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第六話 拝啓、何一つとしておかしい事などありません

 工房長は口ひげを弄びながら、ゆっくりとその口を開く。

 「実はな、別の工房からウチに機巧士をまわして欲しいと話があってな。それで、条件を聞いたところお前が一番合っていると思って呼び出したんだ。

 ユウゴ・・・・お前その工房に行ってみる気はないか?」


 突然降って湧いたような話に、流石の俺も驚きを禁じ得ない。

 「ええ?俺、1年前この工房に来たばかりでようやく慣れてきた頃なんですけど?」

 「わかってる。ただお前、3ヶ月前に第二級機巧士資格を取ったんだったよな?

 先方の条件が最低第二級以上の機巧士なんで、ウチから出せる人材がそもそもそんなにいないのだ」


 機巧士とは、基礎教育を受けた者が1年の実務過程を経験した後、第三級から受けられる国家資格である。

 俺が持ってる第二級資格は、第三級資格を持った後3年の実務経験を経て受けられる、結構難しい資格なのだ。

 これでもオルゴン帝国との戦いによって、受けれる条件は緩和されたらしい。


 第一級ともなれば工房長クラスであり、第二級をこの若さで持っている俺は、意外と優秀であったりするのだ。

 まっ、声を大きくしては言わないけどさ。

 「あのー、その工房ってどんな所なんですか?」

 「特別軍事工房だ。詳しい内容は話せないが、先進的な竜鎧機技術の研究をしている工房だそうだ」


 特別軍事工房・・・・。確か普通の工房とは違って、軍部だか王家だかが管轄している特殊な工房だと聞いたことがある。

 「良くそんな所から話が来ましたね?」

 本当に素直な疑問が口を突く。

 「何でも、技術員で何人か辞める者が現れたようでな、どうにも人手が足りなくって困っているらしいのだ。

 本来なら、もっと厳しい審査があるのだが、今回は緊急と言うことでウチにも話が回ってきたのだ」

 どこもかしこも人手不足だな。


 「それで、場所は?」

 「マルダニ第64軍事地区」

 64軍事地区?マルダニは特別軍事地区に指定され、区画整備されているが64地区にそんな工房があるとは初耳である。


 「工房の行き方は、軍の貨物列車に乗せてくれるらしい。ウチの近くの貨物駅から、列車で最寄りの61地区駅まで行って、そこからは迎えの者が来てくれるらしい。

 ああ、お前が気にする賃金のことなら安心しろ。ウチよりは確実に高くなることは保証してやる」


 「じゃあ、行きます」

 「決断が早いな」

 頼まれごとを承諾したのに関わらず、工房長は苦笑いを浮かべる。

 「ユウゴお前、賃金以外に気にすることはないのか?」

 「仕事は金を稼ぐ手段でしょう?楽して稼げるなら文句はないですが、大変な思いをして稼ぐなら高い方が良いに決まってるでしょ」

 全くもって、当たり前のことを聞いてくる人だ。


 「・・・・お前がウチに来たとき聞いたが、確かお前が金を稼ぐのは、田舎に仕送りするためだったな?」

 「そうですよ。母が体調を崩してまして、妹もまだ幼いので」

 「そうか・・・・」

 工房長は口ひげを弄りながら何かを考えるように「んー・・」と、喉を鳴らしている。

 一体何だって言うんだか?


 「オラクと世間話をしているときに、たまたま話題に上がったのだが・・・お前養子で、母親と血のつながりはないんだろ?

 だったら何でそこまでして、血の繋がらない母親のために懸命に仕送りなんかしてるんだ?」

 何言ってんだ?このおっさん。


 「血のつながりなんか関係ないでしょ?母は体を壊してまで俺を育ててくれたんですよ。

 それこそ、血のつながりなんかない俺なんかのためにね。

 だったら稼げるようになった今、俺が母や妹のために稼ぐのがそんなにおかしな事ですかね?」


 俺が今の母さんに引き取られたのが、6歳くらいの頃だった。

 俺の父は炭鉱夫で、うろ覚えだが俺が4歳くらいの時に炭鉱の事故で亡くなったらしい。

 幼かったので、父のことはあまり憶えてはいない。ただ、なんか大きかったという思い出だけは頭の片隅に残っている程度だ。


 俺の生みの母親は、父が亡くなった後すぐ再婚をした。元から不倫していたのか、それとも生活の不安から急いで再婚したのか、今となっては知る由もない。

 ただ、再婚に俺が邪魔だったようで親戚に俺を押し付けると、そのまま男と行方をくらましたという話だ。


 親戚たちも、勝手に押し付けられた俺の扱いに困ったのか、邪魔者をなすり付け合うように俺のことを押し付け合った。

 いろんな家を転々とする日々は、幼心に苦しかった。

 “居場所がない”と、いう事がどれほど不安で心細く自分の存在を否定するか、俺は幼いながら骨身に染みるほど理解したね。


 そんな俺を自分から名乗り出て、引き取ってくれたのが今の母さんである。

 夫を亡くし、自分も不安であるはずなのに赤ん坊の妹を抱きながら、俺に居場所を与えてくれたのだ。

 自分を省みず、体を壊すまで働いて俺達を育ててくれた母親だ。


 そのおかげで、俺は働けるまで大きくなりその恩返しをすることに、一体何の矛盾があるというのか?

 なんか“新型機”まで意外と長くなりがちで、書いてる方も困ってます。

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