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第三十一話 拝啓、流れで新型機に乗る運びとなりまして

 ん?んんんんん?俺の聞き間違いか?ルテア所長の口から、とんでもない言葉が飛び出たように感じたが。

 俺の戸惑いを察したのか、所長はもう一度ゆっくり喋ってくれる。

 「襲撃の夜の後、是空を回収した私たちは是空の実際の能力を調べるため、操縦士(パイロット)を乗せ起動を試みました。

 しかし、どういう訳か是空は起動せず操縦士(パイロット)を変えても今の今まで・・・・ユウゴさん、貴方が乗るまでこの是空は、一切起動することがなかったのです」


 いやいやいや、そんなこと言われましても・・・ええ、どういうことですか?

 「ま、待ってくれ!俺の拙い知識でも知っているが、一度起動した竜鎧機は同調暗号(シンクロコード)によって、誰でも起動できるはずだろ?」

 「理論上はそうです」

 説明を買って出たのはクレンである。


 「竜鎧機の同調システムは、搭乗者の精神を竜鎧機の心核(コア)と結び付けることにあります。

 竜鎧機の心核(コア)同調策定者(シンクロプログラマー)の間では“魂の座”と呼ばれ、搭乗者の精神が魂の座に辿り着くことを、一般的に“同調”と呼んでいるのです」

 何だ、同調の説明が始まったぞ?


 「ユウゴさんも経験した通り、最初の同調は竜鎧機側の“拒絶”もあるため大変で・・・と、言っても是空の場合は特別大変でしたが、基本的に困難です。

 ですが、一度搭乗者の精神が魂の座まで辿り着けば、その座標や深度を記録して、最短で魂の座まで行くことの出来る通路を作ることが出来るのです。

 その通路を回廊(ゲート)と呼び、その回廊(ゲート)を通るために必要なのが同調暗号シンクロコードなのです。

 回廊(ゲート)は、トンネルの様な物なので同調暗号(シンクロコード)という許可(パス)さえあれば、理論上は誰でも通ることが出来ると言うこと。それが、同調システムの原理となります」


 「クレンの言ってることわかった?」

 ピリカが耳元で聞いてくる。

 「んー・・まぁ、だいたいは・・・かな」

 「見栄張ってる?」

 ・・・・ピリカは俺をアホキャラにしたいようだが、こう見えて俺は第2級機巧士の資格を持った機巧士だぞ。全くわからないはずないだろうが!

 断片的には解ってるわ!!


 「えーと・・・長々説明があったが、つまりは同調暗号(シンクロコード)さえあれば誰でも乗れるって事だろ?何でそれが出来ないんだよ?」

 クレンは真っ直ぐに見つめ真顔で答える。

 「原因不明です」

 ・・・・・クレンくんさぁ。


 「原因不明だからこそ、困っているんです。

 回廊(ゲート)は正常、同調暗号(シンクロコード)も問題ないのに、誰も起動できないんです。ユウゴさん以外は」

 もう何なんだ是空(こいつ)は。


 「それじゃあもしかして、またあの大変な竜鎧機に潜るヤツをやらなきゃいけないのかよ?」

 勘弁してくれ!

 「それも不可能です」

 え、何で?

