十月三日 3
保健室で一息ついた後、授業に戻った俺は朝の疲労が嘘みたいに絶好調だった。
授業への集中は、欠伸の一つさえ出ないほど冴えに冴え。
昼食のお弁当はとても美味であり。
朝との比較か、とおるや南には「大丈夫?」と逆に心配までされてしまう始末。
今日の授業の中に、身体を動かせる体育がなかったのが残念なくらい。
流石にこんなに絶好調すぎてしまうと、九重先生のくれたタブレット型の漢方が実はやばいものだったのではなんて不安を抱いてしまいもしたが、まあ大丈夫だろうと信じることにして。
そんな快調のまま、あっという間に学校は終わり放課後へ。
元気とはいえ朝はあんなんだったんだし、一応大事を取って帰宅すべきだと理解しつつ。
それでもまだ帰りたくない程度には元気だったし、何より強引とはいえ約束を取り付けられてしまったので、帰路とは反対の電車に乗り、雅乃宮先輩との待ち合わせ場所へと向かっていた。
「ダーリン大丈夫? まだぶり返すといけないし、今日はすっぽかしてもう帰っちゃおうよ。そうしよう?」
「大丈夫だって。それより部活、休んで大丈夫だったのか?」
「体調悪いで抜けましたー。たまのお休みくらいで信頼が消える朝霧あさひじゃありませーん。ダーリンがあのヘンテコ女と浮気する方が重罪でーす」
つり革を掴みながら、隣に立ちながら、つーんとわざとらしく頬をむくれさせるアイ。
デート(笑)に誘われた旨を伝えると、アイは「危ないからアイも付いていくね」とにっこり笑顔でそう言ってからすぐ部活を休み、こうして付いてきたのだ。
まあデートなんて十中八九からかいでしかないのだろうが、それでもアイは許せなかったらしい。
昔あさひが楽しみにしていたプリンを食べてしまったときと同じ笑顔は、そういえばあさひもは本当にキレてるときは声を荒げずに怒るタイプだったなと、圧を感じつつもつい思い出してしまった。
ちなみにどうして校門とか学校の近くで待ち合わせなかったのかと言えば、雅乃宮先輩曰く「称賛は嬉しいけど注目を集めるのは面倒なの」とのこと。
まあただでさえ登校の一幕でああまで騒がれてしまったのだから、放課後に待ち合わせして一緒に帰るとか目撃されたらせっかくの好調だって萎えてしまうくらい面倒な事態になるのは明白なので、逆に助かった。
そうして電車にしばらく揺られ、空も少し茜色に染まり始めた頃。
俺達は目的地である七ヶ原駅へと到着し、電車から降りて駅を進んでいく。
間違いなく七ヶ原の街で一番大きな駅であろう、この七ヶ原駅。
この辺りの特徴と言えば、一番の楽しめる大きな商店街である七ヶ原ストリートだろう。
老若男女や外から来た外国人など、行き交う人は多種多様。
一般的に七ヶ原で最も人が多く集まるとされた、地元の人間にも親しまれる観光地だ。
まあ親しまれていると言っても、個人的にはそんなに思い入れのあるような場所でもない。
用があれば来るし、用がなければ来ない。
人の往来が多い割に出来るのは買い物か食事くらいだし、遊ぶならもう少し遠くにあるショッピングモール「セブン」や大きな公園の方が多分満足度は高い。俺にとっての七ヶ原ストリートは、そんな程度の場所だ。
まあ今日は平日の夕方ということもあり、そこまで人が多いというわけでもない。
これくらいなら観光もしやすいんだろうな。さて、待ち合わせ場所に向かうとしよう。
駅から出て、待ち合わせ場所の定番である噴水広場のベンチへ向かえばすぐに先輩は見つかる。
ベンチに腰掛け、優雅に本を読む制服姿の黒髪美少女。
まさに深窓の令嬢。凜とした佇まいと存在感は、ただ読書をしているだけなのに人の目を引いてしまう、完成された芸術品のようであった。
「……ダーリン、浮気?」
「浮気ちゃうわい」
そういうの言い出したら、アイ相手だって立派な浮気じゃないか。アホかよ。
