白雪嬢を殺せ!(6)
「放せーっ!白雪……っ!」
門番二人に押さえ付けられ、ゾゾはこれでもかというほど暴れていた。一刻を争う事態でもないし、私は急がずゆっくり近寄った。
…知り合いだと言うのがちょっと恥ずかしい。
「なあ、こいつ不審者かなー?」
「さあ。一応報告すべきだろ……って、あ。お嬢ちゃん」
裏門を使って城を出たので、行きは彼らと会ってない。
にこやかに私は手を振った。
ゾゾが抵抗を止め、鬱陶しそうに自分を掴む手を見遣った。
「ども~。その人、放してくれない?」
「え?」
門番が私とゾゾを交互に見る。
ゾゾ、私、ゾゾ、私、ゾ……、
「あ、恋人?」
「「違う!!」」
…何故ハモる。
ゾゾ、あんたが言うな!このまま置いて帰ってやろうかっ。
「友達のー、恋人?…と言いますか」
明言を避けてあやふやにムニャムニャ言っていると、ゾゾが大声で言いやがる。
「俺は、白雪の、恋人だーっ!こんなんの恋人じゃないっ」
朝っぱらから耳に響く叫び声を間近で浴びてしまった。
「──こんなん……?」
さりげなく失礼なことを言われた。
言い返そうにも、私がゾゾを睨んだ時には彼は門番に囲まれていた。ちょっとビビるゾゾ。
「お前があのヒドイ彼氏か!」
「お前、あれじゃ白雪が可哀相だろ?」
「……え?」
今どんな状況なの?といった視線が投げ掛けられる。知らんよ、と言いたいとこだけど、分かる。
夜中に、白雪に相談されたんだよきっと。だって盛り上がってたもん。
「身分違いとは言え、結婚話を持ち掛けるだなんて…!」
「お前、恋人として最悪だよ!?分かってる!?しかもヴィーラ子爵とか!」
「あ、あの……?」
「何でよりによってヴィーラ子爵かなぁ。白雪が逃げるのも頷けるよ」
「お前、俺が白雪なら絶対逃げる。あの子爵に嫁ぐとか!」
え、そんなに?と思うほどのヴィーラ子爵の酷評が続く。
きっとヴィーラ子爵にも良いところあるよ…!
なんて思ってしまった。
「──で、彼氏くん何しに来たの?」
「家に連れ戻しに来たんなら、全力で追い出す」
ようやく悪口を言い尽くしたみたい。
何か白雪の親衛隊みたいになった門番達に、ゾゾは挑むような目で対抗する。
「……連れ戻しに来たんじゃありません!駆け落ちするために来ました!!」
「ちょ、ゾゾ、何言っ、」
「よし!良く言った。それでこそ男だ」
「よし通れ。許可する。早く行って抱きしめてやれよ?」
………え。何で良い話っぽくなってんの?
「ゾゾ、待って──」
ガシッ
肩を掴まれた。私の肩を。門番に。
「止めてやるな」
「ああ、そうだよ。祝福してやろうぜ」
「うんうん。ヴィーラ子爵に嫁ぐくらいなら、駆け落ちしたほうが何十倍も幸せだって」
掴まれたきり、抵抗できない私。これ絶対何かの魔法使われてる。だって私、足が動かない。
「……駆け落ちを止めないから、足を解放して」
「絶対?」
「絶対」
頷くと、足が一気に軽くなる。二、三歩後ろに下がって、門番を睨んでやった。
「王子に言い付けてやる」
別に白雪が駆け落ちしようと王子には何の関係もない。ほとんど八つ当たりでそう言えば、門番は気まずそうに顔を見合わせた。
「……ええー」
「いやでも、俺達は悪いことはしていない!だろ?」
「……だよなぁ!あのヴィーラ子爵だぜ!?」
逆にそこまで言われるヴィーラ子爵が気になってきたんだけど。
絶対通さないとばかりに立ち塞がれ、裏門から帰ってやろうかと思ってた私は考えを改めた。
「んじゃさ、ヴィーラ子爵の屋敷の場所教えてよ。どんなもんだか見てくる」
純粋なる興味から、言ってみた。結構気になる。
「ええー。お嬢ちゃん、止めときなよ。ほんと、最悪なオヤジだから」
「悪いことは言わないからさ。あいつ幼女趣味もあるから」
──誰が幼女よ。
粘りに粘って王都にある屋敷の住所を聞き出す。意外にも近く、徒歩で行ける距離だった。
