チョコレイト・プレリュード
高校二年生の、2月某日。
学年末考査を控えた試験前の緊張感が漂う図書室。
ごく小さな話し声がたまに聞こえる程度で、あとはペンを走らせる音と紙を捲る音が静かに奏でられている。
図書室の奥の自習スペースで並んで座る二人の間には、参考書とノートが積み上がっていた。
不意に、ぱきっと芯の折れる音とかちかちと芯を出す音が聞こえてくる。
「あ、やべ。サキ、シャーペンの芯くれ」
「一本100万ね」
目の前に座る相手にケースごと芯を差し出すと、図々しくも三本程拝借して自分のシャープペンシルに補充した。
「…コウタ、300万」
「出世払い」
この軽口を言い合えるのは、あとどのくらいなのだろうかとサキは頬杖をついて雪の降る窓の外に視線を向けた。
しんしんと降る雪はうっすらと窓枠に積もり、帰りの交通機関の心配をしながらふぅとため息を漏らす。
二年生が終わると、クラスが別れてしまう。
文系と理系で授業も被らないので、これが最後の機会なのかもしれないと付箋にメモを走り書きして参考書に貼り付けた。
「ねー、コウタ。勉強飽きたよ」
「俺だってしたくねーよ。でも人生にはやらねばならない時があるのだ」
「何キャラだよ」
サキの手は小さく震えていた。
勉強に夢中で、正面にいるのに視線が噛み合わないのが幸いだったかも知れない。
「ね、コウタ。これわかんない。答え合わせして」
ようやくコウタが視線を上げてサキの顔を見た。
寒さか何かで微かに身体が震えていて、カーディガンの袖を伸ばして指先を隠しながら器用にペンを握り直した。
「……どれ?」
コウタが立ち上がると、椅子を引きずる音が微かに響く。それから体温ごとサキの隣の椅子に移動する。
サキの手元の参考書を覗き込むと、付箋の隙間に小さな、本当に小さなチョコレートが隠されていた。
「……これ、質問への回答が必要?」
男が小声で尋ねると、女はペンを動かしたまま、前を向いて小さく頷いた。
「正解ならそれ食べて。不正解なら、そのまま返して」
コウタは何も言わず、銀紙を剥がす。
小さな甘い音が、静かな空間に溶けていった。




