第二十五話 拝啓、何をするにも覚悟は必要です
是空の推進器は唸りを上げて、夜鴉を引き離しに掛かる。
地面すれすれを飛行しながら、安定しない飛び方で真っ直ぐに北の基地へと向かって見せる。
「ちょ、ちょっとユウゴ!危ないって!もっと高く、高度を出して翔んでよ。ひゃっ!」
衝突ギリギリで木を回避する。
「わ、わかってるって!ただ、こいつが言うことを利かないんだよ!!」
俺だって、こんなギリギリ翔びたくて翔んでる訳ではない!
この是空、とにかく操縦がクソ難しいのだ。スピードもパワーも量産機とは大違い。今出しているスピードも、量産機であれば全速力に近いスピードだが是空は違う。
潜在能力から言えば、まだまだ序の口朝飯前。スピードを上げるだけなら、足鍵盤を踏み込むだけで容易に出せる余力がある。
だが、一方で均衡装置が死ぬほど悪い!スピードを上げれば上げるほど、機体の揺れが激しくなる。
今は、手動で姿勢装置を使いどうにか機体を安定させているが、気を抜けばいつでも地面に激突できそうだ。
・・・・・正直、仕方ないことだと思う。
こういう操作系の問題は、起動して始めて浮かび上がる問題だ。今、起動したばかりの機体に完璧を求めるのは、明らかに間違っている。
むしろ、初めての起動でここまで動かせるのは凄いことで、機巧士として工房の作業員の技術の高さに感心するほどだ。
わかっている、わかってはいるがスピードが上がらない!
「ユウゴ!後ろ、後ろの上から敵が来てるよ!」
マズい、夜鴉の奴が来やがった!流石オルゴンの最新機、どんどん距離を詰めて来やがる。こちとら、高度もスピードも上がらないって言うのによ!
ヤバっ!頭上を押さえられる?
「ああ、ユウゴ!鉄砲、鉄砲くるよ!」
「報告ありがとよ!」
俺は竜機銃を避けるため、是空を左に急旋回させる。
「わわわわわわわわ!」
「ピリカ!しっかり掴まっていろ」
ダダダダダダダダと、連続で銃弾が撃ち込まれる。土埃舞う銃弾のすぐ横を、不安定な飛行でどうにか避けていく。長い尻尾が地面を叩き、それ反動でまた機体が揺れる。クソ!完全に頭を押さえられた。
ヤツが持っているのはおそらく、バムド式
40mm竜機銃だろう。
オルゴン帝国で、少し前から正式採用された竜鎧機用機関銃だ。流石に細かな性能は忘れたが、軽量化と高い連射性能そして貫通力を備えた上、何より弾詰まりの少なさからオルゴン兵士にも愛されている逸品だそうだ。
アレに撃ち抜かれた竜鎧機を、いくつ修理したことか!
「ユウゴやられっぱなしだよ!何か武器はないの!?」
「見ればわかるだろ!ないよ!あるのは最初から装備していた剣一本だけ!」
竜鎧機は基本内蔵装備は付けていない。基本が生体ベースなので、余計な仕掛けは機体性能に悪影響を及ぼしてしまう、という考え方からだ。
そして、竜鎧機の基本装備は剣と盾なのだ!異論は色々あるようだが。
しかし、起動実験や調整飛行で剣は装備していても盾は基本持つことはない。剣は備え付けでもあるが、やはり盾は大きくバランスを欠いてしまう危険があるからだろう。
なので、俺には攻撃を防ぐ盾もなく反撃する銃もないので、逃げの一択以外選択肢がない。
夜鴉は楽々と俺の頭上を押さえながら、弄ぶように竜機銃を連射する。鬱陶しいことこの上ないが、今は耐える他に方法がない。
北へ向かえば基地があるが、もしかしたらその途中で基地からの応援とも出会えるかも知れない。
夜鴉の射撃は続くが、俺は旋回やスピードの急発進でどうにか銃弾を回避し続ける。
相手が夜鴉というのも功を奏した。奴は強襲型で重火器類は装備していない。そのスピードで相手に近付き、大きな爪で切り裂いていくスタイル。
重火器で、火力に物を言わせてゴリ押しされていたら、とっくの昔にやられていた。
・・・・・・ホントにそうか?
この状況、おかしくはないか?是空のスピードは、整備の問題もあってこの速さしかないが夜鴉は違う。夜鴉は、そのスピードこそが信条の竜鎧機なのだ。
「ねぇユウゴ、基地はいつになったら着くんだよ?」
「しまった!!!!」
俺の大声にピリカの体が跳ね上がる。
「大きな声出さないでよ!」
奴の狙いはおそらく・・・・。俺は霊輪探知機を操作して、簡単な現在位置を確認する。
「・・・・・かなり北から外れて、西に流れている」
これだ!奴はワザと機銃を避けやすく撃って、俺をこちら側に誘導したのだ!
うろ覚えだが、多分この先には山々が連なっていたはず。
「つまり、奴は基地から引き離してこの先の山で俺を追い詰めるつもりだ。つまり、奴の目的は破壊ではなく、あくまでこの是空の奪取が目的だ」
「ええ!じゃ、じゃあユウゴはどうするの?」
・・・・・・腹を決めるしかない。
状況は、時間が経てば経つほど悪くなる一方だ。
「ピリカ、やるぞ」
「ええ!本気?」
本気も本気、それ以外何もない。
「もし、嫌だったらここで降ろしてもいいが、どうする?時間が無いからすぐに返事は貰うがな」
「バカヤロー!覚悟を決めた奴の前で、ひとりで逃げるなんて出来るかよ」
まったく、この妖精は度胸が据わっているのか、命知らずなのか。
「よし!ならいっちょやってみるか!」




