第二十七話 拝啓、体は大事にするべきです
目を覚ますと、見知らぬ天井が俺を出迎えてくれる。
「いつつつ・・・・」
全身が痛い。俺はどれだけ眠っていたのか?確か、新型機是空に乗って敵竜鎧機を倒して、その後なんか凄い衝撃に巻き込まれて・・・・そこからの記憶が無い。
結局、あれからどうなったのか是空は無事かここは何処なのか、わからないことだらけである。
腹も減ったな・・・・。
小さな部屋にいるのは俺一人か。全く知らない部屋ではあるが、綺麗なのが救いかな。
ここで、あれこれ考えても仕方ないか。誰もいないのであれば、起き上がって誰かを探しに行くか。
そう思ったところで扉が開いた。
「あー、ユウゴ!目ぇ覚ましたんだぁ」
入ってきたのは、妖精のピリカと機巧士のミシェラであった。
ミシェラは、持っていた花瓶か何かのガラス瓶を素早く背中に隠してしまう。
「ああ、二人とも無事だったのか」
俺よりも元気そうでほっとする。特にピリカは一緒の操縦席に乗っていたので、無事な姿に胸をなで下ろす。
「ようやくだな、いや目覚めてくれて良かったよ」
ようやく、とミシェラが言うということは、俺はそれなりに長く眠っていたのか。
「あー・・ミシェラ、俺はどのくらい眠ってたんだ?」
「え、えーと、今日で4日目だから丸3日間くらいは眠ってたかな?」
丸3日もか!・・・まぁ、そのくらいにはなるか。色々大変な事が起きたからな。寝不足もあったし。
「それでミシェラ、聞きたいことが山積みなんだが取り敢えず一体ここは何処なんだ?」
俺は周りに視線を巡らせながら、ミシェラに訊ねる。
「ここかい?ここは基地だよ。第13軍事基地の病室さ」
第13軍事基地?そうだ、確か俺が向かっていた基地がその基地だった。
「そうだよ」
ピリカが頷きながら話をつなぐ。
「敵を倒した後、ユウゴは気を失っちゃって大変だったよ!それで私が、無線で繋がっていたルテアに話して、ここまで連れてきて貰った、って訳さ」
ピリカは、自分の手柄とでも言いたげに得意げに話す。まぁ確かに、ピリカがいなかったら、気を失っている間にオルゴンの奴らに捕縛されていた可能性も無くはないのか。
そう考えると、一応感謝しておくべきか。
「助かったよ、ありがとなピリカ」
「うんうん!気にするなよ、ユウゴ!」
口ではそう言いながらピリカは実に満足げだ。
そうか、ここは基地なのか。
「そういえばミシェラ達は、作業していたみんなは無事だったのか?」
あの襲撃で、俺達がいなくなった後の工房はどうなったのか。
「みんな無事だよ。奴らも、狙っていた是空が脱出したのを知って、工房の襲撃は思ったより早く収まったよ。これも、アンタのおかげかな?ただ、まあ・・・・・」
ミシェラは少し沈んだ顔で言いよどむ。
「地上で働いていた人達には、それなりに被害は出ちゃったみたいだね」
「そうか・・・・」
深夜の襲撃とはいえ、働いていた人もいただろうし迎撃に出た兵士もいただろう。
狙いが是空であったことを考えると、その周辺で被害に遭った者がいることに、少しだけ心が痛む。
悪いのは明らかに、オルゴンのクソ共なんだが。
では、そのオルゴンの狙いであった是空はどうなったのか?
俺とピリカが、ここにいる時点で回収は出来てはいるのだろうが。
「是空は?」
ミシェラが笑って答えてくれる。
「大丈夫、ちゃんと無事に基地に回収してあるよ。ただ、ちょっと問題もあってね・・・」
問題?
