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GARDEN  作者: すぬーぴー
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第6話 帰還



ムジカとアーサーは、コルドたちが生き残った村人を探し集めている間に、アルネの案内で村の広場へ向かった。

その道中、アルネと息子のポージーから何度も感謝の言葉を受ける。


また、すでに事情を聞かされていたのだろう、負傷した身体を引きずりながら、あるいは仲間に担がれながら広場へ集まってきた村人たちからも、次々と礼を述べられた。


それから約20分後。

生存者はすべて、広場に集まったようだった。


家族や友を失い、大声で泣き叫ぶ者。

怒りを抑えきれず、拳を震わせる者。

奇跡的な再会に、抱き合って嗚咽する者。


そこには、様々な色を顕にする村人たちの姿があった。


その輪の中で、ムジカはコルドから一人の老人を紹介される。


「アヴェ殿。こちらが、この村の村長のピエール村長です」

「初めまして。村長のピエールと申します。この度は……本当に、本当に、ありがとうございました……」


帽子を取り、深く頭を下げる白髪の老人。

折れた腰と細い背中を見て、ムジカは思う。


(────……逃げるだけでも、さぞ辛かっただろうな。)


「お初にお目に掛かります。さすらいの冒険者をやっているアヴェと申します」

「冒険者仲間のアリシアです」


ピエールと軽く握手をして挨拶を交わし、ピエールが負傷者の治療や生存者の確認を動ける者に一通り指示し終えてから、ムジカとアーサーは村長宅へと案内される。

そして、食卓を囲んで早速、報酬に関する交渉が始まった。


「単刀直入に申させて頂きますと、今、村から出せる御礼としてはこれが最大の額となります…」


ピエールは小棚から小汚い灰色の袋を取り出し、紐を解いて口を開けた状態でムジカの前に置いた。

ムジカは袋の中から銅貨と思われる硬貨を取り出すが、その銅貨には見たことのない鶏の彫刻が施されている。


「これは…」

「はい。村を救った英雄であるあなたに見合う金額ではないでしょう…しかし、既に皆が切り詰めた生活を送っているこの村で出せるのは、今のところこれが限界なのです…大変申し訳ございません…」

「あ、いえ…」


この村が貧しいことは、村人たちのボロボロの衣服や建物から察していたし、元々金銭での報酬を要求するつもりはなかった。

ピエールの申し訳なさそうな表情を見てむしろムジカの方が申し訳なくなる。


また、ムジカの関心はピエールに差し出されたこの銅貨にあった。

『GARDEN』では全てのエリアにおいて統一されたデザインの金貨、銀貨、銅貨の3種類の共通の硬貨を貨幣として利用できたが、この銅貨は『GARDEN』におけるかつての銅貨とは明らかに異なる。


「あの、この銅貨はこの国でのみ流通しているものですか?」

「えっ?あ、ええ、そうです」

「なるほど…」


後程、この国で用いられている貨幣を収集しつつ、『GARDEN』時代の貨幣との価値の比較を行い、「黒翼の王冠(クロウクラウン)」の資金状況を精査する必要が生じたといえる。

面倒だなと思いつつ、ムジカはこの件については一旦脇に置いて話を進める。


「ところで、報酬について一つよろしいでしょうか?」

「は、はいっ。何でしょう」

「報酬は金銭の代わりに「情報」を提供して頂けないでしょうか?」

「情報…ですか?」

「はい。各地を放浪している私たちのような者にとって情報は非常に貴重なのですが、生憎あいにくこの国には来たばかりで…この国やこの辺りの地域についての情報をほとんど持っていないのです」


