから甘い物を食べさせたら不味いのではと思っていた。
「猫のときは食べようとは思わなかったけど、今はすごく食べてみたいって思ったの」
「そうか。ふむ……後ほどお寮さんに聞いてみるか」
色々と聞く事が増えたと思った家老は取り敢えず、ユーにゃんにもう一つカステイラをあげた。
そして数分後には家臣が掃除用具を持って来たので、家老はユーにゃんと一緒に掃除をするのであった。
一方、その頃
「冗談じゃないよ。課題なんか絶対にやらないんだから」
何と絵梨は懲罰部屋から脱走し、今は庭の外をコソコソと移動していた。
「あのローズって人、意外と簡単だったね。あたしが厠に行きたいって言ったらアッサリ出してくれて、後は簡単に抜け出せたし♪」
騙されやすい人だったとローズを嘲笑いつつ、絵梨はそのまま来牙の部屋に行こうとする。
「待っててね来牙君。すぐに行くから」
「果たしてそう上手く行くと思いますかぁ~?」
「…………え?」
突然背後から声を掛けられた絵梨は後ろを向くと、
「はぁ~い絵梨姫さまぁ~♪ 吾輩はローズエルって言います~♪」
「っ!!!」
そこにはくの一装束を纏ってひげを生やした巨漢のオカマが立っていた。
余りの気持ち悪い姿に悲鳴をあげようとする絵梨だったが、そうすると家老やローズに脱走した事がバレてしまうので出さないように必死に手を口で押さえた。
因みにこのオカマも家老直属の配下の一人であり、家老がローズに『絵梨姫様が脱走した時はローズエルを差し向けるように』と惨い指令を下したのである。
「姫さまぁ~、脱走するなんていけませんわねぇ~。そんな姫様には吾輩がお・し・お・きをしちゃいますわぁ~♪ うふっ♪」
「!!!(ダッ!)」
お仕置きと聞いた瞬間、絵梨は速攻で逃げ出した。
だが、
ガシッ!
「ひいっ!」
「うふふ~♪ 吾輩から逃げられると思わないでくださいねぇ~絵梨姫様♪」
速攻で抱き締められて捕まってしまった。
「さあ~お仕置きですわよぉ~♪」
「いやぁ~~~! すぐに懲罰部屋に戻るから止めてぇ~~~!!! って言うかあなた汗臭い~~~!!」
「うふっ♪ では吾輩が月に代わってお仕置きですわぁ~♪」
「いや~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!」
この後に絵梨はローズエルから頬にキスをされ、頬ずりと一緒に熱い抱擁と言う地獄を味わうのであった。
執務室にて
「あれ? なんか今ご主人様の声が聞こえたような気が……」
(どうやら絵梨姫様は懲罰部屋から脱走したみたいだな。愚かな事をしなければ良いものを)
ローズエルを差し向けた張本人である家老は、絵梨の行動に呆れながら掃除を続けていた。
脱走した愚か者にはそれ相応の処罰が下されたと言う事でご了承願います。




