第33話〜紫玉、晶瑩玲瓏に輝きて〜
―――あれから、お父様とお義母様は、私のお母様を殺害した容疑で聴取をされているらしい。
エピスティニ家は間もなく消滅し、これからはデフテロス=エピスティニ家がエピスティニ家を名乗っていくそうだ。
「遂に、私の帰る家もなくなってしまったのね…。」
私はそう独り言を呟いた。
でも、私はいずれマギア帝国に行かなくてはならないから…むしろ吹っ切れて良かったのかもしれないわ。
それより、今できることをやらなくちゃ。
私は、次に着手する予定の政策に関する資料を読み始めた―――。
2時間程経った頃。
コンコン…
扉がノックされ、入ってきたのは従者のガリノス。
「殿下、マギア帝国大使館からお客様です。」
大使館から…?そんな予定はなかったはずだけど。
「…殿下がお忙しいようでしたらまた日を改めるそうですが。」
ガリノスも少し困った様子でそう言った。
「…分かった。通してくれ。」
私は、こういうことは後回しにしないほうが良いと思い、客人を通すことにした。
「フィーリア、急に来てすまないね。」
応接室に入ってきた客人は、マギア帝国皇帝のアンサス陛下だった。
「陛下がいらっしゃるのなら、事前に準備しましたのに…。」
「いや、いいんだ…僕が来るとなれば警備やら何やら大変だろう?だからお忍びで来たんだ。」
そう言って皇帝は、じっ…と私の顔を見つめる。
「…どうかされました?」
私が思わず聞くと
「…昔みたいに、レオって呼んでくれないか…?」
「でも…。」
私は口籠る。―――私の知っているレオは、白金の髪でも、金の瞳でもないし…皇帝でもない。
気まずい沈黙が流れる。
「…いや、良いんだ…。でもせめて僕のことはアンサスと呼んで欲しい…あと、そんなに畏まらないで。」
縋るような目でそう言われてしまうと、従わざるを得ない。私は渋々
「分かったわ…アンサス。」
と返事をした。
ぱあぁと露骨に嬉しそうな表情をするアンサス。
本当に冷徹と言われている皇帝なのだろうか…?
私が訝しがっていると、皇帝はコホンと咳払いを一つして
「それでは、本題に入ろうか…。フィーリア、君とアレクシス王太子についてだよ。」
真剣なアンサスの表情は途端に迫力がある。
いよいよか、と私も身構える。
「以前話した通り、フィーリアの身体…王太子の意識が目覚めなければ元通りにすることはできない。でも…もし目覚めたら、入れ替わりを元に戻す《儀式》をしなくてはならないんだ。」
「《儀式》…?」
私は魔法のことはあまりよく分かっていない。
そんな私の雰囲気を察してか、アンサスは
「―――一度、簡単に魔法について説明しようか。僕たちマギア帝国が使う魔法は、《魔力》と言う、個人個人が生まれ持った力と、《縛り》と言う、魔法をより強力にするために、魔法に付ける条件…のようなものによって成り立っているんだ。」
「…魔法の強さは、《魔力》と《縛り》の強さに比例するってことね。」
私がそう呟くと
「…さすがだね、フィーリア。」
にっこりと笑うアンサス。この笑顔は、確かにレオに似ているかも…。
「前にも話したけれど、この入れ替わりの魔法は、魔力を大量に消費してしまって命の危険があるから禁術とされているんだ。ましてや、他人同士の入れ替わりはね。」
「え?…それじゃあ、アンサスが私たちに魔法を掛けた時はどうやったの…?」
私は素朴な疑問をぶつける。
「マギア帝国の王家は代々膨大な魔力量を持っていてね…自分と他人なら問題なく入れ替われるくらいの魔力はあるんだ。でも、他人同士は流石に僕も魔力切れを起こすかもしれない。だから《縛り》の力を使って魔法の力を底上げしたんだ。―――【入れ替わりを元に戻す条件を厳しくする】という《縛り》を作ってね。」
なるほど、つまり…
「私たちを元に戻すには、《儀式》という、簡単にはできない方法を使うしかないということね。」
「そういうこと。」
また微笑むアンサス。
「その儀式はどうやってやるの…?」
私が尋ねると、アンサスは少し考えてから
「《儀式》はとても強力な魔法を使う時に用いられるものでね…よく《縛り》として《儀式》を行う場合が多いんだ。その《儀式》はマギア帝国にある《儀式の間》で行われる。僕は2人を入れ替えた魔法に付けた《縛り》は全部で3つある。―――1つ目が、【入れ替わりを元に戻すのは《儀式の間》で行う】こと。2つ目は、【フィーリアと王太子、どちらも真に戻りたいと願う】こと。そして、3つ目は…」
そこで言葉を切るアンサス。私は思わず
「それで…?3つ目の条件は…?」
と聞くと、アンサスはややばつの悪そうな顔をして
「3つ目の《縛り》は…マギア帝国の失われた三神器の一つ、《白金の鎖》を使用することなんだ。」
私は目を見開き
「失われた…って?」
「正確には、何代も前の皇帝が、僕たち皇族が強大すぎる力を持つことを懸念して隠してしまったんだ。―――三神器は、一つ一つが強力な魔法具でね…使い方次第ではこの世界を支配できると言われているんだ。」
「私たちが元に戻るには、その神器を探さなくてはいけないのね。」
良かったわ、今日明日に戻ってしまうわけではないのね…。
少しだけホッとしている自分がいた。
「それで、フィーリア…僕と一緒に、《白金の鎖》を探しに行って欲しいんだ。…もちろん、君の仕事が一区切りついてからでいい。」
「ええ、分かったわ。」
《白金の鎖》を見つけたら私は元の身体に戻れる…でも、アンサスが言っていた《縛り》の一つ、私とアレクシスが真に戻りたいと願う…私にはできるかしら…?
また近々話をしよう。そう言って笑顔で帰るアンサスを見送りながら、私は複雑な気持ちでいっぱいだった。
―――フィーリアがアンサスを見送っている頃、貴賓室のベッドの上で眠っていた、紫髪の美しい令嬢の瞼がピクリ…と動いた。
「―――ううぅ…。」
次第に身体全体がモゾモゾと動き出し―――瞼がゆっくりと開けられ、宝石のような深い紫色の瞳が現れた。
「―――ここは…どこだ…?」
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