表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/12

白雪嬢を殺せ!(4)

「リセミル。遅かったな。それで、成功したのか?」

 私と王子が王城に戻ると、イザベラが私達を待っていてくれた。

「え」

 手のつけられていない毒林檎がバスケットに入ってる。成功か失敗かで言えば、絶対に失敗だよね。でも、今の私には、白雪を王子の花嫁にする気はない。

「うーん……どちらかと言えば失敗?かな?」

「はあ?」

 眉をひそめるイザベラ。

「あ、あんただってねぇ、ゾゾにやられたくせに!威張んじゃないわよ!!」

「聞いたのか!?あれは不意を打たれただけだっ」

 イザベラの部屋に入り、林檎をテーブルの上に置く。

「正直に言います。白雪には恋人がいたわ。ゾゾっていうね。それに、彼女はマリー様が落ち込むほど可愛くない」

 ぼすん、とベッドに座ったら、ひびのはいった鏡が跳ねた。

「可愛くないだとぉ?」

 鏡の中から抗議の声が上がった。

「てきとうなことを言うな、馬鹿魔女」

「いや、本当に。かなりいい子だったけど、別に絶世の美女というわけでは……」

 と、言いかけたところで、私は気が付いた。

 イザベラって、本物見たことあんの?

「イザベラ、白雪見たことある?」

「もちろん、ある。その鏡でな」

 なら、と壁に背中を付けていた王子がベッドに近づいてきた。

「僕達も見せてもらおうよ。僕はまだ見てないし」

 ……そうだね。白雪はイザベラが美しいという顔ではなかったし。多分鏡のほうが変なんだと思うけど。

「ドリス、白雪を映してくれる?」

 鏡を小突けば、その表面はぐにゃりと歪んだ。

「こ、これは……!」

「うわ、可愛いな……」

 鏡に映っているのは、白雪に似た髪型と服装の、──別人。百歩譲っても白雪だと認めない。美化しすぎて別人になっちゃった感じだよ。

「可愛いだろ?」

 鏡の中からドリスの誇らしげな声がした。

「これ白雪じゃないでしょ!」

 私が叫ぶと、ドリスは自信満々な声で一言。

「俺にはこう見えるんだよ」




「王子、起きてますか?」

 結局、私と王子はカーラ王国王城で一泊することになった。イザベラは私の語る白雪を疑わしそうに聞き、明日にもう一度訪ねる、と言ってた。

 私はといえば──眠れなくて、王子の部屋を訪ねている。

「リセミル?」

 幸い王子は起きていて、驚いたように私を見た。薄手の寝間着を着てる。眠そうにとろんとした目を擦っている姿は、子供みたい。

「良かった。起きてましたか」

「……どうしたの?眠いんだけど」

「私、枕が変わると眠れないんです」

 私の初耳情報に苦笑し、王子は薄く開いた扉を大きく開放した。

「入る?」

 あくびをしながら入室を勧める王子。入りますとも。

 するりと王子の脇を抜けて、部屋に侵入した。

王子は眠っていたらしく、毛布がめくられた形でベッドが乱れていた。

「僕は寝るから。好きなだけいていいよ」

「えー?お話しましょうよ」

 ノリの悪い人は嫌われますよ?

 ベッドに入ろうとする王子の寝間着を引っ張って阻止して、ベッドに腰掛けた。ぽんぽんと横を叩けば、王子も隣に座ってくれる。

「眠れないのは本当に枕のせいだけ?」

 本人による本人の情報をやんわりと否定して、王子はそんなことを言った。

「そうですよ」

「そのわりには……リナールの王城ではどこでもいつでも眠っていたようだけど」

 微かな笑いの込められた声に、私は俯いた。

「……白雪嬢のことが気になる?」

「王子は──白雪と結婚したかったですか?」

 一年中暖かな気温のこの地方だけど、王子は毛布を引き寄せて私の膝にかけてくれた。

「白雪と結婚してほしかった?」

 ──当たり前ですよ。

 主語が変わっただけなのに、小さな疑問が難問となって返ってきた。

「別に、どうしても白雪と結婚してほしかったわけではありません」

 王子が手を伸ばして私の髪に触れた。無造作に束ねられた、魔女の証でもある黒髪。優しく撫でられると、いつのまにか睡魔が近寄ってきた。

「それに──王子の花嫁探しは思いのほか楽しいです。ずっと王子と一緒に王子の花嫁探しをしていたいくらい」

 優しく頭を撫でる手が止まった。すっと手は頭から頬に移る。

「王子?」

「リセミル……」

 心地好くて、私は力を抜いて王子によりかかった──

「リセミル様ぁぁあああーっ!!」

「……っぁ!?」

「……はあ」

 王子が顔をしかめた。

 今の声は、確か……ルタ?

 眠気もなくなったので、私は王子から離れて扉を開けた。

「ルタ?」

「ああリセミル様!いてくださいましたかっ!」

 弾丸みたいにルタは私に飛び付いてきた。

 とても焦っているみたいで、小さな羽をパタパタと揺らしている。王子も近寄ってきて、不思議そうにルタを見た。

「どうかした?」

 ルタはコクコクと頷く。

「白雪嬢が、リセミル様に会いに、城まできているそうなのです」




 ルタが言うには、最初に騒ぎ出したのは鏡に閉じ込められたドリスなのだとか。彼が鏡の中で白雪を見ていると、白雪は家を出たらしい。深夜に家を出るなんて、心も姿も美しい白雪のすることじゃない!と言うんで見守っていると、彼女は王城に来た。夜中に門が開いているわけでもなく、白雪は門番と少し話をしているのだそうだ。

「読唇術で見た。白雪は、リセミルちゃん、と言ったぞ」

 鏡の中で、目つきの悪い妖精は堂々と言い切った。

 私は黒いワンピースにカーディガンを羽織って、同じく薄着の王子と共に部屋を出た。ドリスの入った鏡はルタと一緒に部屋に置いていく。

「あら、いかがなさいましたか?」

 見回りでしょうね。メイドが私と王子を見て声をかけてきた。

「少し……門まで」

「こんな夜更けに……でしょうか。ご無理はされないでくださいね。魔女様がいらっしゃるのなら、変な心配は無用でしょうが」

 メイドは私の格好と、それから髪と目で私が魔女だと確信すると、肩を竦めて許してくれた。王子のことは、あまりに王族らしくない軽装のせいで見咎められなかった。もしも王子の身分をこのメイドが知ったら、通してくれるはずないもん。

 正門は、夜の内に開かないし開けない。なので私達は使用人の使う裏口から外へ出た。

私はたまに使うけど、王子は物珍しそうにキョロキョロと見回している。

「……初めて通ったなぁ」

「私はたまに使いますよ。里帰りの後とかに遅刻そうな時便利です」

「間に合ってるみたいに言わないでくれ。毎回遅刻してるだろう?」

 裏口から正門へは、近い。城壁を回るようにして歩けば、すぐに正門が見えてくる。

 正門前には二人の門番と女の子……白雪が本当にいた。

「うわ、いた!」

「あの子?」

 本物の白雪には初めましての王子は、門番の前に立っている白雪を指差して私を見た。

「ええ。あの人です」

 こんな夜更けに、どうしたんだろう。

 私は小走りで正門に近寄った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