第34話〜眠姫、周章狼狽を越えて〜
アンサスを見送った後、私が王宮内に戻ろうとしたその時
「姉様ー!!探しましたよ!!」
はぁ、はぁと肩で息をするミハイル。余程探し回ってくれていたのだろう。
「どうしたの?ミハイル?」
心配そうにミハイルの顔を覗き込むと
「…目覚めたんです…。姉様の身体…兄上が。」
私は自分の鼓動が大きくなっていくのを感じた。
「遂に…アレクシスが目覚めたのね。」
「はい。―――すぐに兄上のところへ行きましょう、姉様。…兄上が変なことを口走る前に。」
「そうね、急がないと。」
私とミハイルは急足で貴賓室に向かった。
「あ…王太子殿下、ミハイル様。」
貴賓室に着くとそこには…ガニ股で衛兵に食って掛かる私…フィーリアの姿があった。
「だから!僕は何故女性の姿になっているんだ!?―――一体、何がどうなっているんだ!!」
衛兵は何が何だか分からない様子で困り果てている。
それもそうだ。一人前の淑女がこんなあられも無い姿見せるはずがない。
私の身体でなんてことを―――。
私は沸々と怒りが湧いてきたが、必死に押さえつつ
「…御苦労だった、フィーリア嬢はこちらで引き受ける。―――ここで見たり聞いたりしたことは他言しないように。」
念のため衛兵にはそう伝え、私の身体で暴れるアレクシスを私とミハイル、2人がかりで衛兵から引き剥がし、ひとまず貴賓室の中に連れ込んだ。
「…なんで僕が目の前に…?」
取り乱していたアレクシスをどうにか落ち着かせると、ようやくアレクシスは自分の身体が目の前にいることに気付いたようだった。
「…入れ替わってしまったのよ…貴方と、私の身体が。」
私は淡々と事実を告げる。
「私…って君は…?」
「…フィーリアよ。婚約パーティの日、落雷に打たれて身体が入れ替わってしまったの…忘れてしまったかしら?」
そう言って私は、アレクシスに鏡を手渡した。
鏡を覗き込んだアレクシスは
「うわぁぁあ!!」
と大声で叫び、鏡を放り投げた。
幸い、絨毯敷きの床だったので、鏡はコト…っと小さな音を立てて床に落ちた。
「な…何故だ…何故僕がフィーリアに…?」
鏡を見せたのは間違いだったか、せっかく落ち着いてきたアレクシスは再び取り乱し始めた。
「一体どうすれば元に戻れるんだ…!」
頭を両手で抱えて座り込むアレクシス。
すると、見かねたミハイルはアレクシスの肩にそっと手を置き
「兄上…僕の話を聞いてください。」
と諭すように話しかけた。すると、アレクシスはぐるっとミハイルの方を向き
「何故そんなに冷静なんだミハイル…!身体が入れ替わってるんだぞ…!?」
と怒りと絶望が入り混じった顔でミハイルを見上げた。
「ええそうですね。―――でも僕たちは数ヶ月前に経験してますので。」
「なん…だと…。」
その一言でアレクシスは完全に思考が停止したらしい。それまで大騒ぎだったのに急に黙りこくってしまった。
…さすが弟ね。
私は、ただただ感心するばかりだった。
「―――というわけなの。だから私と一緒にマギア帝国に行って元に戻して貰いましょう。」
私とアレクシスが入れ替わったのは、落雷のせいということにして、私とミハイルはここ数ヶ月間の事と、入れ替わりを元に戻す条件についてアレクシスに説明をした。
「当然だ…!すぐにでもマギア帝国に行って戻して身体を戻してもらいたいくらいだ。」
幸い、元の身体に戻る意欲は高いようで良かった。
問題は…。
「それで?この僕がいない間、大変だったんじゃないか?」
元の身体に戻れると分かったからか、アレクシスは急にニヤニヤしながら私とミハイルに尋ねてきた。
「「大変…?何が(ですか)…?」」
私とミハイルは同時にアレクシスに聞き返した。
あまりにも息がぴったりだったので、アレクシスは少し狼狽えながらも
「何…って、そんなの王太子の仕事に決まっているだろう。―――議会の承認やら何やら僕は多忙だったんだ!フィーリアにできるわけがないだろう!」
この人は、数ヶ月間眠っていたせいで自分の行いも忘れてしまったのかしら…?
「確かに、杜撰な議会の議案を正すのは骨が折れましたね。」
と無表情で答えるミハイル。
「そうね…最終的には、あわや戦争危機まで…。」
私はうんうんと相槌を打つ。
「へ…?杜撰…?戦争危機…??」
全く話について行けないアレクシス。
「その意味では、確かに大変でしたね。」
アレクシスは、そう言うミハイルの胸ぐらを掴み
「フィーリアが!そんなことできるわけないだろう…!王太子は僕だぞ!そんな身代わりが一朝一夕でできるものじゃないんだぞ!」
と捲し立てるが、ミハイルはそんなことお構いなしに
「では他の者に聞いてみては如何でしょう。『私が眠っていた間のアレクシス様のご活躍は如何でした?』と。もちろん、ちゃんと姉様らしく振る舞ってくださいね。ここでバレるといい事ないので。」
と涼しい顔をして言った。
「ああ…聞いてこようじゃないか…!ここで待っているといい!!」
アレクシスは駆け足で貴賓室を出て行った。
「…姉様らしくって言っているのに。」
呆れ顔のミハイル。
「そうね…大丈夫かしら…?」
私たちは、開け放たれた貴賓室の扉を見つめて、肩をすくめ合った。
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