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第三十話 拝啓、思ってもいない事になりそうです

 第13軍事基地は、それほど大きな軍事基地ではない。基幹となる軍事基地を繋ぐ、地方の竜鎧機の訓練を主体とする、小規模な軍事基地であった。

 だが、オルゴン帝国が俺達の国アテルナの北西部を侵略した事により、その重要度が一変する。

 第13軍事基地は、北西部からの侵攻を防ぐ前線基地を支える重要な基地となり、竜鎧機の数や物資の量が、日を重ねるほどに多くなっていった、というのが現状らしい。


 ルテア所長の話をふんふんと頷きながら、俺達は格納庫へと向かっていた。


 小規模と言っても軍事基地のため、それなりに大きさはある。空には訓練のものだろうか、竜鎧機の嘉風が3機ほど編隊を組んで飛んでいる。

 警戒の意味もあるのだろう。


 しばらく歩くと、目当ての格納庫にようやく到着した。4日振りに歩いたせいか、この程度の歩きで少し疲れてしまう。

 ただ、それがバレるのが少しだけ恥ずかしく感じ、平然な顔をして皆に付いていった。

 「ユウゴ、ちょっとしんどいでしょ?」

 不意にピリカに耳打ちされる。くっ、何故バレたのか?


 「・・・・みんなには黙っておいてくれ」

 「何で?」

 「・・・・ジジィみたいだろ」

 「ケガ人でしょ?」

 当たり前に返されて、俺は言葉に窮してしまう。

 「・・・・それでもだ」

 「ふーん、へんなの」

 確かに変かもな。時に人はおかしな見栄を張りたくなるものだよ、妖精くん。


 格納庫へ足を踏み入れると、俺を出迎えてくれたのは是空の姿だった。

 「おお・・・・・」

 思わず声が漏れる。是空の変わらぬ雄々しい姿を見て、俺はようやく肩の荷が降りたことを実感する。

 「おお、ユウゴか!目が覚めたのだな」

 是空に目を奪われていた俺に駆け寄ってきたのはガロン主任であった。


 笑って俺の体をポンポン叩き、無事であることを確認する。

 「ご心配おかけしました」

 心配をかけた謝罪と、復帰を喜ぶ感謝を交ぜながら頭を下げる。

 「はっはっは、お礼を言うのはこっちだろ。お前のおかげで是空は無事だったんだ。いずれにせよ、お前も是空も無事で良かった!」


 俺はもう一度軽く、ガロン主任に頭を下げた。視線を感じ目線を下げると、そこではクレンが恥ずかしそうにモジモジしている。

 ふむ、おそらくだがクレンも復帰の挨拶をしたいのだろう。だが、俺がクレンと話したのは是空に乗る直前の、しかもシステムの説明の時だけの関係で、馴れ馴れしく声をかけて良いのか躊躇しているのだろう。


 何となく繊細な感じだし、頭が良いのであれこれ考えてしまうのだろう。

 クレンから見れば俺も立派な大人だしな。あまり親しくない大人に子供から声かけるのは、なかなかハードルの高い事かもしれないな。と言うわけで、クレンの顔を見て笑顔でこちらから声をかけてあげよう。


 「よう、クレン。ようやくベッドから起き上がれたよ」

 「あ・・・あの、お元気そうで良かったです」

 「ああ、ありがとな。心配かけたな」

 「い、いえ・・僕は別に・・・・・」

 そう言うとクレンは恥ずかしそうに俯いてしまう。子供相手に会話の糸口を作るなんて、俺も大人になったもんだ。


 復帰を喜んでくれる皆に取り囲まれていると、ルテア所長が真面目な顔でこちらに近付いてくる。その顔に、こちらも少し身構えてしまう。

 「ユウゴさん、起きたばかりで申し訳ないのですが、一度是空に乗って起動させて頂けませんか?」

 思わぬ所長からの指示に、戸惑ってしまう。


 「是空に?何でですか」

 所長の意図がわからない。竜鎧機は一度起動してしまえば、後は同調暗号(シンクロコード)で誰でも起動出来るはず。

 ん?もしかして・・・・。

 「是空がまた、動かなかくなったりしたんですか?」

 それくらいしか思いつかない。是空(こいつ)なんか原因不明で、動かなくなるとかありそうだもんな。


 ただ、ルテア所長は答えず黙って「一度乗って頂ければいいので、お願いします」と、静かに言うだけである。

 まぁ、乗るだけならいいか。俺は襲撃の夜を越えたことで、俺の責任は果たしたつもりだからな。最悪動かなくても、それは俺の責任ではないのだ。


 それでは乗ってみますか。皆も何故か少しだけ離れた位置から見守っている。何なのだろうか、この雰囲気。

 仕方がないので、さっさと股間部にある操縦席(コックピット)乗り込むことにする。すると当然のように、ピリカも俺のとなりに乗り込んでくる。


 「ピリカ、お前・・・・」

 「何だよユウゴ!お前が乗るのに私がいなきゃ始まらないだろ」

 いや、始まるけどな。邪魔にならないならいいけどさ。はてさて、同調暗号(シンクロコード)は何処かいな・・・・?


 俺の姿を見て、携帯演算機を抱えたクレンが足早に駆け寄ってくる。

 「あの・・・同調暗号(シンクロコード)はこれです」

 差し出された画面には、12桁の数字が映し出されている。・・・多いな。量産機なら6桁か8桁でいけるだろうに。

 「えーと、・・・63・・・」

 「あの、声に出さないで下さい」

 クレンの指摘で慌てて口を塞ぐ。

 「それこそお爺ちゃんみたい」

 ・・・・ピリカめ、憶えていろ。手入力の打ち込み式なんだから仕方ないだろ。


 恨みがましい視線をピリカに向けたまま、12桁のコードを入力する。

 その直後、何か繋がった感覚に襲われる。同時に是空の瞳が光り起動を確認する。

 何だ、起動するじゃないか。拍子抜けする俺とは対照的に、周りの人達から「おお~」と、どよめきが起こる。


 「な、何だ?」

 周りの反応に戸惑う俺に、ルテア所長の口から一つの事実が伝えられる。

 「回収してから是空には、今まで5人の操縦士(パイロット)が乗りましたが、誰も起動することが出来ませんでした。ですが、これで確信しました。

 ユウゴさん、是空は貴方しか乗ることが出来ない竜鎧機になりました」

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