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第36話〜薄煙、青雲之志を導きて〜


あれからアレクシスは、殆ど口を閉ざしたまま部屋から出てこない。


「どうしましょう、姉様…。」


ミハイルもすっかり困ってしまっている。


「そうね…。」


自信家なのに、打たれ弱いのよね…。


私もミハイルも、うーんと唸りながら考える。


「…そうだわ、明日のレイモーン地方の視察に一緒に来てもらいましょう。外に出たら少し気晴らしになるかも。」


私がそう言うと、ミハイルは


「そうですね…部屋から出てきてくれれば、ですが。」


と苦笑い。


「アレクシスは元々長く引きこもっていられない性格だと思うわ…それに、良い方法を思い出したの。」


私はミハイルに微笑み掛けそう言った。






私がそう考えるのには理由がある。


それは、私とアレクシスがまだ12歳くらいのこと。


私はアレクシスを尋ねに王宮に来たが、アレクシスがどこにも見当たらない。すると、アレクシスの部屋の前で


「アレクシス坊ちゃんが部屋から出てこなくて…。」


とオロオロする従者たち。


なんでも、外国語の授業がどうしても受けたくないらしく部屋に引きこもっているらしかった。


「あら、そうなのね…。貴方たちは、ずっと扉の前にいらっしゃるの?」


「え?…ええ、そうです。何とか部屋から出てきて頂こうと…。」


従者の1人がそう答える。


「そう…ではこうしましょう…。」


私は従者たちにこそっと耳打ちをした。


「(扉が見える位置で、静かに隠れていてくれないかしら?)」




カチャ…


私が耳打ちして間も無く、アレクシスは部屋から出てきた。


「アレクシス、授業をサボってはダメじゃない?」


私は扉の横から声を掛ける。


アレクシスは、わっ!と声を上げて尻餅をついた。


「な、何でフィーリアがいるんだ…?」


「お茶会のお誘いに来たのよ。…ダメよ、あまり従者の皆さんを困らせちゃ。」


そう言って私は手を差し伸べ、物陰に隠れている従者たちに目配せをした。


「アレクシス様…さあ、授業に戻りましょう。」


「ああっ!もう!!フィーリア!!!」


アレクシスは、私に何か文句を言いたそうだったが、隠れていた従者たちに捕まって授業へと連れ戻されていった。




ふふっ…懐かしいわね。


思わず笑みを溢す私を見て、不思議そうな顔をするミハイル。


「静かにして…扉が見えるところで隠れていましょう。」


そう言って私とミハイルは、廊下に置いてある花瓶の影にそっと隠れた。


すると


カチャ…


アレクシスはそっと扉を開けて顔を覗かせた。


「アレクシス!」


私の声掛けに、アレクシスはびくっと飛び上がって


「わ!…フィーリア。」


と驚いた顔をしたが、気まずいと思ったのかすぐに顰めっ面になった。


私は可笑しくてくすっと笑ってから


「アレクシス…少し、私と出掛けない?」


とアレクシスの外出を促した。
















「…それで?僕たちは一体どこに向かっているんだ?」


まだむくれた表情のアレクシスと私は、馬車に向かい合わせで乗っていた。


「レイモーン地方よ。新たに作付けをすることになっていて、今日はその前段階の準備を視察しに行くの。」


「…そうか。」


そうして頬杖をつきながらそっぽを向くアレクシス。


…良い気晴らしになると良いんだけど。


私は小さく溜息を付いて、馬車窓の外を眺めた。















約3時間後


私たちはレイモーン地方に到着した。


「うーん。やっぱり移動は疲れるわね。」


私は、ぐっと伸びをして馬車を振り返ると、恐る恐る馬車を降りるアレクシスがいた。


…確かに、ドレスで降りるのってちょっとコツがいるわよね。


私は咄嗟に手を差し伸べて


「大丈夫?フィーリア。」


と声を掛けた。アレクシスは驚いていたが


「え、ええ…あ、ありがとう。」


とぎこちなく返事をしてくれた。


そして、馬車を降りたアレクシスは、私に小声で


「ドレスだと、馬車は降り辛いんだな…エスコートの意味が分かったよ。」


と言ってきた。アレクシスがそんなこと言うなんて、と今度は私も驚かされてしまったが


「…ええそうよ。相手の立場を知るって経験は大切よね。」


と小声で返した。






私たちは更に歩いて小高い丘の上に立った。


「うわぁ…なんだ、これ。」


そこは一面の―――焦げた土地だった。


「これは野焼き、と言って美しい草原地帯と元気な土壌を守るために毎年行われているものよ。」


「毎年燃やしてしまうのか…?」


アレクシスは初めて見たようで少し怖がっているようにも見えた。


「…ああ!あっちはまだ燃えているぞ!!」


アレクシスが慌てて指を指す方向は丁度野焼きの真っ最中だった。


「ふふ…大丈夫よ。村人たちが連携して必要以上に燃え広がらないように調整しているから。」


「そ…そうなのか…?」


それでもアレクシスはまだ不安そうに燃え盛る炎を見つめていた。





暫く、私とアレクシスが野焼きを見つめていると


「…本当は分かっていたんだ、自分は何もできないお飾り王太子だって。」


私は静かにアレクシスの顔を見る。アレクシスの目にはうっすら涙が滲んでいるようにも見えた。


「僕は、父上に仕事を任されていい気になっていた…。議会の承認権があるだけで、自分が議会の全てを掌握しているように錯覚していたんだ。」


ゆっくりと、言葉を紡ぐアレクシス。


「でも…身体が入れ替わって分かったよ、僕は自分ができていると思い込んでいただけだって。」


そこでアレクシスは大きく息を吸い込み、ふぅーっと吐き出した。


「…フィーリアの活躍、王宮中の人間が嬉しそうに話していた。議会を正し、積極的に政策に関わっているって…それに、執事や従者、メイドたちも働きやすくなったって感謝していた…本当、何やってたんだろうな、僕は。」


そう言って俯くアレクシス。私はそんなアレクシスの肩にそっと手を置いて


「…話をしてくれてありがとう、アレクシス。―――私ね、アレクシスの姿でたくさんの所へ行ったけど、どの地域でも暖かく歓迎されたわ。それだけ王太子は国民に愛されているのよ。確かに王宮では上手くいっていなかったかもしれないけれど…まだ大丈夫、やり直せるわ。」


そして私はもう片方の手も反対側の肩に置いて


「それに…”いずれ国王になって皆んなが幸せな国を作る”んでしょ?今の貴方にならきっとできるわ。」


と言って微笑んだ。


「フィーリア…ありがとう。」


気が付くと、アレクシスも私も涙を溢していた。


アレクシスと出会ってから十数年、初めて気持ちが通った気がした。


「…そろそろ時間ね、戻りましょうか。」


「ああ…分かった。」


こうして私たちはレイモーン地方を後にし、王宮へと戻っていった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。


ひとつでも「面白い」と感じていただけたら、

評価やブックマークをしていただけると嬉しいです。


とても励みになり、執筆続行の支えになります。


これからも読者様に楽しんでいただける展開を届けられるよう頑張ります。


どうぞよろしくお願いいたします!


本作は、毎週 月・木・土の20時に更新予定です。

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