 「回廊(ゲート)自体は正常に機能していますから、新たな回廊(ゲート)を作るのは原理上不可能です。

 つまり、是空と同調するには今の同調暗号(シンクロコード)を使わざる得なく、そのコードが使えるのは今の所ユウゴさん唯ひとりだけなのです」


 ・・・・・もう、ようやく意識を取り戻したのに。何でこんな面倒な事になっているのか。

 「・・・・いや、操縦士(パイロット)も何人か試しただけだろ?他にも探せば、誰かひとりくらい見つかるんじゃないのか?」


 クレンの眼差しは清々しいまでに、俺を射抜いてくる。

 俺の復帰に言葉をかけるのを躊躇っていた、あの恥ずかしがり屋の少年は何処へやら。自分の専門となると物怖じせずに、どんどん前に来やがる。

 頼もしい限りだよ、ホント。


 「もちろん、百人二百人、千人と調べれば誰か一人くらいはいるかも知れません。

 でも、今のこの状況でその調査が出来ると本当に思っていますか?それに、是空の同調状態を見る限り、ユウゴさん以外では難しいと僕は思います」

 なるほど、理解した。色々遠回りしたが要するに、是空に乗れるのは今の所俺だけだと。

 「それで?俺しか乗れない、この是空をどうするつもりなんだ」


 ルテア所長が一歩前に出る。

 「現状のアテルナ国の戦力から言って、この是空を遊ばせておく余裕はありません。

 出来ればユウゴさんには、この是空に乗って実践データ収集に尽力して頂きたいと思っています」

 欺瞞にまみれた言い方だ。

 「実践データの収集?それって普通に戦うのと何か違うんですかい?」


 ルテア所長も思惑を隠すつもりはないらしい。

 「そうですね・・・あくまで実践データですから、通常の戦闘の中で得られるデータこそ重要と考えています。もちろん、是空の運用面に関しては最大限こちらも支援する用意はあります。

 ユウゴさん、この是空に乗ってアテルナ国のために戦って頂けないでしょうか?」


 薄々勘づいていたことを、キッパリと言葉で伝えられる。

 是空に俺しか乗れない、となった時に何となくこういう流れを察していた。その流れを回避しようと、あれこれ言ってみたがどうにも俺しか乗れないらしい。

 何の因果であろうか。


 「ユウゴ乗ってあげなよ」

 俺の隣で、無邪気な妖精が無邪気に言葉を発している。無邪気なヤツだよ。

 「簡単に言わんでくれ」

 「でも、ユウゴが乗ってあげないと是空が可哀想だよ」

 「・・・・何の話だ?」

 ピリカの言っていることの意味がわからん。


 「だって、是空自身は動かなくても良かったのに、ユウゴが強引に同調してあの地下工房から無理矢理連れ出したんじゃない!

 それなのにユウゴってば、是空に1回乗ってポイ捨てするなんて、是空が可哀想だよ!」

 え?ちょっと待って。ピリカお前、是空のこと女の子か何かと勘違いしてないか?

 「そっか・・・そう聞くと、何かユウゴに腹立ってきたな」

 ミシェラまでおかしな事言ってきやがった!


 「ユウゴは、地下工房で引き籠もってた是空を強引に外に連れ出したんだから、ちゃんと責任持って是空に乗ってあげないといけないんだからね!」

 「俺に何の責任があるのやら・・・」

 ピリカのおかしさを追求しても、何も変わらんな。

 さて、どうしたもんか。


 正直に言えば、兵士になることにそこまで抵抗があるわけではない。国の状況が厳しいのも理解しているつもりだ。

 その中にあって、この是空がどれほどの存在感を出せるのかわからないが、一つの希望であることには間違いはない。


 ひとつ気がかりがあると言えば、俺が兵士になることを母さんは喜ばないだろう。反対もしないだろうが、ただ少し悲しい顔をすると思う。

 体の弱い母に、余計な心労をかけたくはないが、オルゴンの侵攻がこのまま進めば、ウチの田舎も戦渦に巻き込まれることだろう。


 オルゴンの連中を悪魔とは思わんが、理性の外れた人間は、悪魔よりも残酷だとは思っている。

 アテルナを守ることは、家族を守ることに繋がる・・・か。


 「わかった。俺がこの是空に乗るよ」

 おおっと歓声が上がる。まぁ、技術者共はせっかく造った新型が、無駄にならずに喜ぶだろうな。

 「ありがとうございます、ユウゴさん!是空の支援(サポート)については、皆全力で支えてみせますから」

 ルテア所長の笑顔が眩しく、少しだけ煩わしい。


 ただ、これだけは言っておかねばならない。

 「ルテア所長、一つだけ条件があります。この条件を呑んで貰わないと、この是空には今後一切乗りません」

 「そ、それはいったい何ですか?」

 俺の大仰な言い方に、所長も顔を強張らせて身構える。

 別に大した条件ではない。


 「俺がもし戦死したら、母には事故死とだけ伝えて下さい」

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