第1話〜雷鳴、雲外蒼天となりて〜
『―――フィーリア、必ず僕が迎えにいくからね!』
濡羽色の黒髪と瞳、幼いながらも整った顔に、おそらく見る人全てを魅了するであろう笑み。
「レオ―――」
と私は呟き、目を覚ました。
時々見る夢。レオという少年と共に美しい泉の辺で色々な話をする夢。
この夢を見る度に、懐かしさと切なさで胸の奥がじんわりと暖かくなる。
でも彼は一体誰?
私はふと、壁際に吊るされている衣装と目が合って、一気に現実へと引き戻された。
エピスティニ家を象徴する、紫色の髪と瞳に合わせたアメジストを織り込んだドレス。
今日は、婚約発表のパーティーだ。
私は静かに、小さく溜息をついた。
私は、この国の王子、アレクシス・ヴァシリアスと婚約をしている。
とは言っても、まだ仮の婚約者であり、お互いが18歳になった年に正式に婚約を発表することになっている。それが今日なのだ。
ふぅ…
また溜息をついてしまった。
私がこんなに気が進まないのは、婚約者のアレクシスが公務を全て私に押し付けて遊び呆けているということと、―――私の妹、エリザベートと浮気をしているということが原因だ。
いっそ、誰かと入れ替わって違う人生を送ってみたい。
ぼんやりとそんなことを考えながら、暫くベッドの上で横になっていると、ドアをノックする音が聞こえ
「フィーリアお嬢様、失礼致します。」
と、3人のメイドが部屋に入ってきて、テキパキと私の身支度の準備を始めた。
「本日はおめでとうございます。とびっきり美しく仕上げますからね!」
とにっこり笑う、そばかすがかわいい若いメイド。
それよりも、私と入れ替わってくれないかしら?という言葉をなんとか飲み込み、私はされるがままに着飾られていくのであった。
私の思いとは裏腹に、あっという間にパーティーの時間になってしまった。
今回のパーティーは、国内の貴族たちのみ招待される、小規模なパーティーだそうだ。
「アレクシス様、フィーリア様、この度は大変おめでとうございます。」
代わる代わる挨拶に来る貴族たち。小規模とは言っても、公爵家だけでも30家あるので応対は忙しい。
隣を見ると、将来の夫、アレクシスは少し落ち着きがない様子でずっとソワソワしている。
流石に緊張しているのだろうか?いや、そんなタイプの方ではない。
私はそんな彼の態度がずっと引っかかっていたが、その理由が後に判明することとなった。
パーティーが終盤に差し掛かった頃、突然アレクシスが声を上げた。
「皆!聞いてくれ!!」
なんだ?どうしたんだ?と群衆が騒めき始める。
皆の注目が彼に集中したとき、アレクシスは意気揚々と話し始めた。
「本日、皆に集まってもらったのは他でもない。僕の婚約破棄と、新たな婚約者の発表をするためだ!」
私は自分の耳を疑った。婚約破棄?
貴族たちも困惑しつつ、どんどん騒めきは大きくなっていった。
アレクシスはその様子に、にんまりと満足げな表情を浮かべていた。いつの間にか彼の傍らには、エリザベートが寄り添っていて、頬を赤らめながらアレクシスに熱い視線を送っている。
そして、アレクシスは私を睨みつけながらこう叫んだ。
「フィーリア・エピスティニ、僕は君との婚約を破棄する!!」
するとその瞬間
ドォォオン―――
突然、空が割れる様な雷鳴と共に稲妻が私の目の前に落ちてきた。
私は咄嗟に目を瞑り、耳を塞いだが、あまりの轟音と眩しさに身動きが取れなかった。
どのくらい時間が経っただろうか。私はそっと目を開けた。
するとそこにあったのは、
倒れている私の姿だった。
私は茫然と立ち尽くしてしまい、身動きが取れなかった。私は死んでしまったのだろうか?
私は理解が追い付かず、動揺していると、私の右腕に腕を絡め
「アレクシス様ぁ!怖かったぁー!」
とエリザベートが涙目で訴えて来た。
アレクシス様?
そこでようやく私は自分の身体を見下ろした。
そこには、王家の正装をした、アレクシス・ヴァシリアスの身体があった。
「なっ…!」
どうやら私は、婚約者と身体が入れ替わってしまったらしい。
何故?一体どうして?
いくら考えても埒が明かないのは分かっているが、考えることをやめられない。
私が悶々と考え込んでしまっていると
「―――アレクシス様、フィーリア様は息をしていらっしゃいますが、お目覚めになりません。」
と、従者の1人がオロオロしながら報告をしてきた。
そうだ、私の身体、ちゃんと守らないと…!
「フィーリアが目覚めるまで王宮で保護しよう。手配してくれ。」
そう従者に告げ、私は今だに右腕にくっついて上目遣いに私を見つめている妹を一瞥すると、
「エリザベート、また今度…ね?」
と笑みを浮かべて優しく引き剥がすと、何を勘違いしたのか輝かんばかりの笑顔で
「はい…!アレクシスさまぁ…!」
と恍惚とした表情で私を見つめてきた。
そして、私は、他の貴族たち同様に何が起きているか把握しかねている現国王―――アレクシスの父上である、アミール・ヴァシリアスのパーティーのお開きを申し出た。
◇
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