第十九話 拝啓、敵襲です
ガロン主任を皮切りに、続々と作業員たちが集まってくる。多少の混乱はあるものの、皆手塩にかけたこの新型をどう守るかという点では一致していた。
その混乱の中、ルテア所長が前に立ち陣頭指揮を執る。
「是空を寝かせて、落下物から守るため防護シートを張ります!それが済み次第シェルターに向かい安全を確保します。
時間との勝負です。速やかに作業に入って下さい!」
「「はい!!」」
さすが所長!この状況下でも落ち着いていてテキパキと指示を出しているではないか。
ちょっとルテア所長のこと侮っていたかもしれん。俺もシートくらいなら手伝うことは出来る。ささっと、シート張ってシェルターに避難せねば!
「その作業をやめろ!全員止まれ!!」
強い口調で作業をやめさせたその声は、紛れもなくあの男のもの。
「リド操縦士!一体何のつもりですか?」
現れたのは、リド・ダンドラム。所長の抗議を無視して、彼はその足でルテア所長の元まで駆け寄る。
「ルテア、落ち着いて聞いてくれ。これからここを放棄して、是空を爆破するんだ」
・・・・・・ん?今、何と言った。
所長も、俺同様理解が追いつかないのか呆気にとられている。
「リド?貴方、何を言って・・・・」
「聞くんだルテア!オルゴンの竜鎧機が判明した。奴らの竜鎧機は“夜鴉”
特殊強襲竜鎧機の夜鴉がおそらく3機、こちらに向かって飛んできている」
夜鴉・・・・・!
確かロドミア国攻城戦で、初めて確認されたオルゴン帝国の最新竜鎧機だ。
高い飛行能力と旋回性能で他を圧倒し、威力の高い火器と備え付けの爪で、敵竜鎧機を切り裂いたという。ロドミア国の砦を強襲から制圧して、大きな戦果を上げた竜鎧機だ。
そんな機体がこちらに向かっているということは、やはり狙いはこの工房か?
「それだけではない。それ以上に問題なのは、夜鴉の他にいる2機の竜鎧機、雲傀の方だ」
「雲傀・・・・・・?」
リドの言葉に所長だけでなく、ガロン主任も訝しげる。その気持ちは俺にもわかる。
雲傀はオルゴン帝国の輸送用竜鎧機である。輸送用竜鎧機は珍しいものではない。
鉄道や荷車で運ぶには難しい場所には、輸送用竜鎧機がよく使われているのだ。
だが、それと今回の強襲と一体何の関係があるのか?
みんなの疑問が伝わったのか、問いただす前にリドがその答えを口にする。
「雲傀には単純な輸送能力の他に、竜鎧機を単独で輸送する能力に秀でているのだ。わかるだろ、この意味が!」
竜鎧機が竜鎧機を運びながら飛行するのは、素人が考えるよりはるかに難しい。バランス崩せば墜落もあり得るほどに。
そのため国は、竜鎧機を運ぶためにそれ専用の竜鎧機を必要とする。オルゴン帝国の雲傀もその竜鎧機のひとつ。それはつまり・・・・・。
「オルゴン帝国は、この是空を鹵獲するつもりなの?」
ルテア所長から悲鳴のような声が上がる。
リドは無言で頷き肯定する。
「そうだ!おそらく奴らの目的は、この是空を鹵獲すること。それが叶わぬ場合は、この工房ごと破壊するつもりだ。
わかるだろう、ルテア!動かないとはいえこいつは、我がアテルナ国の技術の粋を集めた竜鎧機。
万が一にも奴ら、オルゴン帝国に渡すわけにはいかないのだ!!」
リドの言葉にみんなが押し黙る。ルテア所長も何かを言おうとしてるのだろうが、それが言葉にならずにいる。
見かねたガロン主任が、リドに対して掛け合ってみせる。
「お、お待ちくだされ。いきなり爆破などとは極端すぎませんか?他に何か方法が・・・」
「技術主任は黙っていて貰おう!他に方法?敵竜鎧機が迫る中で、他にどんな方法がある?万が一鹵獲された場合、貴殿に責任が取れるのか」
主任からはぐっ、と言葉を呑み込む音がする。
「とにかく、私はこれから工房内にある竜鎧機を使って時間を稼ぐ!
ルテア、君はその間にこいつに爆薬をセットして、作業員とシェルターに向かうんだ。そして避難が完了した後、こいつを爆破するんだ。わかったね」
所長は頷きも首を振ることもせず、ただ黙って俯いている。リドの方は、伝えるべき事を伝えたのか返事も待たずに階段を上がっていく。
皆の視線がルテア所長に注がれる。
所長は下唇を噛んだまま俯き、ただじっと何かに耐えている。
「・・・・・ガロン主任、人を連れて火器倉庫から角十八装甲爆薬60バキロと遠隔起爆装置を12設を持ってきて下さい」
「ルテア様!それは・・・・」
「時間がありません。ガロンさん早く・・・・」
「ちょと待ったああああ!!!」
俺も雰囲気を察して我慢していたが、ついに耐えきれなくて叫んでしまった。




