白雪嬢を殺せ!(5)
「それで……だから……なんです」
「はあ!?じゃあ──で、──なんだな?」
「そりゃ酷い!俺なら……ん?」
白雪と門番は……なんか盛り上がっていた。
夜中の、閉まった門の前で顔を見合わせて何かを話している。何となく門に近づく足は遅くなっていき、最終的にはピタッと停止した。王子が私を追い越してスタスタ歩いていった。
「ああ、王子ー!置いてかないで下さいよっ」
「何で止まるの?」
「だって……行きづらい雰囲気がありませんでした!?」
「全然」
王子、空気読んでくださ──ああ、待ってくださいって!
進みたくもなくなったけど置いてきぼりはもっと嫌だ。渋々、私は王子を追った。
チラリと前方、目的地を盗み見ると、門番の一人がこちらを指さしていた!
「なあ、あれ……」
「ん?不審者か?」
「いや中からさ、あーほらほら」
彼らが指差しているのは、王子だった。私は?と考えてから気付く。そうだ、私は真っ黒の服を着てたんだった。そろーり、と王子から離れる。
「どなたです?」
「ああ、僕は……あれ?リセミル?」
「ん?貴方お一人でしょ?」
門番の一人が王子の後ろに回ったところで──、
「わっ!!」
「──!?」
思い切り後ろから脅かせば、門番はいきなり槍を突き付けてきた。
「ひぃっ!何すんのよ、危ないなぁ!」
「危ないのはそっちだろ、お嬢ちゃん。いきなり驚かすなんて!」
私が言い返そうと口を開くと、パカッと蓋みたいにそこに手を当てられた。王子だ。
「こんな夜中に、うるさいよ。白雪っていうのは、そのひ……と?」
王子は、白雪の顔を食い入るように見てから瞬きし、再び見つめた。
門番達は「惚れたかぁ~?」とか言ってるけど、私には違うと分かる。
……そう、王子は、鏡の中の美しい白雪と実際の白雪の違いに驚いている!……んだと思う多分きっと!!
白雪は、若干照れつつも私を見て笑顔になった。けれど、まるで王子の視線に押さえ付けられているみたいにその場から動かない。
まあ、白雪からしたら初対面の優男に見つめられてる状況だからねえ。仕方ない。
「……あの?」
「あっ、ああ、失礼」
「王子!こちら、白雪=グレイ男爵令嬢です。──白雪、この人が、私の雇い主のキジュ=リナール第二王子殿下だよ」
ふぅん、と一度頷き、すぐさま白雪は飛び上がるようにして頭を下げた。門番も、つられるようにして頭を下げる。
「は、は初めまして!白雪=グレイと申します!夜分申し訳ございません!」
勝手に出てきたのは私達なのに……。白雪は礼儀正しいことこの上ない。
王子はと言えば、久しぶりに王子らしい扱いを受けて感動していたらしい。
「話づらいから、頭を上げてくれ」
という声が、少し嬉しそうだもの。
恐々と頭を上げてから、白雪は不思議そうに私に尋ねた。
「ねえ、リセミルちゃん。どうして、私がここにいるって分かったの?」
至極もっともな疑問。
「部屋で、教えるよ。……あ、この子、連れてくから」
門番に言えば、彼らは頷いた。
城に戻り、部屋に向かう。白雪はキョロキョロと周りを見渡していた。王子は何も言わない。
白雪に、何があったんだろう?こんな夜更けにお城に訪ねるなんて、彼女らしくない。
「……白雪ちゃん、何かあったの?」
白雪は一瞬だけ迷ったようだった。けど、
「──うん、あったわ」
「え」
「ふられたの。ゾゾに。父や母が持ってきた結婚話を受けろと言われたわ」
「ゾゾが?」
少し信じがたい話。だって、あのゾゾが。ゾゾなら、反対されても自分の主張を貫きそうなのに。
そんな私を見て、白雪は優しい笑みを見せた。
間もなく、私の部屋に着いた。
人のいない部屋は冷たく、温かみのない雰囲気で満ちていた。外よりも寒い気がして、何となく、腕をさすってしまう。
ドリスの入った鏡とルタが、ベッドにいる。
扉を開いた瞬間、ルタがふよふよと飛んできた。妖精を、白雪が驚いたように見る。
「ね、リセミルちゃん……これ、妖精?」
「そうだよ。それがルタで、こっちの……鏡にいるほうがドリス」
ベッドに置いてある、ひびのはいった鏡を見せれば、白雪は興味津々でそれを見た。
「そのドリスが、白雪の来訪を教えてくれたの」
「まあ、そうなの……、でも、どうして分かったの?」
鏡を撫でるようにする白雪。
鏡は何も言わない。ただ無機質に、自分を見下ろす白雪を映し出すだけ。
あんなに白雪白雪ってうるさかったドリスが、まさかの無視だよ!?
