第二十四話 拝啓、初めてはいつでも手探りです
夜鴉は、襲ってくるでもなく珍しい物を見るように微動だにせず、空から俺達を眺めている。
空中の空中制止機能ひとつ見ても、かなり高性能な竜鎧機だ。
「ピリカ、敵が来てるなら早く言えよ!睨み合う形になったじゃねぇか」
俺の言い分が心外だったのか、ピリカは頬を膨らませ反論してくる。
「言ったじゃない、早く上見ろって!それをお爺ちゃんみたいに、“無線、無線”って探して取り合わなかったんでしょ!」
・・・・クソッ!事実だから反論も出来ねぇ。
その時、操縦席スピーカーから声が聞こえてくる。
『誰だ、誰が是空に乗っている?是空が動いたのか?いや、それより是空を爆破しろと命じたはずだ!』
この声は、おそらくリド操縦士か。
「別に、動いたんだか壊さなくてもいいじゃん。やな奴!」
俺もピリカの言う通りだと思う。
『・・・ん?その声、ルテアの周りを飛んでいた妖精の声か!どういうことだ、妖精が乗っているのか?誰だ、誰が是空に乗っているのだ。所属と階級そし・・・・プッ!』
俺は探していた無線を見つけると、面倒なので電波数を切り替える。今はあの男にかまっている時ではない。
「わわっ!どうしよう?私ってバレちゃったよ」
「大丈夫、俺はバレてないから」
「あー、ひどい!私だけ怒られるなんて嫌だからね!その時は、ユウゴも道連れだから」
「冗談だよ、わかってるって」
この間も夜鴉は、俺達に攻め込んでこない。・・・・何故だ?奴らの狙いはこの是空だろ。
もしかして・・・もしかするな。
奴ら、起動している是空に警戒しているのか。オルゴン帝国は、是空が起動していないという情報を掴んで輸送用竜鎧機雲傀を、わざわざ持ち出してきたのだ。
それが、来てみたら情報とは違い動いていて戦闘能力もわからなければ、警戒するのは当たり前か。
『・・・さん、ユウゴさん?聞こえますか、ルテアです。聞こえたら返事をお願いします』
「ルテアだ!」
「どうも所長さん、俺は今絶賛敵機夜鴉と睨めっこに興じております」
『ああ、良かった。無事外に・・・ええ!?夜鴉?あ、睨めっこ?』
流石に睨めっこはわかりづらかったか。
「ルテア所長、今敵機と1対1で相対しているんですが、どうしましょうか?」
『・・・戦闘は避けられそうですか?』
「出来れば避けたいですが、相手次第です」
当然と言えば当然のことを口にする。
『そうですね・・・まず、我々の目的は是空を無事にここから逃がすことにあります。
出来るなら今いる場所から、北に真っ直ぐ翔んで逃げて下さい』
「北に?何故」
『ここより北方向200リキロ先に、第13軍事基地があります。第一は、そこへ逃げ込む事を考えて下さい』
なるほど、軍事基地か。
「了解した」
『それと・・・・』
「それと?」
所長は少し躊躇いながら言葉を続ける。
『もし、逃げるのが無理なら是空は放棄して、ユウゴさんだけでも逃げて下さい。何かあったらまた、連絡を』
それだけ言うと、ルテア所長は一方的に無線を切った。
「・・・まったく、心遣いに感謝だな。万が一の時は、こいつを捨てて逃げていいなんてよ」
「ルテアは優しいから!」
「そうだな」
でも、そういう訳にもいかんのよ。俺はこいつを守りたくて乗ったのに、それを捨てて逃げるなんて人生の汚点になっちまう。
人生の汚点は生きる意味を失わせる。自分という価値を貶める行為だ。何より避けなければならないのは、自分が自分に失望することだ。
「そのために俺は、つまらない意地を張って生きていくのさ!」
俺が是空を僅かに動かすと、夜鴉がこちらに向けて戦闘態勢を取り始める。あちらさんも、余り時間はかけたくないか。こっちは、時間をかければかける程、応援が来る可能性が高くなるからな。
正直、戦闘は御免被りたい。あちらさんは是空の能力を知らないだろうが、俺も同じようにこいつの能力を知らないのだ。
何の笑い話だ。
ジリジリとした緊張のある空間が、一気に破られる。
こちらの守備隊竜鎧機が夜鴉に攻撃を仕掛けたのだ。
「すまん!恩に着る!!」
俺は射撃と同時に、戦場の離脱を図る。
俺は是空をくるりと反転させると、足鍵盤を踏んで推進器をフカし上げる。
「ぐうっ!?」
「きゃっ!」
もの凄い加速に体が押し潰され、是空のバランスを崩して俺は盛大に倉庫へと突っ込んでしまう。
「・・・・いたたぁ」
「もうユウゴ!何やってるんだよ!」
ピリカの言いたいことはわかるが、俺だって初めて是空に乗る中、頑張って手探りでやっているのだ。
「こいつ操作が難しいんだよ!スピードは速いし力は強いし、その上操作は繊細だしで!」
突如として、操縦席の全面モニターに“warning”の警告メッセージが表示される。
振り向けばそこには、機銃を構えた夜鴉が引き金に指を置いている。
「逃げるぞ、ピリカ!!」
「えっ、なになになに!?」
是空の翼を広げると、俺は鍵盤を踏み込む。推進器は光を上げると、全速力で離脱を試みた。
リキロはキロメートルくらいと考えて下さい。あくまで目安で。




