第34話 影狼衆
「一応断っておくけど、ここで話したことは他言無用よ。機密に繋がることもあるから、ボズンやチェルタヤにも話しては駄目。いいわね?」
「・・・・了解しました」
バロスとて一角の軍人である。情に流され、ベラベラと内実を話すようなマネはしない。
「今から数ヶ月前のこと、私の耳にある情報が入ってきたわ。それは、諜報部とは違う私個人の情報ルートで、アテルナ国の新型竜鎧機に関する情報だったわ。
アテルナの新型については、前々から噂程度には耳にしていたし、新型情報自体には驚きはなかったんだけど・・・・」
「では、何が・・・・?」
新型開発以上に驚く情報など、バロスには思い浮かばない。
「それは、アテルナの新型竜鎧機にはある“特別な機構”が搭載されている、という情報だったの」
「特別な・・・システム?」
思いがけない情報に、バロスも眉をひそめる。
「そう、特別なシステム。ねぇバロス、貴方も“竜鎧機太古文明説”って聞いたことあるでしょ?」
「・・・巷に流れるオカルト話ですよね?」
「ふふ、オカルトね・・・・」
今、大陸を覆う竜鎧機にはおよそ2通りの起源説が存在している。
その一つが、100年ほど前に大陸北方で竜を狩るために、竜の死体を編んだのが始まりとされる“竜狩り起源説”があり、もう一つがそれより遥か昔にある種の高度な文明があり、その時代に造られた竜鎧機の知識が100年前に掘り出されたいう、“太古文明説”である。
学問の世界では圧倒的に、竜狩り起源説が主流で太古文明説は異端、と言うより学問の世界では真面目に議論もされていないような現状であった。
なので、バロスの反応は良識ある軍人として、正しい反応ではあった。
「実はアテルナの新型竜鎧機にはね、その太古の文明によって造られた機構が、搭載されているという情報が入ってきたのよ」
「馬鹿な!!」
思わずバロスも声を荒げてしまう。彼は太古文明説を信じていない。
そんな眉唾の情報で、今作戦が立案されたことに衝撃を受けたと同時に、尊敬するエルネがそんなオカルト話を真に受けていることにも動揺があった。
そして、エルネにそんな眉唾の情報をもたらした情報源に強い怒りが沸き上がってきた。
「・・・・何者なのですか。エルネ様にその情報を伝えた者は?」
「・・・・・・・・・・・」
エルネは答えない。だが、諜報部ではないことは先に聞いている。
「エルネ様!!」
もはやバロスの口調は、上官に対するものとは言えないくらい強くなっている。
一本気なバロスをはぐらかせないと悟ると、エルネは渋々その情報源を明かした。
「私に情報を持ってきたのは、皇帝陛下直属の私兵“影狼衆”よ」
「か・・・かげろう、ですって?」
全くの理外の名前で、流石のバロスも動揺が隠せずにいる。
影狼衆。その名前の由来は、オルゴン国建国にまで遡る。
実態としては、まさしく皇帝直属の名前の通り皇帝が最も信頼する者たちであった。彼らは時に皇帝の目となり耳となり、手となり足となり、そして剣にもなる存在であった。
オルゴンの兵士や軍人であっても、彼らの存在は秘匿とされ、一部ではおとぎ話とも言われるほどに謎の多い存在である。
そんな存在から情報がもたらされていることに、バロスはただ立ち尽くすしか出来なかった。
「彼らの言葉は皇帝陛下の言葉。彼らはアテルナの新型には古の技術が使われていると言ってきたわ。
ただ、彼らもその技術の全容は把握していないようで、出来ればその技術の内容を確認したがっていた。
彼らの言うことも含めて私は、この難しい任務を信頼する三人に任せたの。結果としては、大失敗に終わり三羽鴉には会わせる顔がないわ」
想像していたよりも遥に大きな話で、バロスは言葉を発する事が出来なかった。
影狼衆が動いていたということは、皇帝の指示と言うこと。そして何より、今までオカルトと鼻で笑っていた太古文明説が、にわかに真実として浮かび上がるこの現実に、深く揺さぶられるバロスがいた。
「さて、これで貴方に話せる事は全部。納得してくれたかしら?」
まるで揶揄うようにエルネが笑うと、バロスはただただ首を縦に振るしか出来ない。
「・・・・エルネ様はアテルナの新型、どうなさるおつもりなのですか?」
エルネの話が本当なら、放っておけばオルゴン帝国の脅威になるかもしれない。
「もちろん、このまま放っては置けないわ。夜鴉が敗れた事実も受け止め、アテルナの新型には何かしらの対処をするつもりよ。
私たちの使命とは、オルゴンの覇道に転がる邪魔な石ころを、排除する事にあるのだから」
エルネの言葉にバロスは自らの拳を握りしめる。
「ならば、私をお使い下さい!私と我が専用機“暁天”が、アテルナの新型を破壊し持ち帰ってみせましょう!」




