春隣⑧
本書はフィクションです。実在の人物・団体・省庁とは一切関係ありません。また、執筆にあたり複数の公務員の取材や架空のエピソードを組み合わせて構成しています。
ご覧いただきありがとうございます。
本作は、実話をもとに再構成した「叩き上げ公務員」の半生を描くサクセスストーリーです。
学歴もコネもなく、定時制高校からスタートした主人公。
決して順風満帆ではなかった彼が、どのような葛藤や壁を乗り越え、霞ヶ関の本省、そして幹部へと駆け上がっていったのか。
実際の官僚機構や他省庁でのリアルな泥臭さ、そして人生後半での新たな挑戦までを丁寧に描いていきます。
働くすべての人、そして逆境から這い上がりたい人に届く作品になれば幸いです。
ぜひ最後までお付き合いください!
3月下旬。I高校の終業式が、無事に終わりを告げた。
放課後、いつものように4人は自然と集まっていた。
「……1年、終わったな」
芝田がしみじみとした声で切り出した。
「そうやなぁ……」
浩一がその言葉を静かに引き取る。
「それにしても川野と桐通は、1年間『無遅刻・無欠席』を通し切ったんやからほんま凄いと思うわ」
芝田の言葉に、桐通はいつものように謙虚な調子で応えた。
「結果的にはそうなったな。……川野と約束してたから」
「凄いどころの話ちゃうって! 俺なんか早々に脱落しとったのに……」
瓜生がおどけて自嘲してみせると、芝田が少しだけ眉をひそめて呟いた。
「でも、あれやな……無遅刻無欠席で成績もええのに転校なんて、なんか……思うところがあるなぁ」
「桐通との約束を守りたかったのもあるけど……まあ、自分の意地かな。特定の誰かってわけやないけど、自分なりの『ささやかな抵抗』でもあったんよ」
「そうやよな……。成績も良くて無遅刻無欠席なのに『……って、なんとかならんのか』って、どうしても思ってしまうわ」
芝田の悔しそうな言葉に、浩一はみんなの顔を見回して微笑んだ
「でもな……たった1年やったけど、お前らに出会えたから、ほんまに良かったと思ってる」
「おいおい、もう二度と会えへんみたいな言い方すんなや。寂しくなるやんけ……」
いつも通りの賑やかな雰囲気のどこかに、今までにはなかった「別れ」の切なさが混ざり合っていた。
「定時制の合格発表って、今週末やったな。……まあ、結果は分かってるようなもんやけど」
芝田が確認するように言うと、浩一は頷いた。
「そうやねん。合格通知をもらったら、春休みの間にここの事務局に来て、転校の手続きをする予定や」
「……お前が一人で転校の手続きに来るんか?」
「そうやで」
「お前……なんでもかんでも一人で抱え込みすぎちゃうんか?」
心配そうに覗き込んでくる芝田に、浩一は首をかしげた。
「そうか? 自分のことなんやから、自分でやるんが当たり前やろ」
「そやけど……お前、見た目は幼くて大人しそうな顔してるのに、ほんまに強いなぁ」
「そうなんかな……自分ではあんまり意識したことないけど」
浩一が苦笑いしていると、瓜生がパッと表情を明るくして聞いた。
「春休みはバイトするんか?」
「いや、そこまで探す余裕がなかったから、春休みはバイトせえへんよ」
「そっか! ほな春休み、みんなで思いっきり遊ぼうぜ!」
「了解!」
かけがえのない親友たちの温かさに包まれながら、浩一のI高校での全日制高校生活は、静かに終わりを告げたのだった。
ご覧いただきありがとうございました!
終業式後の教室で交わされる、いつもの軽口と、その奥に隠された切ない別れの予感。
「お前らに出会えて良かった」と素直に伝える浩一と、「もう会えへんみたいな言い方すんなや」と寂しがる仲間たちの距離感が、どこまでも愛おしく描かれたエピソードです。
自分の足で立ち、自分の人生の手続きを自分で進めていく浩一の「静かな強さ」。
寂しさを抱えつつも、春休みの約束でパッと弾ける彼らの笑顔に、未来への希望が感じられます。