「先輩、お待たせしました」
「来たわね夜刀神。この私を待たせるなんて何たる不遜……あら、男女の逢瀬にお付き風情が茶々を入れるだなんて、怪人の変身シーンを遮る戦隊もの並の無粋ここに極まれりね。主への忠義溢れる実現者様は、放課後もせっせと部活動に勤しむんじゃなかったのかしら?」
「お付きじゃないです、実現者ですー。朝だけならともかく、ダーリンがあんたと二人きりで街に繰り出すなんて流石に容認出来ませーん。アイが付いてくるのは当然の権利でーす」
パタンと、先輩は本を閉じて立ち上がり、開口一番にいつもの調子でアイへ皮肉をぶちまける。
バチバチと、合間に火花でも発生しそうなくらい睨み合う二人。
相性がいいのか悪いのか。気兼ねなく言い合えるのだから、まあ悪くはないのだろう。多分。
「……ま、どっちだっていいわ。それにしても……うん、顔色はましなようで結構。死んだ魚みたいな生気のない顔だったら、流石の私も罪悪感に苛まれてしまいそうだったから安心したわ。そして傷、ようやく隠す気になったのね」
「ああこれ、九重先生がくれたんだよ。そういえば先輩は傷、ないですよね……?」
「この程度、簡単なメイクでどうにでも誤魔化せるわ。けどそう、九重先生がねぇ。ふうん」
鼻を鳴らし、アイからこちらへ視線を変えた雅乃宮先輩。
顔を覗き込みながら絆創膏について聞かれたので答えると、少し考えてから納得したように頷いてみせる。
まあ先輩は俺より二年多く学校に通っているのだから、何もおかしくはないが。
それにしたってこの納得様、雅乃宮先輩と九重先生って結構深い知り合いだったりするのだろうか。
「ま、最低限は心得ているようで安心したわ。剥き出しのままなら釣りで使うルアーのように囮に使えるけど、今はいらないものまで釣る余裕なんてないもの」
「ふん、注目集めるならお前の方が適任でしょ。外で服の一枚でも脱いで喘ぎ声でも上げれば、たちまち我先にって寄ってくると思うよ?」
「あら、実現者に社会常識を。ま、それじゃあ行きましょうか。こんな下品な女は捨て置いて、しっかりとエスコート頼むわよ。ダーリン?」
「あ、おいヘンテコ女! お前いい加減ぶっ殺すぞ!」
「女の癇癪は見るに堪えないわよ? そんなに嫌ならお隣どうぞ? もう片方が空いてるじゃない?」
これ見よがしに腕へと抱きついてきた先輩に負けじと、アイもまた
左に雅乃宮先輩、そして右にあさひの姿をしたアイという、両手に黒い華を抱えたリアルハーレムな状態。
男子高校生だけならず、多くの男の夢の体現。
だというのに、本物のあさひという本命のいないせいか、どうにも虚しさと歩きづらさが勝ってしまいながら七ヶ原ストリートへと繰り出していく。
「たい焼きね。夜刀神はどっちから食べる派? ちなみに私は頭よ」
「尻尾ですね。カスタードの方が好きです」
「あ、アイも尻尾だよ! ダーリンや朝霧あさひと一緒!」
立ち寄ったたい焼きの屋台では、きのこたけのこ並に不毛な主義の押し付け合いが始まったり。
「ゲーセン! 実は一度くらい、誰かと入ってみたかったの! 行くわよ夜刀神……何その顔?」
「いや、先輩ってこういうのを低俗で野蛮な人種が戯れるだけの喧しいピコピコとか見下してそうとばかり……」
「私をなんだと思ってるの? この雅乃宮雅、人に迷惑かけるようなそう毛嫌いしたりはしないわよ」
先輩にゲームセンターへと連れられて。
アイと先輩が熾烈なゲーム勝負を繰り広げている光景を、一歩後ろからぼんやりと眺めていたり。
イアと遭遇するようなこともなく。
イアに繋がる情報へと行き着くこともなく。
ただ三人で遊んでいくだけの時間は驚くほどあっという間に過ぎてしまい、気がついた頃には夜の十九時を回ってしまっていた。
「かんぱーい!」