「あ、いや、それは後でいいや。それよりさ、あんたが目を覚ましたらルテアの・・所長の所に連れて来いって言われてるのさ。
今回のことやこれからのこととか、色々話したい事があるからってさ」
まぁまぁ、確かにあるだろう。勢いとは言え、今日来たばかりの奴が新型に乗ったんだ。もしかしたら何らかの罪に問われるかも知れない。
それはそれで納得いかないが、それも込みで話があるのだろう。
体は痛いし腹も減っているが、嫌なことはさっさと済ませた方が気が楽だ。
「ああ、それじゃあ所長の所へ行くか」
「体の方はもういいのか?」
ミシェラが心配顔で聞いてくる。
「体は痛むが体調自体は大丈夫だよ。この痛みが引くまで待ってたら、あと何日ベッドで待つかわかりゃしない。
所長もあれやこれやで忙しいだろ。話があるならさっさと聞きに行こうぜ」
そう言って俺はベッドから立つ。3日振りに立つと痛みもあって違和感が凄い。
「ホントに大丈夫か?」
ミシェラの心配を手で制す。
「いや、大丈夫。丸3日間寝るなんて人生で初めてだからな、ちょっと足が驚いただけ」
骨折とか、大きな怪我もないのなら直に慣れてくるだろう。
「でも、ユウゴ。ちゃんとミシェラにお礼言わなきゃ駄目だよ!」
ピリカが、躾のなっていない子供を叱るように言ってくる。何の話だ?
「あ、いや、ピリカ!それはいいから」
ミシェラが変に慌ててピリカの口を押さえようとする。一体何なんだ。
何のことかわからず、ポカンとしている俺にピリカは近付き衝撃の真実を口にする。
「ユウゴが眠っている間、おしっこのお世話をしてくれたのはミシェラなんだからね!ちゃんとお礼言わなきゃ駄目だよ!」
・・・・・?・・おしっこ?
俺は光の速さでミシェラに振り向く。見ればミシェラは、気まずそうに恥ずかしそうに顔を赤くして俯いているではないか!ま、まさか!
「ユウゴがいつ起きるかわからないからって、お医者さんがおしっこ出るようにって、管通してくれたんだよ。それで、そのおしっこのお世話をミシェラがしてくれたんだよ」
直ぐさま振り向き自らのイチモツを確認する。
「あ、大丈夫。今ははずしてあるから・・さ」
ミシェラが気まずそうにフォローしてくれる。
もーーーーーー!最悪だ!生き地獄!妙な汗が全身から一気に吹き出してくる。
「最初は大変だったよね?勝手がわからなくてさ。ミシェラも初めてするって言うし、あんまり見たこともなかったって」
「い、いや・・・ホント、小さい頃親父のをちょっと見たかどうかってくらいで・・いや、私何言ってんのか」
俺もミシェラも気まずさが頂点に達している。
「でも、良かったよ。ユウゴのは大きいから、管入れやすかったってお医者さんも褒めてたよ」
何の褒めだよ・・・・・・・。
「・・・・あ、あの・・どうして医者や看護士ではなく、その素人のミシェラさんがして下さったのか?」
「いやいや、ユウゴ以上に大変な人がいっぱいいるんだよ!お医者や看護の人は、そっちで手一杯だったわけ。緊急事態なんだから、みんなで助け合って出来ることをしなきゃでしょ!」
正論!この妖精の言ってらっしゃる事は道理に適っています。俺の気持ちを除けばね!
そういえば、先ほどミシェラが背中に隠したのは花瓶ではなく尿瓶だったのか!
ああ・・・気づかなかったなぁ。考えてみればおかしいのだ。丸3日間寝ていたのに、尿意がほとんどないのだから。
いや、気づかんよ。もっと言うなら、気づいたところでどうしようも無い。もう、体の痛みは何処かに消えたが、その代わり何かどっと疲れた。
「あの・・・ミシェラさんにはとてもお世話になったようで、その・・心から感謝とお礼を言わせて下さい。
この度は、本当にありがとう御座いました」
俺はこれ以上ないほどに頭を下げる。
「ああ、いやいや・・その、気にしないでよ。私も上手く出来なくて、変にいじったり・・じゃなくて、私らが助かったのはユウゴのおかげもあるし・・お互い様じゃん!うん、だからこの話はこれでお終いにしようよ、なっ!」
「そ、そうだな!はは、ははははは!」
「うん!そうしよ!あはははははは!」
「「はははははははははははははははは」」
病室内に乾いた虚しい笑い声だけが響いている。虚無で笑う二人の人間を、妖精だけが無垢な瞳で眺めている。
「ははは、はー・・ユウゴ、ルテアの所へ案内するよ」
「はは・・・・ああ、よろしくお願いします」




