第5話 絶望
朝、ありがたいことにメシをご馳走になり
シーソング石窟を目指して出発した。
地図ではここになっているんだが、何も見当たらない。
困ってウロウロしていると、近くに下りの坂道があり、そこから地図の場所に行けそうだった。
また新しい敵がいた。
確か...ボギー、だったか。
黄色くて半透明で少し光を放っていて、ふわふわ飛んでいる。
自分があいつに勝てるのかわからないが...やってみるしかない!
一番近くにいるヤツに切りつけた!
相変わらず痛いが、なんとかなりそうだ。
1匹倒してから恐る恐る石窟の中に入ったが、向こうから仕掛けてくる様子はない。
2〜3回で倒せたので、これ以上やる必要もないだろう。
それより、目の前にそびえ立っている石板の大きさに圧倒される。
ゲーム内でももちろん見ていたが、こんなにデカかったのか...
「私は支える波であり 私は導く風である」
背中からきこえる、つらつらと石板を読んでいる声...
これは、まぎれもなくヤシュトラだ...!!
ヤシュトラとは、ゲーム内において、最重要とも言えるようなキャラクターだ。
おれは恐る恐る振り返った...
やっぱり、ヤシュトラがいる!!
しかし、話の流れ上、おれは赤の他人のふりをしなければならない。
「あんた、これが読めるのか」
「ええ、船乗りたちの鎮魂歌ね」
そんなことを言っていると、でかいモンスターが入り口から向かってきているのに気がついた。
グーブゥーだ!
またしてもデカい!!
「倒すわよ! 回復してあげるから離れないで!」
攻撃するが、効いている様子がない、大丈夫なのか、もっとレベルを上げておけばよかったか!?
何か気配を感じて振り向くと、またモンスターがいる、次は2匹だ!
「こっちはわたしが引きつけるわ!
あなたはそっちをお願い!」
こいつも強かったら...とふと不安になるが考えてもしょうがない。
「おらぁっっっ!!」
気合いを入れて切りつけたが、こちらは普通のモンスターのようだ。
しかし、後から後からモンスターが寄ってくる。
「この子、少しおかしいわ。この子の気配に惹かれてモンスターがどんどんやってくるみたい、気をつけて!」
おれは必死で切り掛かる。
そうしてるうちに、もう1人戦ってる奴がいるのに気づいた。
おかげでなんとか持ち堪えている。
早く片付けて、グーブゥーを倒さなくては!
雑魚が片付いたので、振り返った瞬間、グーブゥーは地面に沈んだ。
「ふぅ...なんとかなったわね。
一時はどうなるかと思ったけれど...
あら?あなたは?」
ヤ・シュトラの視線は、もう1人の人物に向けられている。
「あたしはウィロー。
ギルドで、仕事を依頼した人が帰ってこないから様子を見てきてほしいって依頼を受けたの。
そしたら、サマーフォードで受けた依頼からまだ戻っていないっていうから、気になって見にきたのよ。
でも...2人だったの?
心配することなかったみたいね」
「そうじゃないわ、ここでたまたま出会っただけ。少し話していたら、すぐあの子が現れたのよ。」
ヤ・シュトラはグーブゥーの身体を触っている。
「あった。この子が変だったのは、これのせいよ。船乗りがよく使っているナイフ。あなたはこのナイフを依頼主に見せて、海賊らしき者が暗躍していると注意を促すことね」といいながら、おれにナイフを渡してきた。
「ありがとう、おれはティア。ラタトゥ ティアだ。
たすかったよ」
「わたしはヤシュトラ。しかし、人攫い達が消したかったものは、私たちだったのかしらね?
...て、ちょっとあなた!」
ウィローがふらっと倒れてしまった。
ちょっと待て。
おれは慌てて周囲を見渡した。
光のクリスタルがない。
話通りに行くと、ここで「おれが」倒れるはずだ。
そもそも、ここで誰かの助っ人なんてない。
おいおい...
おれは光の戦士、じゃないっていうのか?
おれじゃなく、こいつが!?