「か、かんぱーい」
七ヶ原ストリートにある焼き鳥屋。
チェーン店ながら、ビールの飲めない制服姿の俺達が酷く場違いに思える空間に、俺達は乾杯の声とガラスを打ち付けた音を響かせる。
結局何も起きないまま夜を迎え、解散かと思った頃。
雅乃宮先輩の提案により、こうして焼き鳥屋で夕食を一緒にするということになったのだ。
ちなみに母さんに今日は食べてくると連絡したら、急だというのに怒られることもなく。
代わりに「まだ未成年なんだからゴムなしは駄目よ」とデリカシーもクソもない返答をされてしまった。あの人、俺を何だと思ってるんだろうな。
「ふうっ、柄にもなくはしゃいでしまったわ。だけどたくさん歩いたからこそ夜の一食が引き立つ、そうは思わない?」
「……で、どうして焼き鳥屋なんです?」
「あら、人の自己紹介はちゃんと聞くものよ? 昔から好きなの、ぼんじり」
「うわ渋っ、焼き鳥好きとか実は心おっさんなんじゃないの? せっかくだしビール、ジョッキで頼んであげようか?」
「あら、冷笑は若さじゃなくて幼さの誇示でしかないわよ。……ああごめんなさい。赤ん坊同然の貴女に、人の言葉で説いても無駄だったわね。人並みに歳を積んで私が、もっと労わってあげるべきだったわね」
「あん?」
「ああ?」
「……はあっ」
正面の先輩と隣のアイ。
二人が相も変わらずガン付け合う姿にため息を零しつつ、適当に注文した焼き鳥に舌鼓を打つ。
……うん、やっぱり美味しい。タレも塩も、俺はどっちも好きだ。
それにしても、こういう店には初めて入ったが、焼き鳥というのは一本でも結構高いものなんだな。
あくまで焼き鳥と酒を楽しみに来る場で、食欲溢れる高校生がお腹を満たしに来る場所じゃない額。
割り勘だとしてもお財布に気をつけ、なるべくお腹に溜まりそうなものを食べていこう。幸い焼き鳥だけじゃなく、どんぶりや釜飯なんてのもあるらしいからな。中々に良い店だ。
「……それで、真面目な話、今日は何の目的でこのストリートへ?」
「え、別に理由なんてないわよ。初めてお見合いで互いを探り合うみたいに、お友達らしく親睦会を兼ねて遊んでみただけ」
「えっ」
「えっ?」
最後に回ってきたタブレットで注文しながら尋ねると、雅乃宮先輩は意外そうに首を傾げてくる。
てっきりあの黒い翼の彼女、イアへの手がかりを探すために街へと繰り出したのかと思っていたのだが、どうやら全然違ったらしい。
……まあ確かに、俺達は昨日今日の関係でしかない。
最後には敵対するのが確定とはいえ、一応同じ目的へ向かって進む仲間なのだから、先輩の言うように互いを知り合うのは大事なことだ。
気負いすぎていた俺の深読みか。全ての行動に意味を持たせようと勘ぐるのはあまりいいことではないし、こういう状況だからこそ、出来る限り肩の力を抜いていかないとな。
「正直な所、手詰まりなのよね。探すにしたって手がかりがなさ過ぎるし、こちらが考えなくてはいけない問題は山積み。何故うちの高校を狙ったのか。せめてそれを掴めれば、まだ絞りようはあるのだけど……嗚呼、やっぱりぼんじりは最っ高! プッルプルだけど確かに芯がある、この雅乃宮雅の人生みたい!」
「……えっと、ただ人の多い場所ってだけじゃないんです?」
「はん、安易な断言はただの思考停止でしかないわ。雅乃宮雅の流儀の一つは考えすぎずに考え続けること。常に最悪を想定しながらも、自身の思考にこだわらないよう心がけることよ」
とてもハキハキとした、サービス業が天職なのではと思えるギャル店員によって迅速に運ばれてきたぼんじり一皿。
それを来てすぐにペロリと平らげた先輩は、串の先端をこちらへ向け、俺の答えを愚かだと指摘してくる。
