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拾った『鈴』

 「何これっ」

その一言から、塾講師の松星神子(まつぼしみこ)の夏が変わる。

「ん?何それ?」

そう尋ねたのは、自習の時間に来ていた森上太一(もりかみたいち)だった。太一は中学3年生のため、苦手教科の英語の自習に来ていた。

「何って、お前の辞書から落ちたんでしょ?」

「知らねぇって。何か入ってた。……あっ、それあげるよ。不気味だし」

この塾の目標は『友情関係』だった。講師と生徒といえど、中がよくなければならない。ただ、授業の時にはめりはりをつけろということだ。

「……ありがとう」

何となく、流れでその『鈴』を神子は貰ってしまった。

「呪われるかもね」

太一の横の席に座っていた川村詩乃(かわむらしの)が冗談交じりに言った。

「うん。明日になったらいなくなっていたりしてぇ」

太一もそれにのって笑いながら言った。

(呪われの鈴……か。怖~い!とか言ってみる?)

神子自身も、そこまでそれの存在を気にすることもなく、その『鈴』を筆記用具にしまった。

「つーか明日私いないしっ」

「な~んだ、つまんないのぉ」

詩乃はそう呟くとすぐに自習に戻った。

 翌日。夏休みに入ったこともあり大学もない神子は、少しいつもより遅めの起床だった。

「8時か……」

ベットから降りて、リビングに向う。郊外のためか、マンションの家賃は安く、3LDKにすんでいた。リビングにはそれなりのテレビとPCが置いてあり、キッチンには整理整頓された食器類が並べられていた。―トントンッ―。

「?はぁ~い」

チャイムではなくノックをしてきたことに対して、神子は疑問に感じたが気にせずドアをあけた。

「はい……?」

そこには、誰もいなかった。ピンポンダッシュ程度にしか考えなかった神子だったが、一瞬だけあの『鈴』が頭を過った。

「まさか……ね?」

ほとんど気にせず、部屋に戻った神子は、鞄の中の筆箱を探った。―チャリン―鈴が何ともないように音を鳴らす。

「よしっ。気分直しに買い物でもいくかぁ」

近くのショッピングモールで秋物の服でも探そうかと準備をはじめる。―♪―ケータイが鳴る。神子はメール受信と電話の着信音を変えているので、電話がきたとすぐに分かった。画面には『木村室長』と書かれていた。木村室長とは、神子の塾の室長のことでユーモアもあり29歳にしては考えられないくらい落ち着いている人物だ。

「はい」

『あぁ、松ちゃん(まっちゃん)?あのさぁ、今日予定ある?』

いつも落ち着いている木村にしては妙に急いでいるような言い方だ。

「いえ。特にありませんが」

『マジ!?だったら、6時30分から入ってくれない疑?金峰(かなみね)が夏風になっちゃってさ』

「分かりました。行きます」

おかしい。神子の先輩になる金峰美樹(かなみねみき)は、風などを引くような体ではない。3年目の金峰は今まで休んだことはないかった。

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