バッドエンド
「ハァ……ハッ」
神子の目の前には、先ほどまで微動だにしなかった車が風を切っている。そして後ろを振り向くと、タクシーのバッテリーは直っていた。信じられない光景が、神子を翻弄していた。―プゥゥ!―クラクションの音で、神子は我に帰った。
「す、すみません」
神子は車が通っていないタイミングを計って道をずれた。
「……なんで?」
不意に弱音が漏れた。神子は少しの間何も考えられなかった。ケータイを取り出し、木村に電話を掛ける。
「室長……すみません、具合が悪いので今日はムリです」
『えぇ!?本当に?困るなぁ……。どうしても?』
「はい」
『だったら、俺が見るからいけどさっ』
「すみません」
『こっちは何とかするけど……松ちゃんは大丈夫なの?声、震えてるよ」
「大丈夫です。ご迷惑おかけして、申し訳ありません」
神子は伝えたいことだけ伝えると、電話を一方的に切った。
「……どうしよ?」
ケータイの待ち受け画面で時刻を確認する。7時03分。後2時22分だ。聞こえは長いように感じるが、分に直すと142分。秒にすれば、8520秒だ。そこまで長いともいいづらい。
「……」
道を歩道に直してから、数分は経っただろう。近くに視線を変える。コンビニがあった。今の神子は何かしらの動きをしていないと不安に駆られてしまう。
「いらっしゃいませ」
店内に入ると、アルバイトと思われる店員の男性が声を出した。中には男性2名、女性が神子を含めて2名だった。いつもの雰囲気で雑誌コーナーに移動する。別に、何か目的があるわけではない。前に買った雑誌を手に取る。中身は変化することはないと分かっているのに、中身を確認する。もちろん変わりはない。でも、ただ時間が過ぎるのを待ってみる。
7時23分を回ったころ、『地震』が起きた。
「うわっ」
中にいた男性の1人が軽く声を出した。神子は突然の災害に驚いてバランスを崩した。そこまで大きくはないが長い。そのうち、店内の商品が落ちはじめた。神子の前にあった雑誌を置く本棚も……。―ガシャン!―大きな音が、店内に響いた。
「キャァァァァァ」
神子は突然のしかかった本棚、そして痛みに耐えることが出来なくなっていた。
「お客様、大丈夫ですか?」
アルバイトの男性が声を掛ける。と同時に、揺れは収まった。神子が店内を見ると、自分のように何かが落ちてきた人はいないようだ。アルバイトの男性はオロオロしていて、戸惑っている。
「すみません、コレ、どかしてください」
神子は痛みを抑えて声を出した。
「はっはい」
店員は神子の指示通りに本棚をどけた。
「ありがとうございます……」
「あっ、あぶないっ!」
声を出した男性が、神子に向って注意を促した。
「え?」
当然、神子は状況が分からない。後ろから、『包丁を持った男』がきているなど……。別の男性が、包丁を持って神子に向ってきたのだ。
あぁ、私、死ぬのか……。
『楽観主義』。神子の根本的性格が、この状況下に陥っても変わることはなかった。結局、人の本質など『死ぬ』ときしか分からないものだ。
―ブシュッ―神子の血液が、店内に飛び散った。
「あ~ぁ。ゲームオーバーか……。あと2時間もあったのにねっ」
男性、青年は、苦笑しながら言った。店内にいた人は何もできないで、ただ見ていた。
「あっ、『鈴』は返してもらうね」
青年はそう呟くと神子のバッグから全ての元凶である『鈴』をとって、店を出て行った……。