「行いには必ず動機がある。例え無作為であったとしても、人の意志が介在するのであれば意図の片鱗は滲み出てしまう。この七ヶ原ストリートでも、ショッピングモールセブンでも、人の多い場所はいくらでもある。その中でわざわざ学校を襲ったのなら、きっと学校を選んだ理由があるはずよ」
「……誰でも良いで人を刺す通り魔みたいに、意味なんて一つもなかったら?」
「それならそれでいいのよ。違うという情報が増えるのなら、それだけ次への材料になる。今日までを築いた先人達のように、失敗は糧にしてなんぼなんだから」
あっけらかんと、何てことなさそうにそう言い放つ先輩。
威風堂々と言ったその姿を、俺は尊敬を通り越し、眩しいとさえ目を背けたくなってしまう。
先輩の考え方は机上の空論と言えるほどに理想そのもので、そうすればいいと言葉にするのは簡単だが、きっとそれを体現出来る人間はほとんどいない。
だってそれは、転んでも自分で立ち上がれる人間だけが、前に進み続けられる人間だけが持てる発想。先輩やとおる、そしてあさひのような人間とは違う、一度でも立ち止まってしまった俺では出来ない生き方だと思ってしまえるから。
「ともあれ、私達は大っぴらに動けない。もし大立ち回りなんてすれば、例えイアを倒せたとしても、後々の自分達の首を絞めることになってしまう。一兎を追って逆に追われるようじゃ、むしろ本末転倒よ」
「うーん美味しい。で、どうして?」
「馬鹿なの? 大前提として私達は戦いの最中で、あいつは七人いる実現者の一人でしかないの。もし捜索中に他の参加者に見つかってしまえば恰好の的、獲物追う狩人から獲物へと立場が変わってしまう。前回の戦闘から推測するに前門のイア、後門の新手みたいな挟み撃ちな最悪の事態に陥ったらまず詰みでしょうね」
アイの間の抜けた疑問に、先輩は心底呆れたと両手を上げ、少し声を大きくしながら話してくる。
……そうだ。俺も声にこそ出さなかったが、イアのことばかり考えていたからすっかり忘れていた。
俺達はあくまで、この戦いに巻き込まれた七人のうちの一人。
つまり俺と先輩、そしてイアの契約者の他に、まだ四人は正体の分からない敵がこの街にはいる。そのことが、すっかりと頭から抜け落ちてしまっていた。
先日先輩が戦う前に展開していた、空間と呼ばれる何か。
アイが言うには正式名称は戦闘空間というものらしく、一般人を避けるものでしかないそれは、傷を持つ契約者や実現者ならば外からでも認知できるのだとか。
だからもし展開して戦闘している最中に、もし近くに別に違う参加者がいれば、俺達が戦いに参加する契約者だと一目瞭然で簡単に特定に繋がってしまう。先輩が懸念しているのは、そういうことだろう。
追っている最中に、新たな精力が漁夫の利狙って乱入してきても厄介。
乱入されずとも、息を潜めて観察に徹され、こちらの素性や能力を分析されても厄介。
厄介尽くめの現状、派手に動けないのは道理。
本当にもどかしい。ノーアウト満塁のピンチ、一発長打で逆転サヨナラなのに、肝心のキャッチャーが捕れないから全力で投げられないってときくらいのもどかしさだろうか。
「……まったく。お似合いのペアね、どうぞお幸せに」
……ごめんなさい。あさひだったらここまで馬鹿じゃないと思うが、まあ俺だからな。
「それで話を戻すけど、正直猶予はそんなにないと踏んでいるわ。別に自分の顔を千切って施せるような正義の味方ではないけれど、下手に後手に回って呑気していれば、盆が割れて水が溢れるくらい取り返しの付かない事態になるでしょうね」
「……どうしてです?」
「一般人から力を奪うのは何故かしら。鬱憤晴らし? 他人の幸せが気にくわない? いいえきっと目的があるはずよ。奪うのなら目的が、この戦いのいずれかに関連した意味が。同じ実現者として、あんたはどう思う?」
