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第三十七話 拝啓、竜鎧機は動いた後も大変です

 「あのさ、見てたけどあんまり是空を乱暴に扱うなよ!」

 模擬戦の後に収容された格納庫で、ご立腹なミシェラに詰められてしまう。

 「俺に言うなよ。それはタグマの奴に言ってくれよ」


 全く、どう考えてもタグマの無茶な戦い方に俺が巻き込まれてるだけだろう。

 「あのさユウゴ、そう言うけどあんたの操縦も結構荒いよ。おっとっと、こういう口の利き方は怒られてしまうかな。ユウゴ一等機士どの?」

 当て擦るようにミシェラが言う。

 「アホか。特例で就いた階級鼻にかけるほど馬鹿じゃないさ」

 「そう?一等機士といえば、軍でもそれなりの階級だと思うけど」

 ミシェラが楽しそうにケタケタ笑う。一体何が楽しいのやら。


 是空の開発チームは解散となったが、整備調整班として多くの作業員は横滑りのように、引き続がれることとなった。

 当然ミシェルもその一人。ただ多くは他の竜鎧機の整備も担っており、是空専属と言う人員は限られている。


 「あの、是空の調子はどうですか?」

 話しかけてクレンのその一人。この数週間で、クレンともようやく打ち解けてきた感がある。

 「ああ、乗るだけなら何の問題もないんだが・・・・・」

 そう、今俺達はある問題に直面していた。


 是空の性能面が、当初想定していた数値を(ことごと)く下回っているのだ。

 当初の見込みでは量産機嘉風(かふう)の性能を大幅に上回っていたはずだが、今現在測定される数字は嘉風と同程度。時に下回る事すらある。

 もちろん、装甲やその重量を動かす馬力など、嘉風を凌駕する点はいくつもあるが、想定していた性能面からするとかなり寂しい数値である。


 量産機を遥に上回る開発費を投じながらのこの数値は、開発陣にとってはかなりの問題だと思う。

 操縦士(パイロット)の俺にも少なからず圧迫感(プレッシャー)みたいなものが、ひしひしと伝わる今日この頃だ。

 俺の責任と言われても困りものだが。

 とにかく今は数をこなして、問題点を浮き上がらせるしかなく、俺は何度も何度もこの是空で空を飛んでは飛行中の出来事を、問題点として報告していた。


 「んー・・・やっぱり、足鍵盤(ペダル)の踏み込みが出力と連動していない感じがするな。あと、何度も言ってるけどスピードを上げたときのバランスのガタつきが、どうにも気になるんだよなぁ・・・」

 「9番鍵盤を上手く活用したらいけませんか?」

 「いや、推進器(スラスター)の4番鍵盤を踏みながら竜羽(りゅうばね)の7番も踏んでいるんだぞ。

 さらに9番を活用しろなんて言われてもだなぁ・・・・。その辺システムでどうにかならないのかよ?」


 何度かの飛行試験のあと、操縦士としての意見をクレンと通わせる。元々俺も機巧士なので、面倒なことを言っているのも理解しているが、気を使っていては問題が解決しないのも事実。

 「姿勢装置(バーニア)は別システムを噛んで制御されていて・・・そこのやりくりがすぐには難しいんです」

 クレンが済まなそうに頭を下げる。クレンの気持ちもわかるが、頭を下げられてもなぁ・・・という気持ちもなくはない。


 「推進器(スラスター)の出力を変えて調整してみる?」

 是空の駆動系を見ていたミシェラが一息ついたのか話に参加する。

 「いや、そうするとやっと安定してきた初速のガタつきが、またおかしな事になるだろう?」

 あちらを立てればこちらが立たずに、皆頭を抱えてしまう。


 「乗ってて気になっていたんだが、是空(こいつ)にはまだ起動してないシステムがあるんじゃないかって思うんだが、何かちょいちょい中途半端というか・・・俺の考えすぎか?」

 俺は前々から気になっていた事を、クレンに確かめる。何というか、操縦していて妙に回りくどい操作システムになっていることが度々あるのだ。

 最初は、新しい竜鎧機に慣れていないだけかと思っていたのだが、何度も操作すればするほどそのおかしさが際立ってきたのだ。


 「そうなの?」

 ミシェラは疑い半分にクレンに確かめる。

 「あの・・・正直言うと、僕も是空のシステム全容は把握仕切れていないんです。

 ユウゴさんの言うことは、僕も何となくわかるんですが、それが具体的にどのシステムかは僕にもお答え出来ないんです」

 「ええ、そうなの?だってクレンはルテアと一緒に是空の開発を立ち上げたメンバーでしょ?」


 ミシェラはかなりの驚き様だ。クレンは弁解するように言葉を続ける。

 「も、もちろんかなり早くルテア様のお手伝いを始めたのは間違いないですが、それでも是空の“心核(コア)”部分は既に出来上がっていましたから。

 僕はその心核を繋ぐ神経接続地図作成(マッピング)と、個々のシステムを繋ぐ機構格式(プログラム)の構築をお手伝いしたに過ぎませんから」


 それはそれで十二分に凄いだろうが。とは言え、そう言えば肝心の人物の姿が見当たらない。

 「ルテアは?彼女にこそ、色々聞くべきだろ」

 ミシェラは何も知らない俺に呆れるように肩をすくめる。

 「あの娘ならお偉いさんとお話中だよ。是空の扱いやら何やらで、結構揉めてるみたいだから。

 責任者ともなれば、機体の調整より人との調整の方が多くなるんだから大変だね」


 少し得意気に見えるミシェラ。もしかしてミシェラの奴、上手いこと言ったつもりか?

 何か腹立つから、ここはスルーしておくか。

 「それで、調整はどうしますか?」

 クレンが不安げに俺達を見回す。

 「・・・・出来る範囲で、調整はしておきたい。明日は夜間訓練で、今の調子だと正直不安だ」

 俺の不安にミシェラが頷く。

 「夜間訓練なら時間はあるからね。私らでやれることはやっておこうか」


 他の整備士も巻き込み、徹夜で是空の調整に入る。ただ、流石にクレンは早々に夢の中へと旅立ち、残った大人達は思いの外時間のかかる調整作業に涙したのだった。

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