第14話 大食いのアーサー
私室を出たムジカは、本日の付き添い当番のメイドを一人だけ連れ、城内の廊下を歩いていた。
長く伸びる西洋風の回廊。
その床には、鮮やかな紅の絨毯が一直線に敷かれている。
高い天井、壁面を彩る彫刻と装飾、そしてところどころにはめ込まれた巨大なステンドグラス。
重たい足取りのムジカの心中で困惑が渦巻いている。
(……ここは…何してたんだっけ…直前までの記憶が曖昧だ…たしか、自分の部屋に戻って、遥にメッセージを飛ばして…それで……ダメだ。)
直前までの記憶がスッポリと抜けてしまったかのように思い出そうとしても思い出せない。
ただ確かなことは先程までムジカの中にあった悩みは綺麗さっぱり消え去り、今は明確な目的意識が芽生えていること。
(まぁいい…………今はそれよりもアーサーに用があるんだった。)
目的地は城内の食堂だ。
指輪に秘められた転移魔法を使えば一瞬で到着する。
しかし、ムジカはあえて徒歩で向かうことを選んでいた。
理由は単純だ。
(今のうちに城内の構造を把握しとかないとな。)
ステンドグラスを通して差し込む柔らかな陽光が、廊下に淡い色彩を落としている。
その光を半身に受けながら、ムジカは静かに歩みを進める。
すると、目的地が見えてきた。
私室を出てからおよそ十分。
ムジカは食堂の扉の前に立っていた。
扉を押し開くと、広い食堂の隅で一人の女が猛烈な勢いで料理を平らげている光景が目に入った。
テーブルの上には、皿、皿、皿。
肉料理。
パン。
スープ。
サラダ。
果物。
次々とメイドによって運ばれてくる料理が、まるで消えていくかのように胃袋へと収まっていく。
その大食らいの正体、それは、
かの"騎士王"アーサー・ペンドラゴンである。
ムジカはその様子にしばし呆然とした後、歩み寄り声をかけた。
「アーサー」
「…ふぇ、ふぇいか!?」
突然声を掛けられ、アーサーは慌てて口いっぱいに詰め込んでいたパンを飲み込もうとする。
「落ち着け。飲み込んでからでよい」
ムジカは苦笑しながら言った。
アーサーは慌てて水で流し込み、どうにか話を聞く姿勢を整える。
「……それで陛下。私にどのような御用でしょうか?」
名匠が彫り上げた美の女神の彫像のような顔、その口元に付いているパンくずの違和感が際立っている。
その姿と、先ほどの豪快な食べっぷりとの落差が激しい。
「食事が終わった後、時間を貰えるか?」
「はい、もちろんです!」
アーサーは即座に頷いた。
「では、すぐに食事を済ませます!」
そう言うや否や、アーサーの食事の速度がさらに加速した。
「いや、ゆっくりでいいぞ」
ムジカは気遣うが、あまり効果がなかったらしい。
主を待たせることを申し訳なく思っているのだろう。
アーサーの手は止まらない。
そして、次々と皿が空になっていく。
その様子を見ながら、ムジカは心の中で呟いた。
(─────どんだけ食うねん。)
to be continued…