「んん? ……ごくりっ、意見が一致するのは本当に癪だけど、アイもそう思うよ。あいつはきっと、学校で徴収した力をアイ達との戦闘に転じさせてはいなかった。だから、きっと力を集めるだけの目的がある。戦闘にじゃなくて、何かしらの利用法が」
それであの強さとかまいっちゃうよね、と。
アイは昨日の戦闘を思い出したのか、うへーと嫌そうに顔をしかめながら、気分を変えたいと串に付いた肉数個を一息に食べきってしまう。
確かにイアは強かった。
昨日は何とか退けたが、あれは途中で相手が退いてくれただけで、あのまま続けていたらどうなっていればきっと俺達も俺達以外も無事じゃ済まなかっただろう。
そんなイアが何かを企てている。
一般人を巻き込むことを厭わない彼女が、この世の全部に絶望しているような目をしていた彼女が、何かの目的のため力を集めている。
ならば当然昨日の一件だけじゃ済まないはずで、放置すればもっと犠牲者が出てしまうはず。そしてイアの目的が達成されれば、きっとそれ以上の影響が出てしまう。それだけは避けなくてはならない。あさひならきっとそう言って止めようとするはずだ。
「それらを踏まえると、私が考えるベストは二つ。あいつの二回目の襲撃に私達が巻き込まれ、やつが人から力を奪う前に逃げ場のない状況へと追い込んで撃破する。もしくは次の襲撃前にやつの根城か契約者を特定し、夜更けにでも強襲かけて即殺する。……我ながら、どちらにしても相当な無茶言ってるわね。明日までの仕事を締め切り前日に振られてしまったときみたい、はあっ」
大きなため息を吐いた先輩は、まさに今運ばれてきたぼんじりを食べ進めていく。
……逃がさないように、か。
先輩の言うとおり、きっとそれはとてつもないほど難しいことだと、俺でさえ理解出来る。
契約者の展開できる戦闘空間の最大範囲は、昨日先輩がやっていたうちの校舎を囲むくらい。
普通の人間の喧嘩ならそれで十分過ぎるが、アイやイアのような実現者は人外の膂力と速度、能力を行使して戦闘を行う超常者達。
その気になれば戦闘の間合いから抜け出せてしまうのだから、戦闘空間に閉じ込める機能はない。ましてやイアは飛べるのだから、逃げてはならない状況に追い詰めるなんて至難の業だろう。
……ということは、やっぱりイアの契約者の特定は最善か。
この街で名前も姿も知らないたった一人を見つけ出す……本当に、そんなこと出来るのか?
「ま、その辺はおいおい考えましょう。少なくとも今夜は気にしなくてもいいことよ」
「そうそう。ヘンテコ女に同意するのは嫌だけど、ご飯時に面倒な話は勘弁──」
「お待たせしやっしたー! こちら塩ぼんじりと塩皮になりやーっす! にしても両手に花とは憎いっすねお客様! ではでは、ごゆっくりどっぞー!」
めっちゃギャル味のある店員に置かれたぼんじりの乗ったお皿に、二人の手が同時にかかる。
両者共に放す意志など欠片も見せず。
数秒の沈黙。その後、お互いに見合い、にっこりと笑みを浮かべながら、皿を引っ張り合う。
……まるで竜虎の睨み合い。
そういえば笑顔は一番の威嚇だって、昔あさひがドヤ顔で蘊蓄を披露してきたっけ。懐かしい。
「……ねえそれ、私が楽しみに待っていた塩ぼんじりなんだけど、手を放してくれないかしら?」
「ざんねーん。これはアイが頼んだダーリンのためのぼんじりでーす。理解出来たら早くその手をどけてくださーい」
「……」
「…………」
「ジャン、ケン、ポン! あいこでショ! ショ! ショ! ショ!」
互いに皿を置き、直後繰り出される同じ手。
再び運ばれてきたぼんじりを合間に、熾烈なあいこ合戦がいつまでもいつまでも続いていく。
……やっぱりこの二人、相性いいのではないだろうか。
なんか蚊帳の外で妬けちゃうな。……おっ、この皮美味しい。やっぱり焼き鳥は皮が好きだ。