異国どころか異世界から来たムジカにとって今最も早急に入手しなければいけないのが、この国とその周辺諸国の地理や情勢に関する情報であった。

どのエリアにどのような勢力が存在するのかを把握せずに迂闊うかつにこの世界を闊歩かっぽするのはリスクでしかない。

その点、今回のように無計画にこの世界の勢力と接触、それも交戦(実際は戦いにすらなってないが)までしてしまったのは失敗だったかもしれない。

それでも、人助けのついでにこうしてこの世界の情報も入手できると考えれば、完全に失敗とも言い切れないだろう。


「なるほど…」

「知っている限りで構いませんのでこの国、出来れば周辺諸国を含めた地理や情勢についての情報を頂けませんか?」

「は、はっ!かしこまりました。それでよろしければ!私が知っている範囲でではありますが、喜んでいくらでも提供させて頂きます。え~と、そうですねぇ…」


それから、ピエールは棚から布切れと鉛筆のような物を取り出して、その布に地図をざっくりと描きながらムジカたちに丁寧に説明を始めた。


まず、ムジカたちがいるこの国は『フランベル王国』という名の国であり、現在はルイ16世という王が王政を敷いている統治体制で、隣接している周辺国として『エスパニア王国』『ロマニア帝国』『オスフェ神聖帝国』『ミュンヘン公国』の四国があるという説明をムジカは受ける。

ここまではかつての『GARDEN』における地理と変わっていない。


しかし、フランベル王国内の状況に関しては『GARDEN』とは大きく異なっていた。


現在のフランベル王国は深刻な財政難に陥っている上に、特権身分に当たる貴族には課税をしていない一方で中産階級以下の国民には重税を課していることに対して、民衆の不満がかなり溜まっているそうだ。

そうした状況の中、このカレー村が属するマドレーヌ領の領主が領民の反発の声に応じて王家に反旗を翻し、その結果、王家から鎮圧を目的とした軍隊がマドレーヌ領に向けて最近派遣されたという噂が数日前にこの村にも流れてきていたとのこと。

この村を襲った兵士たちの鎧に鶏を模した王家の紋章が刻まれていたことから、おそらくこの噂は事実であり、この村を襲っていたのも派遣された正規軍の一部の兵士だったのだろうとピエールは語る。


(────⋯ゲームじゃ、絶対に起きないイベントがここでは起きているってことか)


ムジカは、改めて理解する。

ここはもう、かつての遊び場ではない。



人間が現実を生きている世界なのだと。



それからも、ムジカはこの国の文化的な特色、現在住んでいる民族や種族、冒険者の社会的な位置付けや待遇についてなど、とにかく思いつく限りピエールに様々な質問をして情報を聞き出した。

そして、ある程度の情報を得たところで、ムジカは情報収集を切り上げて自身の居城ホームへ帰還することにする。


(───── 「メッセージ」を受けてからサロメをだいぶ待たせてしまっている。そろそろ帰らないとな。まぁと言っても、まだ『GARDEN』時代と同じ方法でホームに帰還できる確証は無いのだが。)


