第42話〜蒼穹、空中楼閣を衝きて〜
「改めて…ようこそ。」
3度目の帝城でも、アンサスは変わらない笑顔で出迎えてくれた。
私はもうマギア帝国の一員である、ということにまだ実感は湧かないが、時間の問題だろう。それに
『マギア帝国に来ること…と条件を付けたけれど、僕の結婚相手にとは言っていないよ。だからそんなに気負わないで欲しい。』
というアンサスの言葉通り、私は婚約者として迎えられたわけではなく、1人の永住者として迎えられた。
「早速だけどフィーリア、一緒に残りの神器を探して欲しい。」
私は落ち着く間もなく応接室に通されて、アンサスにそう告げられた。
「他にも使う必要が出てきたの?」
「神器を隠した当時の皇帝は、神器を良くないものと思っていたようだけどね…やはり、神器の力が揃っていた方が国内の魔力も安定するんじゃないかって話になったみたいだ。―――それに、罰則はないにしても、禁術を使ってしまったからね。大魔道院も僕にそれなりの罰を与えたいみたいだ。」
と苦笑いをするアンサス。
皇帝よりも、大魔道院の方が力があるのかしらね。マギア帝国のことについてもこれからもっと勉強していかないと。
と私が考えていると
「それじゃあ行こうか。」
そう言って私の手を取るアンサス。
「…場所の目星は付いているの?」
と尋ねると、アンサスはふふんと得意げに笑って
「フィーリアたちが帰った後、詩の解析をしていたんだ。そこで、2つ目の神器―――《白金の冠》のある場所はだいたい見当がついている。」
さあ、行くよというアンサスの言葉と同時に身体が一瞬ふわりと浮いたと思ったら…
「こ、ここは…?」
気付くと私は標高の高い山頂に立っていた。
アルケーの丘よりももっともっと遠くが見渡せる。
「ここはメガロプレピス山の山頂だよ。マギア帝国で1番高い山さ。」
確かに…雲も下に見えるくらい高い山だものね。
「でも…寒くないわ。」
私が今身に付けているのはただのドレス。風が強く吹いている上に、こんなに標高が高いところに居たら寒すぎて耐えられないはず。
「フィーリアと僕に、体温調節の魔法を掛けている。今なら氷の国に行ったって寒くないよ。」
なるほど、つくづく魔法って便利ね。
「ここに《白金の冠》はあるの?」
私がそう尋ねると
「いや…ここじゃない。その場所は…漂っているから探さないといけないんだ。」
「漂う?」
「そう。その場所は…あそこだ。」
私は、アンサスが指を差した方を見つめると、そこにはキラキラと輝く雲がふわふわ浮いていた。
「さあ!行こう!」
アンサスは私の手をバッと取り―――私たちは雲の上へ移動した。
「いたた…。」
私とアンサスは、そのキラキラした雲に倒れ込むように着地した。
「ごめんねフィーリア…。移動魔法は、行ったことがある場所か、視認できる場所にしか行けなくて…。」
アンサスは優しく私を抱き起こしながら申し訳なさそうに謝った。
「ええ…大丈夫よ。―――ここは?」
私は辺りをキョロキョロと見渡すと、雲の中だからなのだろうか、辺りが霞んでいてよく見えない。
「ここは、《天空の宮殿》と呼ばれているところでね…神器を隠した皇帝の妻―――リトス皇后が眠るお墓だよ。」
その時
サァァァア
風が吹いて、霞がどんどん晴れていく。
すると、私たちの目の前に、真っ白な宮殿が聳え立っていた。
曲線が美しい異国の宮殿。まるで建ったばかりのような新しさを感じる。
「綺麗…。」
私が思わず見惚れていると
「とりあえず…歓迎されているようだね。」
とアンサスは呟き
「さあ行こうか。」
と私の手を取って進んで行った。
慎重に球団の中に入ると、そこは広いホールになっていた。
そして1番奥の壁には、紫色の髪と紫色の瞳を持った女性の肖像画が掛かっていた。
「あのお方が、皇后様?」
私が尋ねると、アンサスは静かに頷いた。
「あら…随分と久しぶりにお客様が来たわね。」
突然、女性の声が話し掛けてきた。
私は驚いて辺りを見渡すが…どこにも人は居ない。すると
「うふふ…こっちよ、こっち…貴女も《紫水晶の女神》なのかしら?」
どうやら声は真正面にある肖像画から聞こえてくるようだった。よく見ると、口が動いて肖像画が喋っている。
「―――貴女もエピスティニ家出身なのですか?」
思わず私が尋ねると、王妃はケラケラと笑って
「ええ!そうよ!この姿を見たら当然わかるでしょ?―――さて、貴方たちがここに来たってことは、《白金の冠》を取りに来たってことで良いのかしら?」
王妃はニヤと笑って腕組みをした。
「…ええ、リトス皇后陛下。」
やや緊張気味にアンサスは答えた。
「ふふ…そんなに緊張しなくても何もしないわ…。でもね、夫には簡単に渡さないようにって言われているの。」
そう言ってリトス皇后は腕組みを解いて
「そうね…それじゃあ、チェスで勝ったら《白金の冠》を渡すわ。―――貴女、私と勝負なさい。」
すっ…と私を指差すリトス皇后。
「…ええ。分かりました。」
と私は一歩前に出る。
気付くと、私の目の前には何か宝石だろうか…鉱物でできたチェス盤が現れた。
「ふふ…ダイヤモンドとブラックダイヤモンドよ。夫から私へのプレゼントだったの。」
と、リトス皇后は私の心の中を読んだかのようにそう言った。
アンサスは心配そうに私の方を見る。
「大丈夫よアンサス。私、こう見えてチェスは好きなの。」
私はアンサスに向かって微笑むと、チェス盤に向き直る。
「さあ、始めましょう。―――貴女からよ。」
リトス皇后は余程自信があるのか、先行を私に譲ってきた。
この勝負で、《白金の冠》が手に入る―――。
私は、今更ながら責任重大だなと思いつつ、やや緊張気味にダイヤモンドのポーンを手に取った。
◇
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