第三十八話 拝啓、貫徹は心にも体にも良くありません
眠い・・・・。明日が夜間訓練と言うことで貫徹してしまった。いや、今日だな。朝日が眩しく徹夜を断罪するように、俺の腫れぼったい目を突き刺して来る。
昔から、徹夜すると変な罪悪感にとらわれるのは何故だろう?やはり人は太陽と共に寝起きしろと、神様が言っているのかもしれない。
などとしょうもない事を考えながら、基地内の自室へと向かう。
幸いにも基地内の部屋は一人部屋である。多人数部屋が基本だった身からすれば有り難いことだ。
「ヤッホー!早いね、ユウゴ」
部屋に向かう途中でピリカに出会う。少し前までは、何かと俺の回りをウロチョロしてきたのだが、最近は何か他の用事があるのかさっさと何処かへ消えてしまう。
・・・・別に寂しいとかではないが。
「早いと言うより激遅だな。俺は今からお休みに入る」
俺の眠たげな目を見て、ピリカが呆れている。
「夜中起き続けて、何してるのさユウゴ?人間は夜中起きていても、碌な事をしないって聞いたことがあるよ」
的を得ているが故に失敬な話だな。
「是空の調整に手間取ったんだよ。夜間訓練があるから、それまでに調整しておきたくてな」
「そういえば、今日はちょっと遅めに是空に乗るだっけ?」
初めて是空に乗ったのが夜中だったように、敵はいつ何時攻めてくるかわからない。なので、当然夜の飛行に慣れなくてはならないのだ。
竜の眼と言う、竜鎧機特有のシステムで昼と夜の差をそこまで強く感じることはないが、それでも夜特有の難しさがあり夜間の訓練は必要なのだ。
「そうだが、それが?」
「いや、ふふん・・・そうかそうか。もしかしたら間に合うかも・・・」
ピリカがひとりブツブツと何か呟いている。
「何かあるのか?」
最近の動きといいピリカの奴、何か良からぬ事でも企んでいるのか?
「ううん、別に!あー、私急ぎの用事を思い出したな、うん。忙しい忙しい!」
「ウチの田舎じゃ、“妖精が働き出したら世界の終わりの始まり”って言い伝えがあるぞ」
「馬鹿にするな!私たちだって偶には忙しくするときだってあるわ。馬鹿にするなよ!」
馬鹿にするな、を二回言ってピリカの奴はぷんすか飛んで行ってしまった。
何とも怪しい挙動ではあるが、深くは問い詰めないでおこう。世界を終わらす訳ではないしな。
流石に眠くなってきたので足早に部屋へと向かう。ただ、その自室前に思いもよらぬ人物が待っていた。
タグマ三等機士だ。
鋭い目つきで壁にもたれながらこちらを睨み付けてくる。もしかして、ずっとここで待っていたのか?・・・まさかな。
「遅かったな」
不機嫌そうにタグマが呟く。
「会う約束なんてしていたっけな?」
面会予約も無しに待たれても、こちらにも予定があり困ってしまう。何より、俺はタグマと話す理由が一つもない。
タグマの奴は通せんぼするように、でかい体で通路を遮る。俺も平均よりはデカイ方だが、タグマはそれより身長と体の厚さ、共に俺より一回り大きい。暑苦しいことこの上ない。
「ユウゴ、俺はお前に言っておきたいことがある」
「・・・・・何か?」
「俺はお前が嫌いだ」
アホらし。そんなこと宣言されなくても知っている。身構えて損した。
「わざわざ伝えに来てくれてありがとう。それじゃあ、お休みなさいさようなら」
「待て!まだ話は終わってねぇ!」
「何だよ!嫌ってるなら、話はそれで終わりだろう」
面倒くせぇ!これから寝るって言うのにとんだ睡眠妨害だ。
「お前は俺が、ぽっとでの新人が気に入らない程度に考えているのだろうがそれは違う。
俺がお前のことを気に入らないのは、お前が竜鎧機の操縦士を心から望んでいないからだ!」
「・・・・あん、どういう意味だ?」
何の話をしているんだか。
「いいか、竜鎧機の操縦士ってのは兵士の間でも花形なんだよ。みんなの憧れなんだ!正規操縦士になるために、みんな死に物狂いで訓練したてんだぞ。その憧れた操縦席に座れるように!
昔は、“竜騎兵”なんて小洒落た言い方もあったくらいに伝統と誇りある立場なんだ。なのにてめぇはそれを全く理解ってねぇ!
ノリと勢いで選ばれて、仕方なく竜鎧機に乗ってやがる。俺はそれが許せねぇんだ。みんなが憧れる竜騎兵を、操縦席を望んでないなら今すぐ降りろ。お前が望む整備兵に戻った方がお前の為だ!」
タグマが怒りにまかせて捲し立てる。タグマのつまらん話を聞くだけ聞いて、俺は「はあぁ・・・」と深いため息を吐くしかなかった。
あーあ、アホらし。
「なんじゃい、そのため息は!おのれは俺を、竜騎兵を舐めてんのか!!」
うるさい野郎だ。
「みんなが憧れてるから、俺も憧れなきゃ気に入らないのか?自発的に望んだわけじゃないから、やる気がないと言うつもりか?薄っぺらな人生観だな。お前は」
「ああん!て、てめぇは喧嘩売ってんのか」
「売ってねぇよ。いいか?みんながみんな望んだ場所で働けるわけじゃねぇだろ。
自分の適性以上に、家庭環境や周りの事情が大きく関係してくるもんだろ。俺が望んで機巧士になったって?確かに望んださ・・・ウチの田舎じゃ、それ以外現金収入の得られる仕事がロクになかったからな!
別に機巧士に憧れがあったわけじゃないが、それでも金のために精一杯働いて、それなりに稼いで仕事にも誇りも持っていたさ」
ああ、ここまで言ったらもう止まらんな。
「俺にとって大事なのは、何の職に就くかじゃない。働いて稼いで、田舎の母と妹を守ることが重要なんだ!
お前が竜鎧機の操縦士に竜騎兵とやらに、過大な誇りを持っていることは勝手だが、それを俺に押し付けてくるな!
俺にとっての誇りとは、俺の家族を守ることなんだよ。機巧士の仕事も操縦士もその手段でしかないんだ。その上で、与えられた職務で最大限の努力をしているつもりだよ、俺はな!」
「お、おい・・・・・・・」
なおも、何か言わんとするタグマを制止する。
「人にはそれぞれの事情があるんだ!誇りを持つのは勝手だが、誇りの在り方まで強要してくるんじゃねぇよ、クソ野郎が!」
もうこれ以上言っても意味はない。そう思い、タグマの横をすり抜け部屋のドアノブに手をかける。
「ユウゴ・・・・・・・」
「言い足りないなら後にしろよ。これ以上は訓練に支障が出る」
それだけ言うと、俺は部屋に入りすっかり眠気の引いた中でベッドの上に倒れ込んだ。




