第33話 女傑
思ったより、オルゴン側の話が長くなってすみません。・・・おかしい、2話で済ますはずだったのに。
二人の間に僅かな沈黙が流れる。ボズンはまるで、古い記憶を呼び覚ますかのように遠い目をして、作戦のことを語り出す。
「バロスお前、この作戦がどういう作戦だったかは知っているのか?」
「はい。大まかな流れは、報告書で知っています」
バロスの知っている作戦概要はこうだ。
アテルナの新型竜鎧機奪取。ある工房で、秘密裏に造られている新型竜鎧機を手に入れると同時に、新型機開発工房を破壊してアテルナの竜鎧機開発能力を著しく低下させる作戦である。
それを任されたのが、三羽鴉で知られた特殊任務員のロンゴ、ボズン、チェルタヤの三人であった。
彼らが乗る3機の夜鴉が先行し、爆撃用爆弾を積んだ2機の雲傀が高高度から向かい、先行した夜鴉が敵方の防衛能力を排除。
その後、雲傀の爆撃で周辺施設を破壊し、新型機を奪取する作戦であった。
だが、その作戦は失敗。三羽鴉のリーダーであったロンゴが、敵新型機によって倒され戦死したのだった。
「作戦の計画段階では、アテルナの新型は起動できていなかったはずですよね?」
バロスの確認にボズンは頷く。
「俺達が甘かった部分はある。事前情報では敵新型機は同調起動できおらず、そこまで難しい作戦ではないと思い上がっていた。
しかし、実際には新型は起動しており、ひとりで新型を追ったロンゴは、そこで返り討ちに遭っちまった」
自分を責めるようなボズンに、バロスが異を唱える。
「お三方の責任ではないでしょう!これについては、諜報部の情報に誤りがあっただけじゃないですか!」
バロスの慰めの言葉も、ボズンはゆっくりと首を横に振る。
「ハハ、俺達の肩を持ってくれてんのはわかるが、そうじゃねぇ。諜報部が完璧じゃないのは、誰よりも俺達が知っているんだ。
もっと、注意深く慎重に行うべきだったんだ。それなのに・・・情けねぇ」
ボズンは肩を落としうな垂れる。
「この作戦の発案者は、エルネ金翼将・・・ですよね」
ボズンは黙って首を縦に振る。
「・・・そうだ、エルネ様だよ。俺達を信用してこの作戦を任せてくれたのに、その期待に応えられなかった。ロンゴの野郎も、あの世でそれを悔しがってるはずさ」
確かに、とバロスもそう思う。バロスの知るロンゴという男は、自らの任務に命と誇りを賭けた男だったからだ。
「ロンゴさんの遺体は・・・?」
「ないよ。夜鴉の爆発と共に消えちまって、骨すら残っちゃいないさ」
「では、お墓には・・・?」
オルゴン帝国は、兵士として戦い死んだ者には戦死者として戦死者墓地という共同墓地に埋葬される。
これは一種の名誉墓地で、これとは別に家族による個人の墓を建てる場合もある。特にロンゴの故郷は、オルゴンに併合されて20年ほど。オルゴンの名誉より、家族の結びつきの方が大事な土地柄でもある。
「ロンゴの故郷には、今まで国から貰った勲章なんかを送ったよ。ただ、年老いた両親にそれがどれだけの慰めになるかは、俺にはわからんがね・・・」
ボズンは黙って天を仰ぐ。まるで涙がこぼれるのを我慢するかのように。
バロスの足は司令室へと向かっていた。もはやボズンにかける言葉は見つからなくとも、この作戦の真意を立案者に尋ねなければ、収まりが着かなかったからだ。
“司令室”と書かれた部屋の前で一呼吸する。
バロスは、逸る気持ちを抑えて極めて冷静にノックする。
コン、コンという音を鳴らすと、速やかに返事の声が返ってくる。
「開いてるわ、用があるならどうぞ」
声の主は女性の声。凜々しいその声の主は、バロスも良く知っている人物であった。
「失礼します」
