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第十一話 拝啓、新しい職場は何やら怪しい雰囲気です

 俺の新しい職場、新しい工房に到着する。

 車から降りて周囲を見渡す。前の工房と違うのは大きく違うのは、敷地の広さくらいであろうか?

 前の工房は、狭い敷地に部品や何やら詰め込んで、壊れた竜鎧機を搬入するのもひと苦労であった。


 今回の工房はそんなことはなさそうでひと安心だ。ただ、広さに比べ人気がないのがいささか不安だ。

 「ようこそ、第77特技工房へ!歓迎するぞユウゴ」

 ガロン主任が改めて歓迎してくれる。ただ、それより気になったことが一つ。


 「あ、ここの工房の名前それでいいんですか?

 なのクソ長ったらしい工房名をいちいち言うのかと思っていました」

 「あっはっは!そんなわけないだろう。アレは正式名称だ。まったく、最近の若者は愉快なことを言うものだ」

 愉快なつもりはないのだが・・・確かに俺の勘違いか。


 「ふむ・・・それでユウゴよ。工房に入る前にひとつ言っておきたいことがある」

 ガロン主任は扉の前に立つと、改まって今までとは違う真面目な声で語りかけてくる。

 その雰囲気に、俺も少しだけ背筋を伸ばす。


 「俺とサカンは若い頃、同じ工房で腕を磨いた仲間なんだ。

 苦しい時を共に乗り越えたからこそ、俺はアイツを信用しているしアイツも俺を信用してくれている。

 だからサカンの紹介したユウゴ、お前のことを俺は信用してこの工房に招き入れる。

 その事だけは胸に刻んでおいてくれ」


 俺は主任の真摯な視線に少し気圧されながら、ゆっくりと頷いてみせる。

 確か工房長も、ホントだったらいろいろ審査があるとかなんとか言っていたな。

 「あの・・・ここの工房、そんなに機密性の高い技術を取り扱っているんですか?」

 「それは俺が説明するより、自分の目で確かめてみることだな」

 そう言ってガロン主任が工房の扉を開く。


 中に入り、視界に入ってきた光景に俺は少しだけ拍子抜けする。


 そこに並んでいたのは、量産型竜鎧機“嘉風(かふう)”であった。俺が前の工房で修理した同型機。

 壊れているでもない嘉風の側には、嘉風には不釣り合いの大型推進器(スラスター)姿勢装置(バーニア)類が置かれ、機巧士たちがあれこれ言いながら一心不乱に作業している。


 なるほど。これは“専用化”か。

 俺も前の工房で、少しだけやった経験がある。一部の撃墜数の高い竜鎧機を、その乗り手に最適化して戦闘能力を高めようとする処置のことだ。

 量産機を搭乗者の好みに合わせスピードやパワー、装甲や火力を底上げするのだ。


 ただこれは、確かに技術力が求められる仕事でもある。

 量産機は量産を前提にしているため、性能のバランスが取られ整備もシンプルに造られているが、専用化は良くも悪くもそのバランスを崩してしまう。

 性能が先鋭化(ピーキー)になってしまうのだ。


 この専用化は、兵士や技術者の間でも意見が分かれているという話だ。

 賛成派は専用化という改修だけで性能が上がり、戦場での撃墜数や搭乗者の生存率の向上と戦場全体の影響力を主張している。


 一方の反対派は賛成派が主張するほどの効果はなく、専用化するくらいなら量産機の修理と増産をした方が、はるかに効果的だと主張している。


 俺としては、どちらの言い分も頷くところはあるという立場。どっち付かずとも言えるがね。

 いずれにせよ、主任が脅かすようなこと言ったので身構えたが、専用化改修であるなら俺にも経験がある。


 求められる技術は修理よりも専門性が増し、高い技術力と応用力の求められる職場である事は間違いない。

 俺が工房内を見渡し、機巧士たちの仕事ぶりを観察していると、主任はさっさと進んでいってしまう。

 慌てて後を付いていく。


 「ガロン主任、この改修作業今日から参加すればいいんですか?」

 俺の質問に主任は振り返ることなく、言葉のみで返答をする。

 「いや、専用化はこの工房の仕事のひとつだが、お前に任せたいのはこの仕事ではない」

 主任はツカツカと止まらず進み続ける。


 はて?まさか今更、雑用係のようなイジメみたいなことは流石にないだろうが、他の仕事と言われても見当がつかない。

 俺の不安をよそに、主任は黙って歩き続け奥まった重そうな扉の前で立ち止まる。


 「この先がお前の、そして俺達の仕事場だ。覚悟はいいな?」

 覚悟を問われても、ここから帰る選択肢などあるはずはない。

 主任の手で重い扉が開かれる。そこにあったのは地下へと続く長い階段であった。

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