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白雪嬢を殺せ!(2)

白雪登場です。

あるところに、ホワイトスノーという娘がいました。

ホワイトスノーは心も容姿も美しい娘でした。しかし、ホワイトスノーの美しさに嫉妬した王妃様は、魔女を使って彼女を殺そうとたのです。

魔女は、ホワイトスノーの両親が留守の時に彼女の家を訪ねました。

『どなたかしら?』

『林檎売りだよ。ここを開けておくれ。赤く熟れた、美味しい林檎を食べたくないかね?』

ホワイトスノーは扉を開けて、魔女を家に入れました。

魔女の差し出した林檎は赤く、本当に甘そうでした。

『さあ、ホワイトスノー』

『ええ』

ホワイトスノーが林檎を一口かじると、彼女はそのまま倒れてしまいました。

魔女が渡した林檎は、毒林檎だったのです。

魔女はホワイトスノーの家から出て、王妃様にホワイトスノーは死んだと告げました。

ホワイトスノーの家では、両親が娘の死を嘆いていました。

ホワイトスノーはガラスの棺に横たえられ、美しい死に顔を見せていました。

そして、死んでもなお美しいホワイトスノーの噂は、街を越え都市を越え、なんと王都に住む王子様の耳にも入るほどになったのです。

『そのように美しい娘を、私も見てみたい』

王子様は馬で駆けると、ホワイトスノーの家に行きました。

ガラスの棺で眠る美女に、王子様はくぎ付けになりました。

『なんと美しい』

王子様はゆっくりと棺のふたを開け、ホワイトスノーに口づけました。

すると、ホワイトスノーはまぶたを開いたのです!

ホワイトスノーは美しい王子様に一目惚れし、二人は幸せに暮らしました。



……。

イザベラから白雪の話を聞き、私が昔ハマった小説を思い出してしまった。

そう、シチュエーションが似ているとは思わない?特にマリー様とイザベラらへんが。

「リセミル。聞いてるのか?」

「聞いてるよ。その白雪嬢って、本当に美女なの?」

念をおすと、イザベラは嫌そうに頷いた。イザベラがこんな顔をするってことは、きっと真実なんだろうね。

マリー様大好きなイザベラが認めるってことは、相当美しいはず。

「……おい?」

久しぶりに会うエヌの第一声を無視して、私はグッと王子の手を握った。

「り、リセミル!?」

「王子、グッドタイミングですよ。白雪を妻に迎えましょう!」

私の手は振りほどかず、首を振ることで嫌がる王子。

「嫌だっ」

「何で──」

トンと私と王子の間に手刀が下ろされた。咄嗟に手を離して距離をとる。

「おい」

「なによ、イザベラ」

「白雪は殺すと言ってるだろうが」

でも、マリー様が国一番の美女になるために人を殺さなくてもいいと思わない?

それに白雪嬢が王子のお嫁さんになったらリナール王国の住人になるわけで。白雪が王子のお嫁さんになればリナールも笑顔、カーラも笑顔で、ちょうどいいじゃない。

それを私が説明すると、

「なるほど」

イザベラはあっさり頷いた。

何と言うか……本当にイザベラの中でマリー様以外の人ってどうでもいいのね。

「国一番じゃなくて大陸一を目指してくれっ!!」

一人反対する王子。

王子ー、白雪嬢が死んでもいいんですか?