箒を使わなくて良かったことに安堵し、私は意気揚々と出かけてみた。
──まさかゾゾと会ったら即駆け落ち、ってこともないでしょ。
白雪、常識人だし。
──さてはて。取りあえず、着いた。
当然だけど門はガッチリと閉まっていて、わざわざ呼び鈴を鳴らすような用事も私にはない。
バレないように城に戻って、白雪とゾゾを説得しようかなぁ。
最終的に説得するんであれ、その場の感情で駆け落ちなんて駄目だと思うから。
ど~しよっかなー、なんて思っていると。
バタンッと突然扉が開いた。絶対に人の力じゃ無理なほどの速さで。慌てて門に身を隠して中を覗き込む。
それと同時に中から同じ速度で、弾かれるようにして二人の人が飛び出してきた。
「ヴィーラ子爵!」
「申し訳ございません、ですが……!」
二人は男女で…年齢的に夫婦かな。開いたままの扉に向かって叫ぶ。
放り出された体制のまま動かないのは、魔法がかかっているからだと思う。
屋敷の中から、人影が。ヴィーラ子爵だと思って凝視すると、思っていたより普通な青年だった。
門番にあそこまで言われる人だとは思えない。
「グレイ男爵。……契約書には、すでにサインされているんですよ?」
……グレイ男爵。
じゃあ、あの人が白雪のお父さん?というか両親!?
確かによく見れば、目元とかそっくり──って、そんな場合じゃない。
「子爵!お願いします、お話させてください……!」
叫ぶグレイ男爵の目は、青年の奥に向いている。なんだ、あの人がヴィーラ子爵じゃないんだ。
「主には取り次げません」
「お願いします。白雪の婚約を、解消させてください…!」
白雪の、婚約。やっぱりあの人達が白雪の両親だ。
ヴィーラ子爵のもとに、白雪の両親が。どうして?
──白雪の婚約を解消するために。
「だから無理ですって」
扉が閉められて、グレイ男爵夫妻がうなだれたまま立ち上がる。
「……あの、」
門越しに二人に話し掛けると、目が合った。
綺麗に整えられていたんだろう髪はところどころ解けていて、彼らが必死だったことを表している。
「…白雪の、ご両親…です、よね」
「どなたでしょう…ゾゾに関係ある方かしら」
私の魔女の格好を見ての発言。ゾゾに関係あるって言うのは、間違いじゃない。
「初めまして!白雪の友人の、リセミル=ツァーネです」
男爵夫妻は顔を見合わせる。
「白雪は、王城にいます。ゾゾが迎えにきてます。もしかしたら駆け落ちしてしまうかもしれないんです」
「城に?それに駆け落ちとは…」
「私がティナール王国第二王子の魔女をしてたので、私を頼ってくれたんです」
……説明する気も、ご両親に居場所を教えるつもりもなかったけど。
一度は契約を交わしたとはいえ、それを撤回しようとしていた二人が、白雪を見つけたからといって無理矢理子爵に差し出すことはないと思えた。
「私は、白雪が駆け落ちによって幸せになれるとは思えません。だから、迎えにいってあげてください。できるでしょ?子爵相手に契約破棄を申し出ることができるなら」
私の言葉の中に刺を感じたのか、母親の頬が赤くなった。恥ずかしい、と思えるのなら上出来かもしれない。
「だが、ヴィーラ子爵に許可をもらわなければ…たとえ一家が揃っていたとしても、この国で生きてはいけない」
貴族は、プライドが高いから。一度オーケーした約束を破られるなんて許さない。ま、この二人の場合自業自得なとこもあると思うけど。
それよか私にとっては、絶望した白雪に教えてあげたい。白雪のご両親は、まだやり直せたんだよって。
「……私が何とかしてあげます。だから、迎えに行ってあげて」
「あなたが……?」
「私は魔女ですよ。多少強引にでも、契約破棄をもぎ取れる。もうすぐ別れる友人へのプレゼントとして、それくらい簡単だから」
……ふっ。今私、すごい格好良くなかった?




