第35話〜春眠、失望落胆を覚えて〜
僕は今、絶望に打ちひしがれながら長い長い廊下を歩いている。
僕が眠っていた王宮は、業務が停滞し、混乱していると思っていた…なのに
「ああ!フィーリア様!お目覚めになられたのですね!…フィーリア様がお眠りになっている間の王太子様のご活躍、素晴らしいものでしたのよ!」
「フィーリア嬢!ご無事でしたか!いやぁ良かった!…実はここだけの話、フィーリア嬢が倒れた後あのアレクシス殿が見違えるように仕事ができるようになりましてね…。」
誰に何を聞くまでもなく、僕を見かけた王宮内の人間は皆口々に似たような事を言ってきた。
フィーリアが眠っている間のアレクシスは有能だった、と。
僕だって立派に王太子を務めてきただろう…?どうして?
気付くと、僕は国王の執務室の目の前に立っていた。
恐る恐るノックをして扉を開けるとそこには、父と…議員だろうか、男が1人話をしていた。
「おぉ!フィーリアよ!目覚めたのか…!」
「ご無事で何よりです、フィーリア嬢。」
父も議員らしき男もあたたかく歓迎してくれた。
「あ…ち…陛下、そ…そちらの…方は?」
フィーリアの話し方なんかよく分からない。僕は辿々しくその男は誰か父に尋ねた。
「失礼。ご挨拶が遅れました。私、議会議長のソティラス・ドゥナミスです。―――フィーリア嬢が倒れられた後、就任したのでご存知ないですよね。」
「あは…そう、でしたの。」
にこりと微笑むその若い議会議長は三大貴族の1つ、ドゥナミス公爵家の人間だった。言われてみれば何処かで会ったかもしれない。
それにしても何故こんな時期に議長が変わったんだ?
「ええと…ソティラス様は何故議長に…?」
「…ああ!そうですよね。―――少し前に議会の汚職事件がありましてね…それで議会は一度解散し、また新しく編成し直されたんですよ。」
汚職…?一体なんのことだ?
「汚職って…?」
「以前の議会では、杜撰な議案や汚職が横行してましてね…。それを華麗に裁いたのが他でもない、アレクシス王太子殿下なのです!」
「なっ…!?」
つい素が出そうになるのを堪えながら
「どういうこと…なのかしら?」
と尋ねると、父とソティラスは互いに目配せをし頷き合って
「ここ数ヶ月のアレクシス王太子殿下の働きぶりは素晴らしいの一言に尽きます!―――国有地の有効活用、エルピダ共和国との輸入交渉、主要道路の整備、そして…マギア帝国との同盟締結に加え、タラクシア公国との戦争回避…細かいものを合わせたらキリがありません!」
そう語るソティラスは、アレクシス王太子殿下に陶酔しているようだった。
「我が息子ながら頼りになる…。今までは碌でもない奴だったが、何が良かったのか改心したらしく、次期国王として堂々と振る舞っておる。」
目に涙を浮かべそう言った父の姿を見て、僕は鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
あの父が涙を浮かべて僕を褒めている…?それに、ソティラスが言っていたこと…全てフィーリアがやったというのか…?
僕の存在価値って…なんだ?
「フィーリア嬢?何やら顔色がよろしくないようで…。まだお目覚めになったばかりでしょうから、お休みになられては?」
「うむ、そうじゃった…フィーリアよ、ゆっくり休んでおくれ。」
僕が青ざめているのを、体調が悪いと解釈した2人から優しく退出を促され、僕はフラフラとしながら父の執務室を出ることとなった。
「あ!兄上!―――姉様、こちらに居ましたよ!」
私の身体―――もとい、アレクシスはフラフラと国王の執務室から出てきた。
真っ青な顔をするアレクシスに、私も心配になる。
「アレクシス…大丈夫?」
私が手を差し出そうとすると、アレクシスは私の手を振り払い
「僕は…もう必要じゃないんだ…。急に有能になったって…?それなら、もう…戻らなくても、良いんじゃないか…?」
そう言って引き攣った笑みを浮かべると、どこかへ歩き始めた。
「ちょっ…!アレクシス、待って!」
私は慌てて止めに入る。
このまま行かせてしまうと、私の身体で何をされるか分からない。
「とりあえず、貴方の執務室に行きましょう。」
私とミハイルは、再びアレクシスを引き摺りながらアレクシスの執務室へ向かった。
なんとか無理矢理アレクシスを執務室に連れ込んだ私たち。
アレクシスをソファに座らせ、落ち着かせる。
「アレクシス…戻らなくていい、なんて言わないで…。戻ったら頑張れば良いのよ。」
「そうですよ兄上…。姉様が進めている事業、兄上が引き継げば良いんですから。」
と私たちは交互にアレクシスを慰めるが、俯いたまま、アレクシスは一言も話さなくなってしまった。
私とミハイルは、そんなアレクシスの様子に顔を見合わせる。
「どうしましょう、ミハイル…。」
「兄上はプライドだけは高いですからね…相当衝撃だったんだと思います。…姉様の王太子としての活躍ぶりが。」
既にアレクシスが目覚めたことはマギア帝国に伝えてあるので、数日以内にマギア帝国へ出発することになるだろう。
「なんとか《儀式》までには、もう一度戻りたいと思ってもらわないと…。」
それは、私もだけれど。…なんて言えるはずもなく。
「そうですね…姉様と、皇帝陛下が《儀式》に使う神器を見つけてくるまでに思い直してくださるといいんですけどね。」
それでも黙りこくっているアレクシスを見つめて、私とミハイルは深い溜息を吐いた。
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