「リセミルも良いことを言うじゃないですか」

「エヌ。お前も賛成か?」

「もちろんです。ご主人様に犯罪者になどなってもらいたくありませんから」

私の意見に賛成してくれるイザベラとエヌの主従。

「……ほら。言い出しっぺが賛成してるんですから。ね」

「……」

王子の表情に諦めの色が滲んだのを見て、私は手を離した。



「林檎よ、林檎」

カーラ王国の城下街……もっと言えば、果物屋で、私とイザベラは争っていた。

「今の季節、林檎は……。桃じゃだめか」

「駄目よ!林檎!林檎!!」

「あるにはあるが……かなり高価だぞ」

王子とエヌは店頭で争う私達を疲れた目で見てる。かれこれ三十分も続けてるからなー。

「真っ赤で美味しそうじゃなきゃ駄目なのよ。それで毒林檎を作るの!」

「……殺すのは止めるのではなかったのか?」

本当に殺すわけじゃないわっ。

「ご主人、林檎はあるか?」

溜め息をついて果物屋の主人に言うイザベラに、私は「赤く熟れたものを!」と付け足した。

主人は紅玉のような林檎を持ってきて、その値段を聞いたイザベラは支払いを拒絶した。



「ようこそ、キジュ殿下。しかしまた急に……いかがされました?」

王城に着くと、王様の侍従がやって来た。さすがに隣国の王子が城に来たのに何の待遇もしないわけにはいかないみたい。

「ああいや……ちょっと所用が……」

「陛下にご用でしょうか?グードス殿下の結婚式にはご出席なさるようなので、その件でしたら──」

「いえ、本当に大した用ではないので」

まるで早口言葉のように素早く言い終えて、王子はその場から退散した。

「キジュ殿下、あのようなあしらいでは我が国を馬鹿にしたようにしか見えんぞ」

煩く羽ばたくエヌと王子は、果物屋の三十分で仲良くなったらしい。

「良いんだよ、僕は。兄上が国王になったら公爵位をもらって田舎で暮らすから」

「その時には私も雇ってくださいね」

雇い口を失いかけた私が焦って言えば、王子は「……魔女として?」なんて聞いてくる。

当たり前ですよ!

ガヤガヤと歩いて到着したのは、イザベラの部屋。相当デカイその部屋に入ると、ひび割れた鏡がベッドに転がっていた。

「あー!おい、イザベラっ、白雪を殺したんじゃねーだろうな!?」

どこからか声がしたかと思って部屋の中を動き回れば、鏡のそばに妖精がいた。

「あ。この子がルタ?」

「イザベラ様じゃない魔女だ……」

なんとも頭の悪そうな話し方が可愛い。でも、話し方的にさっきのとは違うような──あ。

「鏡の中にいるのね。ドリス?」

性格の悪そうな妖精が鏡の中にいた。

ダンダンと鏡を内側から叩いている。

「あはは。閉じ込めたの?」

「このチビがご主人様を侮辱するからだ」

エヌが羽ばたいて鏡の横に留まった。

「侮辱?」

「白雪を殺そうとご提案なさったご主人様を、馬鹿だアホだのと罵って!この黒チビめっ」

じゃあ、割れた鏡はドリスが抵抗してできた傷ね。

僅かに同情しつつ、私はイザベラを振り返った。

「早速決行するわよ!」

「え。今からか?」

あったりまえでしょ!。

「だって、マリー様閉じこもったんでしょ!?」

「だが食事は召し上がってくださるし……」

「有言実行よ」

カーラ王国からリナール王国まで一往復したイザベラは疲れた様子だったけど、私が思い切り急かせば何かを持ってきた。

色鮮やかな液体が数種と、薬草。

その横に紙袋を置く。

「毒の材料だ。調合する材料によっては、死なないようにも仮死状態にもできる」

そう言うと、イザベラは端から薬草の名前を言っていった。メジャーなものばかりだったし、私も一応母さんから教わっていたから効能は分かる。

チラリと確認すれば、王子とエヌとルタは雑談で盛り上がっていた。

「眠り薬を作るわ。弱めで、私の魔法で解けるくらいのを」

「自分で作れるか?」

「……馬鹿にしてんの?」

料理用の小さな鍋に薬品やら、薬草を煮出した汁やらを突っ込んでお玉でかき混ぜる。沸騰したのを確認して火を止めた。

「エヌ、ちょっと来て」

鍋を見つめながらエヌを呼ぶ。

「はあ?何だ?」

「こっち、こっち……えいっ」

プチッと羽を抜いた。一枚が小さくないので、エヌは悲鳴を上げた。

「だぁぁあああっ!!」

「ごめんね、もう行って良いよ」

「こんの馬鹿魔女ぉ!」

涙目で私を睨む鳩は無視!

