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街の気配

 ダンジョンの匂いは、ぐるりと回って戻ってくる。

 街の匂いは、前に進んで、消えていく。

 ヒカリは、街の匂いをかいで、人の動きを眺めていた。

走る人。

荷物を運ぶ人。

武器を手に行進する人。

手をつなぎ、ゆっくり歩く人。


 ヒカリは、人を騙すためでもなく、近付くためでもなく、

ただ、人の暮らしを邪魔しないように、それを見ていた。

 そうして見ていると、街の中で、一番に循環している施設が目に入った。


ギルドだ。


(循環は、大事。ここは、ちゃんと回ってる)


 立て付けの悪い悪い扉を、そっと開く。

 形が崩れないように気を付けて、ヒカリは、ギルドの中へと入った。


 人の匂い。

紙の匂い。

鉄の匂い。

わずかに、血の匂い。

 様々な匂いが、入り混じっている。

 ギルドは、街の情報が集まる場所だと、パパとママが言っていた。

 図鑑や名簿に、紙でまとめてることもあるから、

気になる事は、そこで見ると良いらしい。

 文字は、教えてもらったので、だいたいはわかる。


「お姉さん、図鑑、ありますか?」


 ギルドの職員――受付のお姉さんに、声をかける。

ヒカリの小さな声に気付き、お姉さんは、少し考える素振りを見せた。


「はい、貸し出していますよ。

どうぞ、こちらです」


紙の束を皮でまとめた、分厚い本。

人間たちが集めた情報を、一つにまとめた物、図鑑だ。


「重いから、気を付けてね」


 小柄とは思えないほど、重量で体幹がぶれる事はない。

ヒカリは、その分厚い本を、柔らかい手で受け取った。


 人間が集めた情報。

ここには、何が詰まっているのだろう。

 ヒカリは柱の陰に身を屈め、ギルドの床に座り、本を開いた。


 要注意魔物リスト。

 各ダンジョンに生息する、危険な毒を持つ魔物や、特に強い個体の魔物が、イラスト付きでまとめられた一冊だ。


 見た事の無い魔物ばかり。

ページをめくるたび、ヒカリは、自分の暮らしている場所との違いを発見する。

 途中、気になる記述に、ページをめくる手が止まった。

姉と、よく似た情報。


(ササヤキお姉ちゃんだ、これ)


 そこにイラストは無かった。

代わりに、注意書きだけが並んでいる。


 幻惑の森に行ってはならない。

行ったとしても森の奥に踏み入ってはならない。


 霧に姿を溶かす、強力なダンジョンマスターが存在する可能性がある。

実態は不明、現在調査中。


 霧が濃くなった場合、覚悟を決めて逃げなければならない。


 幻惑耐性装備、耳栓の携帯を推奨。


 その囁きを聞いてはならない。


 注意。

 注意。

 注意書きの数々。


(あ、お兄ちゃんたちの事も載ってる)


 パパとママのダンジョンから巣立って、ちゃんと家を持った兄姉は四人。

触手だから、四本。


 その全員が、要注意として載っている。


 霧から声を出す、ササヤキお姉ちゃん。

 甲冑の背中から、金属の触手を伸ばすハガネお兄ちゃん。

 虫と、仲良く暮らしているミツお姉ちゃん。

 黒い割れ目の向こう、静かに待つヤミお兄ちゃん。


 みんな、人間と関わりながら、ダンジョンを循環させているみたいだ。

 巣立った触手は、他にもたくさんいる。

だけど、今も連絡がついて、ちゃんと自分の家を持っているのは、四本の兄姉だけだ。


(もっと、家族増えたら、うれしいな)




 ギルドの警備員は、理由の分からない不安感に足を止めた。

近くに、何か良くないものがある。

そんな感覚だけが、付きまとう。


 ギルドの中を見渡してみるが、怪しいものは見当たらない。


 正体不明の不安。

 見えない。

 音もしない。


 それでも、背中に、じっとりとした汗がにじんだ。

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