非現実
「そういや俺達って<あっち>の国の中ってか人間社会に紛れ込んだら無職~って思いっきり見下されるんだろーなー」
「……」
まあ、それはそうだ。
事実なので反論をしないのは勿論、呆れ視線も向けなかった。
カナンやジョシュアだけではない、アウレリウスも無職だろう。
妖精や精霊、霊獣は流石にそのカテゴリーには入れないだろうが、カナン達は "人" である以上、侮蔑時は同等物扱いするに違いない、と醜く決めつける。
そちらの方が想像するに容易いからだ。辜負族(の特に人族)の日頃の行状からして。
そうでない者がいる可能性を否定する気はないが、そうした者がいることを確定する為に探す必要性も感じなければ縁のないそうした者に気を遣う必要性も見つけられない。
ただ、
「……」
遅ればせ、ジョシュアは "人" 括りになるのだろうか、と思いつく。
このジョシュアは肉体を持たない。
本体はカナンに統合されているオリジナルの魔力だ。
だが、当人が「俺達」と言った以上、"人"扱いでも良い? というよりきちんと "人"認識でいるべきか。
「…………」
べきもなにも、半精霊化していると意図的に再認識をすることがあるくらいには普段自分と同じ "人" としてしか扱っていない。
「………………」
特にリアクションを求めてはいなかったようで、リビングにいるジョシュアへちらりと視線を流せば、壁に映し出している〔光幕〕越しに<あちら>のあまり穏当ではない様子を凝視しており、何がどうしてそのようなものを見る気になったのかは知りたくもないが、その映像の流れで何となく口にしただけなのだろう、で勝手に納得しておいた。
* * *
「若い頃にあったな。無駄に数だけはいる "一般人" に取り囲まれ、嘲笑と罵詈雑言をこれでもかと浴びせ掛けられた」
アウレリウスの若い頃、となると最低でも千年前? それ以上?
「何故そういう状況になったかは忘れたが、まあ、そうした碌でもない部分ほど記憶に残っているものだ」
これは年のせい、と言いたいのではないだろう、と頓珍漢なことをカナンは思わず考えてしまい、そんな自分に「嘲笑」と「罵詈雑言」は中身を知らなくても威力の強い単語だよな、と溜息をつく。
「無職」の話をアウレリウスに振ったのは部屋にいる[ホーム]の精霊だ。ジョシュアとその話をしていた時にもその場にいた。
酒の肴にするには今一つ適切ではない話題に思えるが、それはカナンの主観で、精霊にそうした人間臭い価値観は押し付けられない。
何と応じれば良いか分からず、カナンは眉尻を下げるだけに留めたが、ふと、あのゲームのPCのステータス欄には有り勝ちに「職業」があったがトリップした後は欄自体が消失していたな、と思い出す。
無職であることは事実なのだ、否定しても始まらないが、それでも欄が空白や「無職」になっているのではなく、それ自体がなくなったのは精神的にはプラスだ、と今更ながらに自覚する。
辜負族社会に属しているのではないのだから、人の決めた枠に収まらないことに引け目を感じる必要はないとは思うが、もう何百年も前でも人間社会で職を持っていた記憶がある限り心の何処かで気にするのを止められないのだろうな、とまたしても溜息が零れた。
それは未だ完全には禁域サイドに属し切れていないようで甚だ不本意だった。




