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GARDEN  作者: すぬーぴー
5/9

第5話 第一歩



「…成功だ」


ムジカは、誰にも聞こえぬほど小さく呟いた。


オリジナルスキル────────



神速オーバーアクセル」。



その效果は、捕捉した対象を中心とした半径1メートル以内へ《《光速で》》接近するというものだ。


あまりにも強力な力の代償として、一度の使用でSPの三分の一を消費する。そのため、全回復には一日を要し、実質、一日に使える回数は三度まで。


それでも、そもそもムジカがこのスキルを一日に何度も行使したことはなかった。


なぜなら──── 「神速オーバーアクセル」を行使しているムジカを捕捉できた者は、誰1人としていないのだから。


「⋯⋯フゥ」



その時──────世界が、止まっていた。



いや、正確には──


止まっているように感じているのは、ムジカだけだ。


光速移動に伴う感覚補正。

スキルの使用者にその不可避の一撃を成立させるために与えられる、5秒間の擬似的な静止世界。


ムジカは、「感知パーシブ」で捕捉していた最も近い敵―今まさに、幼い子供へと剣を振り上げていた兵士の背後に移動していた。


(────スキルの効果に変化はなさそうか。)


効果、挙動、体感。

すべて、かつての世界と変わらない。


「ハァッ……!」


そして、迷いを振り払うように息を吐き、歯を食いしばりながらムジカは鞘走りの音と共に刀を振り抜いた。


兵士の首が落ちたのを確認する間もなく、次の対象へ。


2人、3人、4人。

刃は返され、また振るわれる。淡々と。


ただ、一閃の光だけが、命を断ち切りながら地獄を駆け抜けていく。


兵士たちは、自分が死んだことにすら気づかない。

そして、村人たちの目に映るのは、前触れもなく宙を舞う首だけだった。


「……これで、ラスト」


最後に、家屋の中に侵入していた二人の兵士を斬り捨て、ムジカは「神速オーバーアクセル」を解除する。


瞬間──血飛沫を上げて崩れ落ちる首のない死体と黒衣の男の姿が現れ、襲撃を受けていた母子は悲鳴を上げて床を這うように後ずさった。


「ハァハァ…………ゥッ……オェ……」


短いようで長かったミッションを終えて安堵した、その直後だった。


床に転がる生首に生気を失った虚ろな眼が浮かんでいるのがムジカの目に飛び込んでくる。


その瞬間、胃の奥から不快な塊がせり上がり、ムジカは吐いてしまった。


───手に残る生々しい感触。

雑草を刈るように、首を斬り飛ばした、あの時の感触。


この時、ようやく実感する。


(───────……オレは




人を、殺したんだ




)


ムジカは、しばらくうずくまりながら精神と呼吸が落ち着くのを待った後、ゆっくりと起き上がる。

母子は相変わらず抱き合いながらそんなムジカの様子を静かに見守っていた。


家屋の外に出ると、鉄が焦げたような酸っぱいにおいがムジカの鼻をつく。

辺りを見回すと、村人の死体がいくつも転がっている。


ムジカは息を整え、意識を集中させる。

そして、アーサーの脳内に直接語りかけるイメージをする。


「……メッセージ」


『掃除を完了した。ダルタニャンを連れて来てくれ』


『──────ハッ、畏まりました』


念話は問題なく通じた。

魔法もまた、イメージをトリガーに発動するようだ。


その時、アドレナリンの放出による興奮状態が落ち着いてきたことでムジカは気づく。


息が上がり、筋肉が張っている。

『GARDEN』では感じなかった、確かな疲労。


(──────……これが一番の変化だな。)


今後の戦闘では、数値に現れない肉体の消耗が生じることをムジカは理解する。

そして── 「神速オーバーアクセル」は、一戦につき一度が限界だと判断した。


また当然、疲弊しているのは肉体だけではなかった。


「人を殺した」という事実が、罪の意識が、重たい棘となってムジカの心に鋭く食い込んでいた。


(────もし、これを繰り返したら。


⋯⋯オレは、どうなってしまうのだろう。)


