第三十六話 拝啓、同僚はいつも選べない物です
「あんた達死にたいの?死ぬつもりなら竜鎧機から降りて死になさい。竜鎧機は軍の物なの。その竜鎧機を道連れにするんじゃないわよ、この馬鹿たれ共が!」
是空を降りるなり、ベリタ隊長の雷が落ちる。ガミガミと小言が続き、あまりの早口で何を言っているかわからない程立て続けにまくし立てる。
確かに模擬戦の中で危険な場面はいくつかあったが、それは俺の責任と言うよりタグマの問題だろ。
タグマの野郎が淡々と模擬戦をこなし、最後道連れにするように抱きついてこなければ、こんな事にはならなかったのだ。
「ユウゴ!貴方ちゃんと聞いているの?」
不満が顔に滲み出していたのか、ベリタ隊長のキツい視線が俺に突き刺さる。
「もちろんです!今回の模擬戦に置ける危険性は偏に、タグマ三等機士の危険行動によるものと考えております!」
「はあああぁぁぁぁ!?てめぇ、言うに事欠いて何ほざいてやがるんだ!」
まるで俺を殺さんとばかりに、タグマの眉が吊り上がる。
「本当のことだろ。模擬戦でやられる際、道連れにしてやるって叫んでたじゃねぇか!」
模擬戦の勝敗で道連れにされたんじゃたまったもんじゃねぇ。大問題だろ!
「あれは、俺の気概!決意を声に出したものだ!大体てめぇ、さっきから上官に向かってタメ口利いてんじゃねぇぞ。
俺は三等機士なんだから、三等機士“どの”って敬礼して喋りかけろ。整備士上がりだからって大目に見ねぇからな!」
この男、何を勘違いしてるのやら。
「その言葉、そのままそっくり返してやるよ。言っておくが俺は一等機士で、階級がお前より二つも上なんだよ」
「はああああぁぁぁぁ!?な、な、な、何でてめぇが!?」
俺の階級が二つ上なのが、それほど衝撃だったのか。タグマの眼球が、飛び出るほどにひん剥かれる。
「さてね、お前みたいに階級優位誇示をやる奴を見越して、階級を高めに入れてくれたんじゃないのかね?整備士を下に見る、下品な兵士も多いからな」
と、言ってやったが当然そんなことはない。
実際には新型機乗るため、と言うことは勿論だが是空を扱おうとすると、それに付随する先端技術や軍事機密にどうしても触れることもあるので、ある程度の階級があった方が都合が良い、との特例的判断からの階級である。
「ふざけるな!だ、だったらあれだ、俺の歳はお前より上だからな。お前19とか20だろ?俺は24!年上だ、年長者だ。年長者を敬え、小僧っ子が!!」
「い、イカレてんのかてめぇは?どこの世界に、階級より年齢を優先する軍隊が存在するって言うんだよ!
階級で優位誇示出来なかったら年齢だぁ?次はその出た腹で、体重優位誇示でもやるつもりか!」
「この腹の下は筋肉で覆われてんだよ!お前こそ、何だその貧相な体は。男は筋肉と脂肪で作られてんだぞ!」
「俺のは引き締まった筋肉なんだよ!見せかけじゃない、日々の労働で作られた・・・・」
「いい加減にしなさい、この愚か者共!!二人して営倉送りにしてあげてもいいのよ!!」
ベリタ隊長の怒りの鉄槌が下される。その大声に、俺もタグマも言い争いを忘れ固まってしまう。
隊長は俺達を見て、はぁ~と深いため息を吐く。
「いい?私たちアテルナ国は、オルゴン軍に西部の一部を占領され、開発工房まで襲撃される厳しい状況なの。貴方達のように、子供のような言い争いをしてる暇などないのよ!」
「子供にしては、達者な言い回しがいくつかあったかと思いますが・・・なぁ?」
子供と言われては俺も納得できず、タグマの方にも同意を求める。
「そうです、隊長殿。俺達のような言い争いを出来る子供など、そうそうおりませんぞ?いたとしても賢い方で、一般的な子供として例えるのは無理が・・・・」
タグマが言い終える前に、ベリタ隊長の殺意のこもった眼差しが突き刺さる。
「軍事裁判無しに、ここで銃殺にしてやってもいいのよ?」
「「大変、申し訳ありませんでした!」」
俺とタグマは揃って敬礼し、全力で謝罪を口にする。
「はああああぁぁぁぁぁ・・・・・」
一度目より、遥に大きなため息を隊長が吐く。そんな、魂を吐き出すようなため息をしなくてもいいのに・・・・。
「もういいわ・・・二度とこんな事がないよう気をつけなさい!
タグマは嘉風の整備点検を、ユウゴは是空の性能試験へ向かいなさい!」
「「了解しました!」」
「・・・最後の返事だけは、無駄にいいのが腹立つわ」
隊長の独り言は聞かなかったことにして、俺とタグマは各々の場所へと走って向かう。
「あ、待ちなさいユウゴ一等機士」
隊長に呼び止められた俺は、咄嗟に敬礼して立ち止まる。
「・・・貴方の乗る是空のことだけど、おそらく他の竜鎧機より同調率が大切な機体な気がするの。
だからと言って、こうしろとは上手く言えないけど・・・とにかく、その辺を気にかけて乗ってみなさい」
「助言、ですか?」
何がおかしかったのか、ピリついていた隊長の空気が少しだけ和らぐ。
「アドバイス、なんて言うほどの物じゃないけど・・・悪いわね、同調に関しては感覚的なものが多くてどうにも言葉にし辛いの」
「いえ・・・何となくわかります。出来るかどうかを別にすれば、助言として有り難く頂戴します!」
別れ際にベリタ隊長が俺の顔を見て苦笑する。
「貴方、一言多いって言われない?」