何度か呼び掛けていた白雪だけど、困惑した表情で私を見た。
「リセミルちゃん……」
「あはは、どうしたんだろ、ドリスー?あんたのアイドルが来たよー?」
しーん。
ルタに、「ドリスは?」と聞いても、「え、いないですか?」と尋ね返された。
「ま、いっか。どうぞ白雪、ベッドにでもソファにでも、座って。話そう。何があったの?」
白雪はベッドに座り、一度恐縮したように王子を見てから、ぽつぽつと話し出した。
「……私は、ゾゾと結婚する。その決心を皆に見せ付けるために、出てきたの。それで、リセミルちゃんがお城にいることを思い出して……、迷惑だってことは分かってたんだけど、他に行く場所が思い付かなくて……」
「──出てきて、ずっとここにいるつもりかな?」
大丈夫だよ、と私が言う前に、王子が苦笑を含ませた声で言った。
いきなり何を言うんですか!
慌てて王子を叩いて黙らせようとすると、王子は軽い動作で私の手をかわした。
「最終的な道は、かなり限られているよ。そのヴィーラ子爵のもとに嫁ぐか、もしくは、──そうだな、ゾゾと逃げるか」
「……逃げる……?」
「つまり、駆け落ちだよ」
事もなげに言う王子。呆気にとられる私達。ロマンス小説じゃあるまいし。そんなこと、できるわけない。
そうだよね、と白雪を振り仰ぐと、白雪は目を輝かせて王子を見つめていた。
「ゾゾと、二人きりで……」
「し、白雪?駆け落ちなんて、現実的じゃない。そうでしょ?」
「まあもっとも、そのゾゾが君をさらって逃げてくれるか、逃げた先での衣食住はどうするか。そう考えたら、駆け落ちなんて……リセミル?なんで睨んでくるの?」
なんでって……睨むに決まってるでしょ!
貴方のせいで、白雪がすっかりその気になってるじゃないですか!
私の強い睨みに王子はへらりと笑みを浮かべ、
「とにかく、今日はもう遅い。寝ようか」
と、そう言った。
*********
白雪には、空いている客室を使ってもらった。
勝手に貸しちゃったんだけど……誰も使ってなかったし。大丈夫だよね?
起きたら、一度家に戻る、と白雪は言っていた。ゾゾと話し合う、と。その話し合いが、駆け落ちについてじゃないといいな、と私は思ってる。
さて、私はと言えば──。
「ピピピ、ビピピピピ」
自分の部屋に戻って寝たんだけど、天然の目覚まし時計に起こされた。天然ていうか、鳥よ、鳥!白い、雪のように純白の小さな鳥。それが寝ている私の耳元でピーピー煩く泣きつづける。
「ピピピ、ピピピ」
「………」
「ピーピーピー!ピピピピピピ」
「だーもう、うるっさいなぁ!何だよ!!」
「ピ」
鳥は起き上がった私を満足げに見て、すぐに煙に変わる……魔女の手紙だ。
「けほっ、げほ、けほけほっ!」
朝一に煙を浴びせられた私。咳込む私のすぐそばに、折り畳まれた手紙が落ちた。
それを拾い上げ、読むと。
『城門前で待つ ゾゾ』
……激しくデジャヴュを感じた。
グードス様といいゾゾといい、どうして一行で済まそうとするのか。決闘するんじゃないんだから……。
「………はぁ」
ため息をつき、私は着替えはじめた。
駆け足で城を出て、城門に出るとそこには見知った顔。私の足音で気付いたのか、私を振り向くと、彼……ゾゾは軽く手を挙げた。
「ここに白雪がいるな?」
「う、うん」
頷いてから、思った。
言って良かったのか?
ゾゾは、寝癖のついた頭を軽く振って、「……白雪」と呟いた。
「俺はどうすりゃ良いんだ」
「白雪と話し合いなよ。白雪は、駆け落ちなんて言い出すくらいに思い詰めてるんだ……か、ら……」
言い終わる前に、嫌な予感が全身を包み込んだ。
私を見る、ゾゾのこの真剣な目。
「ぞ、ゾゾ?」
「白雪が言ってるのか?」
ガシッと、肩を捕まれる。
「え?」
「白雪が、俺と駆け落ちしてもいい、って言ってるのか?」
「ん、昨日の夜はね。そう言ってたけど──」
私が言い終えるよりも早く。ゾゾは持っていた箒に飛び乗って城に飛び込んでいった。
「え、えー!?何で私呼ばれたの……?」
慌ててゾゾを追えば、彼は門番に捕らえられていた。
情熱だけでは、門番に勝てなかったらしい。暴れるゾゾを解放してもらうために、昨夜顔見知りとなった門番へ近づいた。