ムジカは指にはめている『リング・オブ・クロウクラウン』に視線を落とす。


「⋯それでは、そろそろ我々は作って頂いた地図を頼りに「オルレアン」を目指してここをとうと思います」


ピエールによると、ここから徒歩で数日掛かるところにこの国の冒険者業の中心地となっている都市「オルレアン」がある。

この「オルレアン」という都市は、『GARDEN』におけるフランベル王国でも冒険者が集まる冒険都市として存在していた都市である。

実際のところムジカにそこに行くつもりはないが、今は冒険者「アヴェ」を演じているのでそういう体を装っていた。


「そうですか⋯⋯改めて、この度は、本当に村を救って頂きありがとうございました」


ムジカは立ち上がり、ピエールと再び両手で握手を交わす。

ピエールの手の平を通して、その熱と共にムジカへの深い感謝が伝わってきた。


そして握手を解き、ピエールに背を向けて戸口から出ようとした時、ムジカはふと重要なことを思い出し、ピエールの方に再び振り向く。


「そういえば、一つ伝え忘れていたことがありました」

「⋯はい、なんでしょうか?」

「この村を襲っていた者たちを我々が倒したということは、くれぐれも口外しないように村民の方々に言い聞かせては頂けないでしょうか?」

「それは⋯⋯わかりました」


ピエールはいぶかしげな表情を浮かべて何かを言いかけたが、宙に吐こうとした言葉を飲み込み、ムジカの要求に素直に頷く。


この村を襲撃していたのがこの国の正規軍の兵士である以上、ムジカたちがそれを殲滅したという情報が下手に広まれば、いずれ面倒事に巻き込まれるのは目に見えている。

故に、村人たちがムジカたちに関する情報をこの村の外で広めてしまわないように釘を指しておく必要があった。


(─────これで漏れる心配がなくなったとは思えないが、やらないよりはマシだろう。)


「それでは」

「はい。本当にありがとうございました!お気をつけて!」


ムジカたちはピエールの家を後にし、村の東門へ向かって歩みを進める。

その間、道ですれ違う度、村人にまた何度も感謝を伝えられる。

中には、アーサーのその浮世離れした美しさに見蕩れて惚けてる者も少なからずいた。

そして、東門に近づいてきた頃に、背後から大声でムジカたちを呼びながら子供が追いかけて来た。


「お兄ちゃん~~~!!!」

「ダルタニャン」


ムジカは振り返って、初めて出会った時と同じように駆け込んできたダルタニャンを受け止める。

また、ダルタニャンの後を追って痩せ細った30代前半ぐらいの女性と、『GARDEN』における狩猟者ハンターのような格好をした青年が近づいてきた。


「だから走るなって。危ないだろ」

「むぅーごめんなさーい」


青年に注意されて不貞腐れるダルタニャン。

そのむくれっつらが実に可愛らしい。


「アヴェさん…でよろしかったでしょうか?」

「あ、はい」

「この度は…娘を助けてくださって、ありがとうございました。…あっ、私はこの子の母のリアです。そして、こちらは息子のユリウスです」


ダルタニャンの母・リアに呼応するように、その息子のユリウスも頭を下げる。


「娘からいろいろお話は聞かせていただきました。本当に、どうお礼をしたらよいものか…」

「いえ、お礼は大丈夫ですよ。私が助けたくて彼女ダルタニャンを助けただけですし。それに、子供を助けるのは冒険者として、いえ、大人として当たり前でしょう」


ムジカの外見は17~8歳ぐらいで設定されているため、リアの目にムジカが大人として映っているかは怪しいところだが。


「ですが…」

「ねぇ!ムジカお兄ちゃん!」


どうにか何かしらの形でムジカにお礼をしたかったようで、困り顔をしながら食い下がろうとするリア。

そんなリアの気も知らず、ダルタニャンが飛び跳ねるような無邪気な声を上げる。


「ん?」

「あたしね、決めたんだ!」


ダルタニャンはいたずらっ子のように「にぃ」と笑う。


「何をだ?」


「⋯あたし、しょうらい大人になったら冒険者になるっ!!!」


ダルタニャンは天に向かって吠えるかのように、高らかに宣言した。


「…ほう」


「まぁ、この子ったら」

「はぁ⋯お前なぁ。お前みたいなちんちくりんがなれるわけないだろう」


ダルタニャンの突然の宣言を受けて、リアは口を押えながら驚き、ユリウスは呆れたような態度を取る。

ダルタニャンはそんなユリウスにあからさまに不機嫌になりながら噛みつく。


「むぅー!なれるもん!」

「なれないよ」

「なれるったらなれるもん!なるなるなるなるなる、ぜっ~~~~~たいなるっ!!!」

「うおっ、暴れるなって」


(───────そうだ。)


ムジカはダルタニャンとユリウスの言い合いを傍目にあることを思いついた。


「⋯⋯なぁ、ダルタニャン」


「ん、なぁーに?お兄ちゃん」


ユリウスに噛みついていたダルタニャンにムジカが呼び掛けると、すぐさま振り向く。


「手を出して」


ムジカはステータスウィンドウを開き、密かにアイテムボックスから取り出していたペンダントをダルタニャンの手に渡し、頭に優しく手を置いて口の中に含んでいたセリフを発した。