次第に自分の心が、歪で、醜悪な形になっていってしまうんじゃないか。

ムジカの心に黒い霧が掛かり始めた。


そんな時、近くで魔法陣が光り──その上に

アーサーとダルタニャンが現れた。

戦線から離脱しないといけない場面に備えて、ムジカがアーサーに持たせていた中級の転移魔法が封じられたスクロールを使用したのだ。


「⋯お待たせ致しました。アーサー・ペンドラゴン、御身の前に」

「ああ」

「お兄ちゃん!」


駆け寄ってきたダルタニャンの頭に、ムジカはそっと手を置く。


「もう大丈夫だ。全部、終わった」

「⋯うん!⋯お兄ちゃんすごい!ありがとう!⋯ありがとうっ!」


涙に濡れた少女の笑顔が、ムジカの胸中を覆う霧に光を差し込む。

そしてムジカは思い出す。


奪った命がある。


だが、救えた命も、確かにあるということを。


「おい! ダルタニャンか!?」


その時、背後から男の野太い声が聞こえた。

振り向くと、健康的な浅黒い肌や丸太のように太い腕と太腿ふとももが目を引く、腹は出ているがガッチリとした体格の木製くわを手にした中年の男が立っている。


「⋯あっ!コルドおじちゃん!」

「ダルタニャン!無事だったか!」


「コルド」という名のその男は、どうやらダルタニャンの知り合いのようだ。

ダルタニャンはコルドのもとへ駆け寄るとジャンプして抱きつき、コルドは優しくダルタニャンを抱き上げる。


「ったく、どこ行ってやがった!まぁ、とにかく無事で良かったが」


コルドは怒鳴りつけるように大きな声を出してはいるが、その声色には安堵と温かみが滲んでいた。


「えーとね、助けを呼びに行ってたの!そしたらね、えーとね、そこにいる冒険者のお兄ちゃんと会ってね、そしたら、お兄ちゃんが村をおそってた人たちをたおしてくれたの!みんなを助けてくれたんだよ!」


それを聞いて、ほう、とコルドがムジカたちに視線を向けると、ムジカが助けた母親と少年が家の中から姿を現し言葉を挟む。


「ダルタニャンちゃんの言う通りです。そこの御方が私たちの命を救ってくださったようです」

「うん!」


その母親と少年もまたダルタニャンの知り合いのようだ。

そもそも、遠目に見たときの村の規模やザッと見た感じの村民の数の少なさから、ムジカはここの村人は全員が顔見知りなのかもしれないなと察しを付ける。


「おぉ~!アルネとポージーも無事だったか!良かった!」

「ええ、コルドさんも無事で何よりです」

「おう!⋯して、あなたがこの子たちを助けてくれたと?お名前を伺ってもよろしいですか?」

「はい。お初にお目に掛かります。諸国を放浪しながら冒険者をやっております。あ、えー⋯「アヴェ」と申します。そして、こちらが仲間の「アリシア」です」


ムジカは「諸国を放浪しながら」と前置きすることでこの辺りの情勢について詳しくないことを匂わせつつ、偽りの身分と名を名乗る。

最初は何故かフッと頭に浮かんできた「阿部」を偽名として反射的に名乗ろうとしてしまったが、流石に文化的に中世欧州に近しいこの地域では悪目立ちしてしまう名前であるため、口にする寸前でムジカは発音を英語風にした。

その結果、「アヴェ」とそれはそれで奇妙な名を名乗ってしまったのだ。

また、アーサーのことは冒険者仲間の「アリシア」として紹介する。


『アーサー、ここではオレは冒険者「アヴェ」、お前は「アリシア」として振る舞う。合わせてくれ』

『ハッ、了解しました』


ムジカが瞬時に「メッセージ」でそう伝えると、アーサーはコルドに軽く会釈をする。


「アリシア殿とア、アヴェ?⋯殿ですか。珍しいお名前ですな⋯いや!それよりもとにかく、この度は本当にありがとうございました!感謝してもしきれませぬ!」


コルドは頭を深々と下げて感謝を述べる。


「いえ、あーあと、この村を襲っていた賊は私が全て仕留めておきました」

「なんと!?そういえばたしかに⋯先程から皆の悲鳴が聞こえぬな。⋯⋯本当に何とお礼を申し上げたら良いか⋯」

「そうですね。何かしら報酬を頂ければ幸いです。ただそういった話は後にして、まずは生き残った村人をひらけた場所に集めて治療しましょう。あと、村の代表者を呼んで頂きたいですね」

「そうですな。わかりました」

「わたしもみんなに伝えてくるね!」

「頼みます」


ムジカはアーサーと共に、駆け出していくコルドとダルタニャンの背中を見送った。




to be continued...


 


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