第二十九話 拝啓、責任者とは責任を担う者です
リド操縦士が出て行った扉を目で追っていると、「はぁ・・・・」という大きなため息が聞こえてくる。
「大変そうだったね、ルテア」
ミシェラが、同情とも労いとも取れる言葉をルテア所長に送ると、所長も疲れたような笑顔を見せて静かに頷く。
「ええ・・・・・」
そして改めて俺達の方へ顔を向けると、安堵したような顔を見せてくれる。
「意識を取り戻したようで良かったです、ユウゴさん。お体の方はどうですか?」
「ああ、はい。多少体が痛む部分もありますが、概ね大丈夫だと思います」
「それは良かった!正直言うと、無茶な起動からの戦いで、体にどんな負担がかかっていたか不安で心配していましたが・・・取り敢えずは安心しました」
「ご心配おかけしました」
俺は軽い会釈で応える。振り返ってみれば、我ながら無茶をしたもんだ。
動かない竜鎧機を起動させて、襲撃部隊の1機を倒すなんて、少なくとも機巧士の仕事ではないな。
とは言え、こんな無茶はもうないだろう。
是空は起動し、この基地に回収もされているのなら、後は正規の操縦士が上手く乗ってくれるだろう。
「しっかしリドの奴、何をあんたに突っ掛かってきてたのさ?」
ミシェラの砕けた物言いに、ルテアは気にするでもなく応対する。疑っていたわけではないが、どうやら本当に友人関係のようだ。
歳も近く同性ともなれば、上下関係の方が不自然なのかもしれない。
「ああ、あれね・・・。やっぱり、是空にユウゴさんを乗せたのが気に入らなかったみたい。それで、是空には誰が乗っていたのかと聞かれてたの」
「ん?でも、あいつユウゴを見ても気づかなかったみたいだけど・・・・」
皆の視線が俺に集まる。
「ええ、誰が乗っていたのかは秘密にしたの。リドには軍事上の機密と伝えたわ。
だってリドってば、是空に乗った人間を機密漏洩と背任の罪で、軍事告発するって言うんですもの」
はぁ!?機密漏洩と背任?一体何をどうしたらそんな話になるのか・・・。一応これでも新型機を守ったつもりだぞ!
「彼からすれば、自分が認めていない人間が是空に乗った時点で新型の機密に不正にアクセスしたのと、彼が出した爆破命令に背いて是空を起動させたことが、命令違反と言いたいのでしょうけど・・・・いくら何でも無茶苦茶だわ」
所長もすっかり頭を抱えている。
実際、これで俺が軍法会議にかけられるかは怪しいところだが、告発されればおそらく取り調べの様なことは起きるだろう。
勘弁してくれ!何で新型守って裁判にかけられなければならないんだ。称賛を求めているつもりはないが、犯していない罪で罪人扱いは我慢ならねぇぞ!
・・・・・まぁでも、世の中そんなそういうところあるよな。別に、社会が腐ってるとかそんな厭世観に浸っているのではなく、人間が作る社会制度の歪みにすっぽりハマるような理不尽さ、みたいなものってどうしても存在してしまう。
「なので、彼にはユウゴさんの事は秘密にしました。みんなにも先んじて行っておきましたが、リド操縦士に何か聞かれても私に聞くよう答えて下さい。
あと、万が一ユウゴさんの存在がバレても心配しないで下さい。全ての責任は責任者である私にありますから。
私の誇りに賭けて、何一つとして罪に問われるようなことはないとお約束致します」
ルテア所長は穏やかな笑顔で俺に語りかけてくれる。俺の心配を取り除くための配慮であろう。
「何か・・・色々面倒をかけたようで、すみません」
自分がしたことに後悔は一切ないが、色々俺のために動いてくれたことを知ると、どうにも心苦しさは感じてしまう。
俺という人間はどうしても、根が素直で誠実な男だからな。リド操縦士の厚かましさと傲慢さがうらやましいよ。
「気になさらないで下さい。こちらこそ、是空を守って頂いたのに、心配をかけるようなことになってしまって・・・・申し訳ないです」
「二人とも謝ってばかりじゃ、話が進まないだろ」
ミシェラの指摘に、俺も所長も顔を見合わせ照れてしまう。確かに、謝罪しすぎだな。
「ルテア、ユウゴに話があるんだろ?親父達もヤキモキしながら待ってるんじゃないか」
話?話とは、さっきの事とは別の話だろうか。
「そうだったわね」
所長は改めて俺に向き直す。
「あの、ユウゴさん。是空のことでお話があります。ご足労ですが格納庫までお付き合い頂けますでしょうか?」