「⋯このペンダントをお前に預ける。オレの大切な首飾りだ。いつかきっと返しに来い。立派な冒険者になってな」



(─────よし、決まった。)


ムジカは昔からいつか言ってみたいと思っていた、とある名作少年漫画の名シーンにおける名台詞を応用し、心の中でガッツポーズを決める。



「………………………」



─────────沈黙。


無言でうつむくダルタニャン。

そんな少女の様子を見てムジカの胸中に不安がフッと湧き出す。


(──────⋯⋯あれ?もしかして滑ったか⋯?パクっといて滑るって一番やっちゃダメだろ。)


「うん⋯⋯うん⋯うんっ!わかったよ!⋯お兄ちゃん。ぜったいすごい冒険者になって、いつか、ぜったい返しにいくね!」


手の平の上にあるペンダントをしっかりと目に焼きつけてから、ダルタニャンはムジカにその純粋で煌めく宝石のような瞳を向ける。

その瞳には、確かに、強い決心の輝きが灯っていた。

変な間があって焦ったが、ダルタニャンから期待通りの反応が返ってきてムジカは胸を撫で下ろす。


(──────ビビったぁ⋯。)


「フッ⋯そうか⋯それではな」

「えっ!?もう行っちゃうの?」

「ああ、それが冒険者、だからな」

「そっか……」


(──────しょんぼりダルタニャン。可愛い。)


「⋯⋯ではな」

「あっ」

「本当にありがとうございました」

「ありがとうございました」


ムジカは感動の名シーンを作り上げた余韻を噛み締めながら、改めて小さく頭を下げるリアとユリウスに軽く会釈し、そのまま名残惜しそうにこちらを見つめていたダルタニャンに背を向け、村の外へアーサーと共に歩み始める。

そして、あと一歩踏み出せば村から出るというところまで来たところで、再びダルタニャンの大きな呼び声が背後から聞こえた。


「 ムジカお兄ちゃん~!アーサーお姉ちゃん~!ありがとう~~~~~!!!またね~~~~~!!!! 」


涙で顔をぐしゃぐしゃに濡らしながら、高く、大きく、右手を振りながら、ダルタニャンはムジカたちに感謝を伝えていた。

ムジカとアーサーは半身で振り返りながら、片手でそれに応えた。


「またな…」


ダルタニャンに渡したペンダントは、「翡翠ひすいの首飾り」という名の微レアなアイテムで、かつての『GARDEN』においては所持者が受ける物理ダメージを軽減、Lv20以下の相手から受ける物理攻撃なら無効化するという効果があり、初心者が重宝していた。

この「翡翠の首飾り」が問題なく効果を発揮するかは実証していないために不明であるし、この世界においてかなりのレアアイテムだった場合、それがダルタニャン以外の手に渡った際のリスクはあるものの、それを承知でムジカは「御守り」としてダルタニャンに渡していた。


(─────まぁ大丈夫だろう。さて、この世界でも問題なくアイテムが機能するのか、実証実験といくか。)


ムジカは村の門から数十メートル離れた地点で立ち止まる。


かつての『GARDEN』においては、たとえセーフティエリアに当たる村や街の外でも、エリア周辺100メートル以内はモンスターが出現しないセーフティエリアとして判定されていた。

ここも『GARDEN』と同じ仕組みならば、この辺りで『リング・オブ・クロウクラウン』を発動できるとムジカは見立てる。


「アーサー、『リング・オブ・クロウクラウン』を行使してエディンバラへの帰還を試みる」

「ハッ」


ムジカは、アーサーとともに『リング・オブ・クロウクラウン』をはめてる手をかざし、転移魔法をコールした。




「「────────転移テレポート」」





to be continued...



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