羽で鍋の中の液体を混ぜた。

エヌの羽には魔力があるから、その魔力を液体に移すの。

そしてもう一度沸騰させれば、……完成!

誰でも簡単☆リセミル印の眠り薬!

──簡単じゃないか。

そこにとぷんと林檎を漬け、すぐに上げてお皿の上に置いた。

「毒林檎の完成!わー、パチパチパチ」

「……のるべき?」

イザベラが困惑した目で私を見た。



赤い頭巾をした私の頭を、王子が撫でた。

「可愛い……」

「ふっ。当然ですね」

手籠には毒林檎。

「白雪の家はここだ」

眠り薬を試飲をさせたエヌは間抜けな格好で寝ている。

この赤い頭巾は、イザベラが調達してきた。魔女らしいローブを脱がせ、これを被せてきた。ワンピースは黒だから、なんだかミスマッチじゃなかろうか。

イザベラが渡してきた地図を見て、私は頷いた。

「オッケー、ここね」

「ああ。ここだ。私達はここにいるから。何かあったら手紙で合図しろよ」

「任せなさい」

ヒラヒラと手を振ってから、私はイザベラの部屋を出た。

城から出る時の門番の顔を思い出しながら、私はスキップして歩く。誰この少女!?って感じだった。

「真っ赤な頭巾の赤頭巾ちゃぁーん、ららら~」

街をピョンピョン跳ねながら歩いていると、林檎がスポンと抜けて飛んだ。

「ああ!?私の毒……いや、林檎が!」

林檎は弧を描き、誰かの頭に衝突した。その証拠に、「きゃっ」と声がした。

「すみませんごめんなさい、大丈夫ですか?」

近づいたそこにいたのは、黒い髪の少女。私よりも年上みたい。瞳は黒くないので魔女ではないみたい。

「大丈夫よ。ありがとう」

「いえ……」

ニッコリと笑って、少女は私に林檎を渡した。

私だったら二言三言、文句言ってたわ。良い人だな……。

「あ、そうだわ。ねえ貴女一人?」

「え?」

「これ、お店の人の勘違いで多く買ってしまったの。一つ食べてくださらない?」

そう渡されたのはみたらし団子。

「……いただきます」

「ええ、どうぞ」

私と少女は、何となく一緒に歩きだす。

「ね、貴女、魔女よね?」

「う?あ、そうだけど……人だよね?」

「ええそうよ!」

向かう方向は一緒だった。

別に私が少女に合わせているわけでも、少女が私に合わせているわけでもない(と、思う)。

「私、白雪って言うの。白雪=グレイよ」「私はリセミ──ん?」

ん?え?今何て?

固まった頭と共に足も止まる。みたらし団子を噛む口だけを動かして、「え?」と聞き直した。

「あ、ごめん聞き間違えたかも」

「ふふ、大丈夫よ、リセミちゃん」

いや私はリセミではないんだが。

「白雪=グレイよ。これでも男爵令嬢なの。生活はカツカツなんだけどね」

ペロッと舌を出す白雪嬢……いや、白雪は可愛い。可愛い……が、イザベラが言うほどに美しくはない。マリー様どころか、ジュジュ嬢と比べてもジュジュ嬢のほうが可愛いし美しいと思う。

「よろしくね、リセミちゃん。私、リセミちゃんと友達になりたいわ!」

白雪は、私の予想よりも可愛くなくて、そして心の優しい女の子だった。



リセミルは非常に失礼なことを考えてますね……。

まあ口に出してないからいいや、というのが彼女の言い分でしょうか。

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