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第四十五話 拝啓、母さんお体にはお気を付け下さい

「目が覚めた?」


 次に目を覚ました時視界にいたのは、ピリカとルテアの心配そうな顔であった。

 「5日も眠っていたのか・・・・」

 ルテアの話ではどうやら5日間も眠っていたらしい。俺が意識を失ったあの後、暁天(ぎょうてん)の爆発に気づいた夜鴉2機は早々に退却を選んだらしい。


 その後、オルゴンの大部隊も大きな戦闘をすることなく引き返して行ったという。ルテアの話では、もしかしたらあの陽動は俺、と言うか是空を狙った作戦ではなかったかという見立てらしい。

 バロスとか言う男の口振りからも、多少そんな気配は感じられたが・・・・。


 「いずれにせよ、ユウゴさんが無事で良かったです」

 胸を撫で下ろすようにルテアが微笑む。心配してくれるのは嬉しいが、俺も少しばかり気になることがある。

 「なぁルテア、あの是空は何なんだ?新型を潰すために、大部隊を陽動にするなんて聞いたことないし、何よりあのシステム。

 竜の聖杯(ドラゴングレイル)とは、一体何のシステムだ?」


 正直あれは凄まじかった。何というか、竜鎧機と一体化したような感覚と、そして思いのままに力を(ふる)える万能感。

 実際あれがなかったら俺は、暁天にやられていたはずである。あんな物をどうやって開発したというのか?

 「それが・・・・・」

 ルテアはどうにも、言い辛そうに躊躇(ためら)いを見せる。

 「実は是空の核となる部分は、私が開発したわけではないのです」


 「・・・・どういう事だ?」

 では誰があんな物を造ったというのか?

 「私の師匠(せんせい)に当たる人が、譲ってきたのです。“もの凄い物があるから、竜鎧機を一機(こしら)えてみたらいい”と」

 そんな田舎の婆さんがくれた野菜で、料理を作るようなノリで。


 「ですから、ユウゴさんが言っていた竜の聖杯(ドラゴングレイル)なるシステムは、私の方では未確認ですし何ともお答え出来ないのです」

 未確認って・・・・・。

 「是空の戦闘データを確認すればいいだろう?」

 そもそも、是空の戦いの半分は実戦データ収集のためなんだから。


 「そうなんですが・・・暁天との戦いの記録が全て空白なんです。おそらく、何らかの事情で記録装置が止まってしまったみたいで・・・・」

 「そんな馬鹿な!」

 「き、気持ちはわかりますが、怒らないで下さい」

 怒ってはいないが・・・何というか是空の肝はあのシステムじゃないのか?いや、むしろ肝心だからこそ記録がストップしたというのか?


 「暁天の残骸や、ピリカの話から概ね事情は把握しましたが、詳細についてはわからないとしか申し上げられないんです・・・」

 そんなもんか。事情を知らないルテアを、これ以上問い詰めても何も始まらないしな。

 ベッドに倒れ込む俺の視界には、満点の星空ではなく見知った天井が映る。そうか、ここは最初に運ばれた病室と同じか。


 コンコンとドアがノックされる。顔を出したのは意外にもタグマであった。

 「あ、は、ルテアさんもいらっしゃたのですか?で、でしたら、また出直しますが・・・」

 緊張するタグマに、ルテアが和やかに応じる。

 「いえ、丁度話も終わったところで私たちは大丈夫ですから」

 いやいやいや、俺の意志とは関係なくタグマを招き入れるな!とは言え、折角見舞いに来た人間を追い返すのも気分が悪いか。

 「では、ごゆっくり」

 「じゃあまたね、ユウゴ!」


 華やかな女性と妖精は病室を去り、むさい男が二人残され気まずい雰囲気が流れる。何なんだ、この時間は。

 「すまなかった!」

 唐突にタグマが深々と頭を下げる。

 「何だ急に?」

 何が何やらさっぱりわからん。タグマの奴悪い物でも食ったのか?


 「・・・・お前のことを侮っていたこと謝罪させてくれ!あの夜のお前の戦い振り、半端者ではない本物の竜騎兵の覚悟がみえた。

 俺の考えが浅はかだった!許してくれ」

 タグマは俺の方を見ることなく、ずっと頭を下げ続けている。

 こう直球で謝られると、どうにもむず痒いというか対応に困ってしまう。別に俺とて本気で怒っていたわけではない。


 「あ・・いや、頭を上げてくれ。別にお前が謝ることではないだろ」

 「いいや!俺はお前の覚悟を知ろうともせず、上っ面の情報で軽蔑していたのだ!」

 良くも悪くも真っ直ぐというか、愚直というか。

 「わかったわかった!謝罪は受け取るから頭を上げてくれ」

 「本当か?すまなかったな!これからはアテルナの兵士として、共に故国を護っていこうではないか!」


 わっはっは、とタグマは豪快に笑う。俺とは全く違う男だ。俺ならこんな風に頭を下げることは出来ないからな。

 俺も見習うべき所が、あるのかもしれないな。

 「そうだ、ユウゴ!今起きたばかりでは、小便の方も溜まっているのではないか?」

 何故、今小便の話をする?

 「俺自身、言葉だけでは不誠実だと思ってな。医者に頼んでお前の世話を申し出たのだ」


 嫌な汗が背筋を流れる。タグマはベッド下を少し漁ると、見覚えのある特殊な形のガラス瓶を取り出した。

 「この5日間、お前の小便の世話は俺がやらせて貰ったのだ!最初は手間取ったが、今は手慣れたもの。

 さあ、心置きなくここに出してくれ!」


 爽やかなタグマの笑顔に、急に意識が遠くなる。ば、バカな・・・。まさか俺は、ずっとタグマに下の世話をして貰っていたのか?

 あまりの衝撃的な事実に、俺は意識を失いベッドに倒れた。

 「ど、どうした、ユウゴ!?発作か?何かの発作か?医者だ!急患だ、医者を呼んでくれ!」

 タグマの声が遠くに聞こえる。天気は快晴、竜鎧機に乗るには持って来いの、ある午後の出来事であった。

一区切りになります。ここまでお付き合いしてくれた方々に、心からお礼申し上げます。

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