司令室にいたのは一人の女性。凜とした姿で、書類に目を通しているのがこの基地の責任者であり、作戦の立案者であるエルネ・ヴァルキーシャ金翼将である。
エルネはバロスを見るなり少し驚く。
「・・あら、バロスじゃない。貴方がこっちに来ているとは知らなかったわ」
「お久し振りです、エルネ様」
バロスはエルネに向かって敬礼をする。
バロスとエルネは旧知の仲である。元々は、オルゴン軍の末端兵士でくすぶっていたバロスを、エルネが引き上げて子飼いの兵士として使い出したのが始まりであった。
バロスは、エルネから与えられた厳しい任務を自らの実力と才覚でこなしていった。難しい作戦も、汚れ仕事のような作戦も引き受け、今の鉄翼長という地位を築きあげたのであった。
言わば、彼にとってエルネという女性は掛け替えのない恩人であり、尊敬する目指すべき上官であった。
「貴方、確か旧ベルベダ国の反帝国勢力の鎮圧の任に就いていたんじゃなかったかしら?」
旧ベルベダ国は、オルゴンの南にある併合された小国である。
「それなら2日前に鎮圧しました」
「あらスゴい。相変わらず仕事が早いのね。
・・・・それで?今日は何の用で、こんな東の基地に飛んできたのかしら」
エルネの表情は変わらない。いや、バロスを見て何処か楽しんでいる様子すらある。バロスの用件など、とうの昔に見透かしているのだろう。それでもあえて、気づかない振りをして楽しんでいるのだろう。
エルネとはそういう女だ。
「今回の、アテルナ新型機奪取の作戦について意見があります」
「そう?んー・・・どうしようかしら?鉄翼長の意見など、本来聞く必要などないのだけれど」
エルネの言葉は正論である。金翼将のエルネが、鉄翼長のバロスの意見を聞く必要など全くない。
バロスはあえて反論せず、敬礼したまま直立不動で立っている。これは彼なりの無言の反抗である。
それがわかるエルネはどうしても頬が緩んでしまう。バロスの意地の張り方は、どうにも彼女にとって“ツボ”である。
エルネは笑って肩をすくめる。
「いいわ。聞くだけ聞いてあげる」
「ありがとうございます金翼将殿!私は、今回の作戦の効果に疑問があります。
アテルナの新型如きに、今回のような強引な作戦が必要だったでしょうか?アテルナなどは、東の大国キンカラの同盟国ではあれどその実、属国程度の国でしかありません!
新型とて、キンカラからの技術提供あっての代物と思われます。
キンカラ皇国の新型なら理解しますが、アテルナの新型如きに危険を負って奪取するなど、私には過大な評価に感じられます!」
「・・・・ロンゴ上級飛士も失ったしね」
「・・・・・・・・・」
バロスはじっと前を見つめたままである。
「貴方が、ロンゴの事で憤っているのはわかるけど、過剰な仲間意識はどうかしら?
あえて言わせて貰うけど、兵士は戦死するものよ」
挑発するようにエルネ微笑む。だが、バロスとて責任ある鉄翼長である。感情で語る愚行は犯さない。
「もちろんです。兵士である以上、戦死は常に付きまといます。だからこそ我々は、無駄死にではなく意味のある戦死を望むのです!」
「この作戦が無意味だとでも?」
ここで初めてエルネが不快な感情を剥き出しにする。その声は冷たく、凍て付くような鋭さがある。
「いいえ・・・ですが中には、今回の作戦はエルネ様の手柄取りだと噂する者もいます。
私はエルネ様を信じておりますが、出来れば作戦の真意をお聞かせ願いたく思います」
根負けしたように、エルネがため息を吐く。
「・・・わかったわ。話せる範囲で話してあげる」
ちなみに階級ですが、鉄翼長は少佐。金翼将は少将くらいに考えて下さい。あしからず。




